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握手

 ネルアはヤーシャに昨日までの経緯を話す。どういう形で解雇されたのか、親への失望された状況、そして自殺未遂。それらを含めて昨日のことを簡潔にはっきりと述べる。

 紆余曲折ある話の内容にヤーシャはアワアワし、落ち着かずに両の手で手遊びを始めた。


「まってネルア君。その、ええと……なんでキミの親がクビになったことを知っていたの? 連絡いってたとしても変じゃない?」

 ヤーシャはネルアに頑張って問いかけた。

「それについては…………分かりません」

 少しばかり重い空気が淀む。ヤーシャは怖がりつつ口を開いた。

「君はどうやって警官になったの?」

「どうって……別に普通にですよ。試験を受けて合格して。家は貯金も少ない母子家庭で……いつも母上を通して知らせを受けて─────」

 ヤーシャは汗を浮かべてしまう。その表情にネルアは疑問を持つ。

「そ、それってコネじゃない……?」

 ネルアは眉を(ひそ)める。疑念を示すように首を傾けてレヴィの目を見た。

「コネ? (うち)にそんなお金はありません」

「だからもっとプライベート的な……」

「プライベート?」

「そのっ……()()()な」

「は?」


 パリンッ、とガラスの割れた幻聴がネルアの中で響いた。

 猛烈なグチャグチャとした感情がネルアの脳内に引き起こされた音である。それらは瞬間的に負の感情へと結びつき、ドロドロとしたものへ変わっていく。

「そ、そんなわけありません!!」

「でもその上司と親に裏切られたって」

 ネルアは言い返す言葉が見つからず、下唇を強く噛んだ。そして黙った。

「な、なんか可哀想……大変だったんだね」

 ヤーシャはネルアの話を聞いてから、少しだけ気分が和らいでいた。感情移入し、心配が勝ち、一気にネルアへと距離を詰める。ふんわりと背中を(さす)ってヤーシャの目元は涙ぐんでいる。

 よしよしと背を触れられていることにネルアは気づかない。それほど、ネルアの自律神経は一気に狂い始めていた。


 ネルアの脳で嫌な想像が度を超えて映像化していく。

 ケシェニカという上司と己の母は繋がっていた。肉体的に。ネルアの母はネルアを通して己の世間体を気にする性格だった。だから、行動した。強い特権を有した《космос(コスマス)》である彼に取り入った。

 点の情報からこれらの事実が繋がっていく。

 まだネルアのための母の献身的な行動なら良かった。けれど失望された事実がある。母がネルアにしてきた行動は私利私欲のためだ。

(そんなことって)

 二人はネルアを罵倒した。しかし、その裏では交じり、喘ぎ合っていたのではないだろうか?

 加えてケシェニカはネルアの腹、顔、腕、足という身体のほとんどを殴った。その手で母の裸体に触れ、抱き合っていたのではないだろうか? 

 ネルアの想像はストレスとなった。そして吐き気へと繋がっていく。

 口元を抑える。

 膝が落ち、床に手をつく。

 その様子を見たヤーシャは『どうしよう、どうしよう』と医者らしい判断を下せなかった。


 レヴィが椅子から立ち上がる。

 ネルアの前で腰を下ろし、片膝をついた。


「言ったろう。力になると」


 レヴィは目線を合わせて告げる。

 左手を伸ばし、ネルアの右肩に触れる。


「大丈夫。これからはお前の気が済むように生き様を掲げろ」


 ネルアは涙目だった。彼の落ち着いた低い声色で吐き気は(おさま)っていく。


「あ、あ゛りがとうございます……」

「今日はもう休め。病院の空き部屋を使うといい。この先もな。お前は職員兼患者の身なのだから」

 ネルアは立ち上がる。レヴィも立ち上がった。

「オレもレヴィさんの力になれるよう頑張ります!」

「頑張らなくていいさ」

「いえ! 頑張りたいんです!」

「そうか」

 レヴィからしてみればネルアは目的のために【因果支配権(ドミニエレン)】を護衛する立場だった。対しネルアは彼のカリスマ性の虜となりお仕えしたい、護衛者(ボディガード)になりたいと願っていた。

 レヴィは緩く微笑む。 


「空き部屋まで案内するよ」

「はい」


 ネルアが返事をした時、ヤーシャの姿はなかった。モニターに映し出される診察室に彼は映っていた。レヴィが転移させたのだろう。

 そう思いつつ、二人で部屋を出る。

 そのまま階段を使って一階へと上がる。

 部屋の位置、それから病院の配置を分からせるための歩行である。


 ネルアは二階の角部屋へと案内される。そこは個室だった。

 部屋は相変わらずの黒い部屋。目立つように鉄のベッドや銀色の小さな冷蔵庫が置かれている。

 ネルアは部屋を舐め回すように隅々まで調べた。

 部屋には鉄の机、エアコンからクローゼット、トイレに浴室も備え付けられている。

 小さい病院ではあるが設備がしっかりしている。 ネルアは素直に嬉しがった。

「ネルア」

 レヴィの声にネルアは振り返る。

 レヴィは左手を前に出した。

「よろしく」

 そこには悠然とした笑みが合った。その表情はネルアの心を惹きつける。

 ネルアは両手を出す。

 レヴィの片手を包み込むように握る。強く握る。

「はい。よろしくお願いします」


 ネルアによるハーオス病院での生活が幕を開けた。

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