44.シコシコの街
ざわ・・ざわ
「え?・・・なにあれ?」
「すげえ格好してんな・・・あのおっさん・・」
「ねえねえ、あのおじさんやばいよ!変態だよ!」
「トム・・・見ちゃだめよ」
「ふう・・・」
母親だろう女性がトムの視界を必死に遮っている姿を見ながら、ひろとは嘆息した。
シコシコの街に入った瞬間から、ずっとこの調子だ。
いい加減疲れてきた。
ただ、おっさんがスクール水着を着て、パンダの形のリュックを背負って、熊の形の盾を持っているだけだ。なんのことはない、ただの不審な恰好をしたおっさんってだけだ。
まず、街の入り口に着いた時からもう大変だった。
衛兵に呼び止められ、不審者がいるとのことで、拘束され詰め所に連行された。
街の行政府に連絡が行き、役人が確認のために派遣されてきたが、変わった格好をしているが、公序良俗に反しているとまでは言えないとされて、そのまま街に入ることが許された。
その際、身分証を求められたが、なぜかパンダリュックの紐に身分証を入れた革ケースがいつの間にか括り付けられており、事なきを得た。きっと、とば神が気を利かせてくれたのだろう。
身分証によると俺は神聖ホーケー帝国とかいう国の出身ということになっていた。
北の方にある国でこの国(ローター王国と言うらしい・・・)からは、2つか3つ国を挟んだところにあるそうで、その帝国にはシコシコの街から東に行ったところにあるペロペロの街にある港から船で行き来することができるということだった。なので俺は船でこの国に来たと思われているってわけだ。
ちなみに言っておくが、おれの本体はホーケーではない。断じて。これだけは言っておきたい。
で、詰め所から出て、街の中心部に向かって歩いているのだが、道行く人々にひたすら指をさされ、失笑され、子供には笑われ泣かれ、女性には目を伏せられているわけだ。
一体俺がなにをしたって言うんだ!とか言う気は一切ない。俺だってこんな格好したおっさんがいたら、不審者として扱ってしまう。それは分かっている。けど、つらい・・・とても・・・
「マントか外套を買って着た方が良いな。その恰好は目立ちすぎる」
ひげの男ことセンスィが苦笑いしながら言った。
街に入った後、3人は、律儀にも俺が衛兵に拘束されている間、ずっと待っていてくれたのだ。
3人と合流した後、ギルドに商人の護衛任務の完了報告に行くとのことで、俺も一緒についていくことにしたのだ。
これから、生活していくなら、ギルドに冒険者として登録して仕事を請け負って金を稼いだ方が良いとのアドバイスを3人にもらったのでギルドに登録することにしたのでそのまま登録手続きをする。
「ここだな、この建物がこの町のギルドの事務所だ」
赤髪の男ことケンスィが、建物を指さした。
「俺らは、任務完了報告をしてくるから、お前は2階の受付に行って登録手続きをしてきな」
ローブの男ことマージが、玄関をくぐったところで振り向いて2階へ続く階段の方を見た。
「おう、何から何までありがとな」
「礼を言うのはこっちだ、お前がいなかったらグレイウルフにやられていたかもしれないんだからな」
お互いにお礼を言って別れ、2階に上がる。
階段を上がってすぐ目の前に受付らしきものがあったので、まっすぐそこへ歩いていく。
「あっ、いらっしゃいませー。どのようなご用件で・・・・ヒッ!」
後ろを向いていた受付嬢が俺に気付き、振り向いた瞬間、化け物を見るような目で見ながらすばやく後ずさりした。
「・・・えっと、ギルドに冒険者として登録したいんですけど・・・」
「えっ?冒険者?登録?・・・あっ、はいわかりました。登録ですね。それではこの紙に必要事項を書いてください」
「あっ、はい」
紙とインクとペンを投げるように雑に渡されたので、受け取って記入する。
この国の言語は、そもそも日本語が通じている。
文字も平仮名はローマ字っぽい表記でさらに漢字っぽい文字が使われており、言語体系は日本と実質ほぼ同じだったりするのだ。
さっき、身分証を見たら普通に読めたので気づいた。
なんだか、アルファベットが卑猥なデザインになっているのが、気になるがいちいち気にしてたらキリがないので気にしない。Aの先端が亀頭っぽくなっていたり、Bの右側に乳首っぽい突起が2個ついていたりするけど、いちいち気にしないことにした。漢字も同様に普通に読めるのだが、これがテレビとかに映ったら、モザイクはいるだろって感じのデザインになっている。
出身地や生年月日とかは、身分証に書いてある偽の情報を記載していく。
ケツアナ歴191年9月19日ってなんだよこの生年月日は!いくら何でもおかしいだろ!とば神さんよぉ!
と、俺をここに召喚した神様に文句を心の中で唱えつつ、記載した登録届を受付嬢に渡す。
「はい、書きましたよ」
「ヒッ!・・あっ、お預かりします!それでは、別室で手続きしますのでそこの扉を開けて部屋で待っててください。
「・・・はい」
完全に不審者扱いされて警戒されている。というか明らかに怯えている。普通に傷つくぜ。
別室に入りしばらく待っていると、受付嬢が人の頭くらいの大きさの水晶のようなものを持ってやってきた。
「お待たせしました。それではこの魔水晶に手をかざしてみてください。あなたの適正職を確認します」
受付嬢が水晶を部屋の中央に配置された机の上にそっと置き、手招きして後ずさる。
「適正職?」
「はい、あなたの一番向いている職業、通称ジョブを確認できる水晶です」
「なるほど!ん、おおっ!」
ひろとが、手をかざすと魔水晶が淡く光を放ち、光がだんだんと形を作り始めた。
光が変形していき最終的に文字が浮かび上がった。
「えっと・・・えっ!?『スク水剣士』!?」
おずおずと、水晶に近づきながら受付嬢が文字を読むとびっくりした様子で叫んでいる。
「はい、スク水剣士ですけど・・・」
「うそっ!スク水剣士なんですか?私初めて見ました!本当に存在するんですね!」
「はあ・・・そんなに珍しいもんなんですか?」
「珍しいなんてもんじゃないですよ!この街で『スク水剣士』のジョブの冒険者なんて30年前に一人記録が残っているだけですよ!かなりレアなジョブです。・・・あっ!もしかして、その服が『スクール水着』ですか?」
よほど、珍しいことなのか、受付嬢が興奮した様子でまくし立ててくる。とば神がこの世界の住民は恥ずかしい恰好をしたくないため、『スク水剣士』、『セーラー僧侶』などのジョブに誰もなりたがらないと嘆いていたが、30年に一度しか記録が残っていないとは、ジョブ自体が忘れられているレベルのようだ。
「えっ、そうだけど・・・」
「やっぱり!だからそんなキモイ恰好をしてるわけですね!・・・あっ!すみません!」
「・・・もう今更なんで何言われてもどうでもいいよ」
ひろとは受付嬢の失礼な言動に、投げやりに返す。
「『スク水剣士』は、剣士系のジョブの方々から、極まれに突然ジョブチェンジする人がいるんです。けど、『スクール水着』を着ないと能力が発揮できないという欠点があって・・・」
「さらに『スクール水着』自体が入手が困難で手に入らないものですから、ほとんど力を発揮できる人がいないので、冒険者を実質引退することになってしまって、記録に残っていないんです」
「なるほど・・・・」
「というか、そんなキモイ恰好だったんですね、『スク水剣士』って」
「・・・うーん、めっちゃ失礼だね。お嬢ちゃん」
ひろとは、あまりにもひどい言い草に、完全に心が折れて諦めてしまった。
「・・・ちょっと待ってくださいね。登録証を持ってきますので!」
受付嬢は、奥の事務所の方に一旦引っ込んで、しばらくしたら名刺大のカードを手に戻ってきた。
「はい、登録証です」
「ひろとさんの冒険者ランクは一番下の『ソチン』ランクになります、ギルドが斡旋する依頼はランクによってことが制限がありますので、受ける時は『ソチン』ランク用のものを選んでくださいね」
「・・・ソチン・・・」
あきれたようにつぶやくひろとを一向に意に介さず受付嬢は説明を続ける。
「受付横の壁に依頼の紙が貼ってあるので、受けたい依頼がありましたら受付まで持ってきてください」
「依頼が終わったら、1Fの報告所に報告すれば、報酬がもらえます。モンスターは討伐した証拠として、牙や耳などの部位、肉や毛皮が引き取り可能なものはその現物、魔族は魔石を持ってきてもらえれば買取しますのでよろしくお願いします」
「魔族?」
「『魔王ゲキオチ』の眷属ですね。まあ、この辺はあまり出没しないですけど、近くにある『大森林』の外縁部にたまに出没するので、気を付けてください。かなり強いので」
「なんで魔石なの?」
「魔族は、倒すと消えて、魔石を残すんです。なので、それを証拠に持ってきてもらうということです」
「なるほどね、じゃあこの辺は魔王が出てきたりはしないんだ」
「当たり前ですよ!魔王がいるのは『大森林』の中心部だと言われていますし、強力な魔族は、王国北部あたりまで行かないと会えませんね」
受付嬢は、水晶を横にずらし、机に敷いてあった地図を示しながら答えた。
「へえ。これが『大森林』で、ここがシコシコの街なのね。中央に『大森林』があって、その周りにたくさんの国家がぐるっと囲むようにあるわけか・・・」
「そうですね、ひろとさんの故郷の神聖ホーケー帝国は、こちらになります」
「なるほど」
「説明は以上になりますけど、なにかご質問は?」
「大丈夫」
「では、これからよろしくお願いしますね」
登録が終わり、受付を出ると、3人組が待っていてくれていた。
「よお、登録できたか?」
センシィが手をひらひらさせながら聞いてくる。
「おう、無事登録できたぜ!」
「よっしゃ、じゃあおすすめの宿を紹介してやるよ!そしたら一杯呑みにいくか!」
「おっ、いいねえ」
「なんだ、お前呑めるクチか?」
「おう!」
「よっしゃじゃあいくか!おすすめの店に連れて行ってやるぜ」
ひろとは三人に連れられて、ギルド事務所を後にし、早速街へ繰り出したのだった。




