《космос》の二人
高層ビル。
最上階。
静かな廊下が続いている。
整備された塵一つないシンプルな廊下。足音は反響し、コツコツと鳴り響く。
ネルアの上司であったケシェニカは歩いていた。
酷く怪訝な表情。オールバックの黒青の髪に鳥の翼のようなものが顔の両端にある人外。
筋肉隆々な肉体、肉体は燻んだ緑色と白色の異色肌。
彼の足は部屋の前でピタリと止まる。ノックもなしに扉を強く掴んだ。
壊れかけるほどの力を込めて思い切りスライドさせる。扉は勢いよく開かれ、レールの終点でガンッ! と音を鳴らせた。
部屋の中には男が一人。扉からの大きな音が鳴ろうとも机に手を組んだまま微動だにしない。
男は特徴的なソフトハットを深く被っていた。加えて暖かそうな紫色と黒が入り交じったバイカラーコートを着用している。
服装だけで見ればかなり個性的。それらを着飾り、静かに席へと着いていた。
「相変わらず暑そうな格好で見てらんねぇ」
ケシェニカの格好は帽子の男と対称的である。ケシェニカは自身の羽毛と筋肉を服としていた。普段から上裸で過ごしている。
男はケシェニカの言葉を分かりやすく無視をする。
男の無視という受け流しがケシェニカの短気のスイッチへと簡単に触れた。
ケシェニカは本能的なまま腕を振り上げる。
ドンッ、と机は大きく叩かれた。
次第に机にはミシリと音が鳴る。力の加わった中心部から亀裂が入った。
「ソゾン、さっさと要件を吐け」
帽子の男、ソゾン。彼もケシェニカと同様、《космос》の一員である。彼らは強い特権を持つ政府公認の独立機関だ。
ソゾンの帽子からは一枚の布があり、顔を隠していた。顔の周りには一つの線の円がある。それは紫色で宙に浮かぶ。土星の環を思わせる。
ソゾンは静かである。
しかし、組んでいる手には力を入れ、見えない唇を噛みしめていた。
「わたしは怒っているのだよ。あの個体を勝手に放ったことに」
淡々と怒りのこもった言葉が紡がれる。
「あの個体? なんのことだ」
ケシェニカは見下しながら疑問を浮かべた。
ソゾンは腕を動かし、床に置かれた荷物の中から大型封筒を取り出す。
先程の衝撃により、傷のついた机。その上にバサリと投げ捨てるように封筒は置かれた。
ソゾンは顎で指し示すように『見ろ』と合図する。
「チッ」
ケシェニカは舌打ちをした。分かりやすく、大きな侮蔑を込めて。
嫌々そうに、強く握る。シワをつけつつも封筒の中身を確認する。
「………………ネルア?」
書類の中にはネルアの顔写真が一枚。加えてありとあらゆる検査資料が同封されている。
「ネルアを勝手に野放しにしたことに、わたしは怒っているのだよ」
ソゾンは冷静に激怒を語る。
「あぁ? 意味が分かんねぇ」
「ケシェニカよ。何故あの個体を手放した」
「いらねぇって判断したからだ。おれの判断でな。あいつの母親の媚びにも飽きてきた」
ソゾンは帽子のツバを握り、顔をさらに隠す。その動作は呆れを表す行為だった。
「それだけか? アレの心臓装置に触れたのではないのか」
ソゾンの声量はどんどん大きくなっている。表情を見せない代わりに声色で機嫌がわかりやすい人外である。
「それだけだ。装置? なんだそりゃ──────────」




