47.うさぎさん
太陽が高く昇っている。
カラッと晴れた天気で、肌に当たる風が心地よい。
草原の真っただ中に石畳の道が伸びており、右手に森林が広がっている。
馬車が5台列をなして街道を進んでいる。
「ふぅ・・・良い天気だな・・・」
ひろとは、馬車の後ろ5mほどのところをゆっくりと歩きながら、マントのボタンを一つ外して緩めた。
隊商の護衛の依頼任務。
シコシコの街を出て、1時間くらい経っている。ここから夜までに北にあるドッピュン村に一泊し、次の日にパコパコの街まで無事に連れていくのが任務の内容だ。
センスィ、ケンスィ、マジーの冒険者3人組は、それぞれ前方と側方に陣取っている。
護衛は自分を含めて4人。
この周辺では盗賊などは真昼間からは出没しないそうで、主に最近増えているモンスターの襲撃から隊商を守るのが主な仕事だそうだ。
「天気も良いし、眠くなってくるわ・・、って、ん?」
ひろとは、ドドドドという物々しい音が聞こえ、周囲をキョロキョロと見渡した。
「・・・ん?いた!なんだ?イノシシか?」
100mほど離れた草原の向こうからイノシシが一直線にこちらに突っ込んで来るのがみえた。
元の世界のものより、ふた周りくらい大きい。
「おい!マジー!イノシシがこちらに向かって来てる!」
「わかってる!やつの動きを止めてくれ!馬車に近づけるなよ」
隊商の右側面にいたローブ姿の魔法使い、マジーも、接近に気づいていたようでこちらに向かって走りよってきた。
「イクぜ!スク水ガード!」
ひろとはマントを脱ぎ捨て、スクール水着姿になり防御スキルを唱える。
クマの顔の形の盾を構えてイノシシの前にに立ち塞がった。
「ふんぬ!」
強烈な突撃音がすると同時に、ひろとは1mほど後ろに吹き飛ばされた。
「炎の玉!」
イノシシの突進が、止まった瞬間マジーは杖から火球を放出する。火球がイノシシに直撃し、イノシシはたまらず地面を転がる。
「今だ!おらあ!」
ひろとは、この隙を逃さずサーベルでイノシシの喉のあたりを狙って数度切りつけた。
「はあはあ・・・やったか?」
イノシシが喉の辺りから血をダラダラと流しながらうめいているが、まだ生きている。
「トドメだ!炎の玉!」
マジーが炎の魔法で火だるまにすると、やっとイノシシは動かなくなった。
「おーい、大丈夫かー!」
センスィが前方から、こちらの様子に気づいて駆け寄ってきた。
3人組のリーダーで髭を蓄えた男だ。
「マジーの魔法のおかげで楽に戦えたよ!」
「そうか・・・そりゃ良かった・・・というか、その格好はどうにかならんのか?」
センスィが、ひろとのスクール水着を見ながら聞いてくる。
「スクール水着姿にならないと、能力が発揮できないんだよ」
「・・・『スク水剣士』ってのも大変なんだな・・」
センスィが苦笑しながら答えた。
「まさか、『剣士』からの覚醒ジョブにそんなものがあるとはねえ」
赤髪の男ケンスィが遅れてこちらに近づきながら言う。
ケンスィのジョブは『剣士』だ。
ジョブは何らかの条件を満たすと覚醒ジョブに変化することがあるらしい。
『スク水剣士』は『剣士』から覚醒するジョブであるが、少なくともこの街の冒険者には全く知られていないジョブということだった。
ギルドの受付嬢は存在自体は知っていたが、少なくとも一般の冒険者には知られていないらしい。
「ギルドの受付の姉ちゃんは、スクール水着が手に入らないのもあって、数十年確認されていないジョブだとか言ってたけど・・・」
「そりゃそんな奇妙な服今まで見たこともないしな」
ひろとがマントを拾い上げながら説明すると、マジーが呆れた様子で答えた。
「まあ、おかしな格好だが、さすが『覚醒者』だな!お前に声をかけて良かったぜ」
センスィが、イノシシをケンスィと持ち上げて、馬車の空いたスペースに載せながら、笑顔でうんうんと頷いた。
『覚醒ジョブ』を解放したものは覚醒者と呼ばれるらしい。
「それにしても、こんな街道沿いにモンスターが出てくるとはね」
「最近、急に増えてきてな、この『ビッグボア』と同じようにやたら興奮して襲いかかってくるんだ」
ひろとの言葉に、ケンスィが説明する。
この急なモンスターの凶暴化のせいで、冒険者が護衛任務に大量に駆り出されているとの事だった。
「さて、そろそろ出発するか!モタモタしてると暗くなっちまう」
皆が持ち場に戻ろうとしたその時、突如ガサッとすぐ脇の草地から音がした。
「っ!またモンスターか?」
ひろとが振り向くと、木の陰からピンクのうさぎがこちらを首を傾げながら覗いているのが目に入った。
「・・・魔族?!!」
ひろとを除く、3人が一斉に声をあげた。
「・・なんでこんなところに・・」
ケンスィが剣を鞘から抜き放ちながら、厳しい表情でつぶやく。
「やばいぞ・・・」
マジーが杖を掲げながら、後ずさりした。
重い静寂があたりを包む・・・
「!!」
魔族は、こちらをしばらく眺めていたが、突然、180度方向転換してそのまま走り去り、森の中に消えていった。
「・・・助かったのか?」
ケンスィが、へたりこみながらつぶやいた。
「追わなくて良いのか?」
「馬鹿言え!殺されるぞ!」
ひろとが問いかけると、ケンスィが叫んだ。
「・・・とにかく、ドッピュン村に着いたらギルドの駐在所に報告だ」
センスィはそう言うと、隊商の責任者に馬車を発進させるように声を掛けた。
「魔族か・・・・」
ひろとは、1人つぶやくと、マントを羽織り、馬車の見張りに戻って行った。




