43.冒険者
「お前のその、へんた・・・変わった格好はなんだんだ?」
ひげの男、さきほど自己紹介をしてセンスィと名乗った男がやっぱり気になるようで、聞いてきた。
焚き火の爆ぜる音がパチパチとなるのみの静かな空間で、ひげの男の顔が一瞬だけ照らされた。
「・・・これは『スクール水着』っていう服だ」
ひろとは、少し逡巡してから正直に答えた。
この世界に転移してきて、まだ状況がよくわかっていない。何を話して良いのか、何を話すと問題なのか考えた。しかし、考えてたらすぐに面倒になったので適当に話してしまうことにした。
「スクール水着?よその国ではすげえ服があるんだな。流行ってるんかそれ?」
「いや、着てる人は少ないよ」
とば神が、この世界では、変態的な格好の職業になりたがらないので、困っていると言っていたので、おそらく少ないのだろうと思い答える。
「なんでわざわざ?」
「これを着るとステータスが大きく上昇するんだよ」
「ステータス?」
(あれ?ステータスって知らないのか!じゃあステータスオープンとかはこの世界ではないのか?・・・うーんわからん・・・)
「まああれだ、力が強くなったり体が丈夫になったりすんだよ」
「へえ、特殊効果付き防具ってことなのか。珍しいな」
「そういうことだ・・・ん?」
ひげの男改めセンスィと話していると、遠くからカサカサと物音がした。
うさ耳のカチューシャの効果で聴力が増強されているひろとは、遠くの声や小さな声を捉えることができるのだ。
「遠くの方からカサカサ草をかき分ける音が・・・」
「なにっ?全然聞こえねえぞ」
ひろとの指摘に、ひげの男が訝しげに答える。
「俺は耳が良いんだよ」
「・・・そうか。ちょっと待ってろ」
カイトは、急いで小屋に入り、ローブを着た黒髪の男、マジーと赤髪の男、ケンスィを起こして戻ってきた。
「本当に何かがいるのか?」
「ああ、今も少しづつ近づいてきてる。方向はあっちだ」
ひろとはローブの男、マジーの問いかけに、指をさしながら答えた。
「・・・わかった。じゃあそいつを炙り出すぞ!いいな」
「おう!」「・・お、おう!」
マジーの言葉に、センスィとケンスィが応え、ひろとも遅れて同意した。
「なら、いくぜえ!『炎の玉』」
マジーは杖を掲げ、魔法を発動し、ひろとが示した方角の上空10m程度のところに火球を放り込んだ。
「爆ぜろ!」
杖を突き出しながら叫ぶと、火球が、ぱあああんっと音を立て爆発した。
爆発した瞬間、辺りが明るく照らされる。
「いた!グレイウルフだ!」
ケンスィが一瞬だけあらわになったシルエットから、草むらに潜んでいた、モンスターを判別した。
体長が優に2mを超える大型のオオカミが、こちらに気づかれたのを察知して猛然と駆け寄ってくる。
「来るぞ!」
「俺に任せろ!」
ひろとは、叫ぶとオオカミの前に悠然と駆け出していく。
「おっ、おい!飛び出すんじゃ・・・」
「『スク水ガード』!」
ひろとはスキルを捉えると、仁王立ちでグレイウルフに立ち塞がった。
グレイウルフは、ひろとに向かって一直線に飛び込んでいき、股間に噛み付いた。
「ひろとー!!」
センスィが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
スキル効果によって、硬化したスクール水着のおかげで、ダメージを受けておらず、平然とした顔で叫ぶひろと。
「おりゃあああ!」
ひろとは、股間に噛み付いているグレイウルフの顔を掴み、サーベルで喉元をかき切った。
ぶしゅうううと鮮血が流れ、オオカミはしばらく股間を噛み続けていたが、力を失いバタッと倒れた。
3人がひろとに駆け寄って声をかける。
「おいおい、すげえな!その服!なんでち〇こ噛まれて平気なんだよ!」
「っていうか、なんでちん〇噛まれてるんだよ!おかしいだろ!ワハハ」
「そんな、変態的な戦い方初めて見たぜ!」
「ワハハハハハ」
その後は、物音に驚いて、慌てて出てきた商人に、事の経緯を説明した。
倒したオオカミはとりあえず井戸水を桶に汲んできて、それに浸しておいた。
それから、見張りを交代して朝までひと眠りした。
起きたら、皆でオオカミの毛皮を剥いで商人に渡した。
「ほら、お前の取り分だ」
朝食の硬いパンとハムを食べていると、センスィから、銀貨を2枚渡された。銀貨一枚で100ティンという金額だそうだ。
小銅貨一枚が1ティン、大銅貨一枚が10ティン、大銀貨一枚が1,000ティン、金貨一枚で10,000ティン、で1マン、大金貨一枚で100,000ティン、10マンとのことだった。
「喉元しか傷がついていないから、きれいな毛皮だったんでな。銀貨5枚で高く売れたよ」
ケンスィが嬉しそうにコインを指で弾いてキャッチしている。
3人が銀貨一枚ずつ、一番貢献したひろとが2枚ということだった。
「さて、そろそろだな」
朝食を食べ終わると、ひげの男が立ち上がった。
馬の世話をしている商人に駆け寄り、一言二言話すと、こちらに向かって出発するぞと叫んだ。
「さて、シコシコの街か。・・・とんでもない名前の街だけどどんな街なんかな・・・」
ひろとは、さわやかな朝日に目を細め、雲一つない空を少しだけ見上げてから、立ち上がった。
新たな出会いもあり、新たな街、これから起こることへの期待に胸を膨らませながら、馬車へ向かって歩き出したのだった。




