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42.異世界降臨

視界が晴れた。


白くかすんでいた景色が、一瞬で強風で吹き飛ばされたかのように飛んでいき、青く輝く空が一面に広がった。

下に視線を向けると、一面の草原が広がっている。吹き抜けた風が頬をかすめ、暖かな感触に心地よい感覚に包まれる。


スクール水着を着た30歳くらいのおじさんが、草原の中にたたずんでいる。

両の腰に剣を二本たずさえ、左手には熊さんのデザインの盾、背中には、パンダのリュックを背負っている。さらには、頭部にはうさ耳のカチューシャをつけている。


「・・・おっ?」

先ほどまで、女神と会話していたと思ったら、いきなり視界が反転し、また別の場所に転移してしまった。

急な変化に目を白黒させるが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「これが、『おてぃんてぃんぴよぴよオンライン』の元になった世界か・・・」

ひろとは、ふぅと息をひとつ吐きつぶやいた。

「とはいっても、『おてぃんてぃんぴよぴよオンライン』を俺は知らないんだけど・・・」


「まさか、自分の体が偽物で、本物の体が魔王になってるなんてな・・・しかも、魔王を倒して元の体を取り戻せなんて・・・まったくとんでもない話やな・・・」

スクール水着を着た30代のおじさんは、ひとりごちる。


「さらには、股間が神に改造されて、空飛ぶようになってましたってどんなオチだよ」


周りを見渡すと、20~30m向こうに石畳の道が伸びているのが見えた。

どこに行けば良いのかまったく分からないので、とりあえず道に沿って進んでいくことにした。


「とりあえず、どこか人の住んでいる村とか街とか探さないとな・・・」

道に沿って歩いていると、遠くで馬車とその周りに人が3人いるのが見えた。

自分と同じ方向に、歩いているようだ。


「おっ、人がいるぞ。ちょうど良い、情報収集だ!」

ひろとは、前方の集団に追いつくため、歩みを早めた。


30mほどまで近づいたところで、前方の集団が歩みを止め、こちらに向かって馬車を守るように陣形をとり、陣形の中心にいる男が叫んだ。

「とまれ!!」

40歳くらいの皮鎧を着て、剣を掲げたひげを口に蓄えた茶髪の男が、鋭い眼光でこちらをにらんでいる。


「・・・え~っと・・・あやしいものじゃありませんよ?」

ひろとは、両手を上に向けて敵意がないことを示しながらひとこと返した。


「なんだそのふざけた格好は?!どう見てもあやしいじゃねえか!変態野郎が!」

ひげの男がふざけたことを言うなとばかりにこちらに剣を向けながら叫ぶ。


この世界でも、スクール水着を着ているおっさんは変態扱いされるらしい。

おかしい・・・ここは『おてぃぴよ』の世界じゃないのか?

「いやいや、決して怪しいものじゃないですよ・・・」


「ふん!どう見てもあやしいじゃねえか・・・。で、こんなところで何してるんだ?」

男は、剣をこちらに向けたまま、問いかけてきた。


「ちょっと、道が分からなくなってしまって・・・この近くに街はありますか?」

ひろとが説明すると、ひげの男の横にいる弓矢を構えている赤髪の男が叫んだ。

「このあたりの道はここだけで、ほぼ一本道だぞ!どうやって迷うんだよ!」


「・・・えっと、極度の方向音痴で・・・」

ひろとは、適当な理由をでっちあげてごまかす。


「・・・周囲に人はいないみたいだから、盗賊団の類で、馬車を止めるために突っ込んできたオトリってわけではないみたいだな・・・」

3人目のローブを着た黒髪の男が周囲を見渡しながらひげの男に話しかけた。


「・・・まあいい、ここから1日とすこし行ったところにシコシコっていう街がある。ついてこい」

ひげの男が剣を鞘に戻しながら、手招きした。

「俺達は、この馬車の警護をしている冒険者だ。最近、このあたりで盗賊団が出ているんで、警戒しているんだ。」


「なるほど・・・。それで警戒していたんか・・・」


「いや、そんな怪しい恰好したやつが近づいてきたら普通は警戒するだろ!」

ひろとが納得しかけると、赤髪の男が、苦笑いしながら突っ込みを入れた。


「お前、このあたりでは見ない格好だが、国外から来たのか?」

「うん、まあそんなとこだ」

ひげの男の問いに、適当に答える。

異世界から召喚されたなどと答えると、また怪しまれるに決まっているので、誤魔化すことにした。


「じゃあ、ペロペロの街の港から船で入ってきて、ここまで歩いてきて道に迷っていたのか?」

「うーん、よくわからん!」

「街を出るんなら、どこに何があるかくらい把握してから出ろよ!」

赤髪の男に問われて、ひろとが適当に答えると、3人は納得したのかあきれたのかはわからないが、といあえず次の街まで一緒に行くことになった。


馬車は商人のもので、馬車の御者がその商人だそうで、人のよさそうな恰幅の良い40過ぎの男だった。

護衛をやってくれるなら、報酬は出せないが、食事くらいなら出せるということなので、ひろとは快く引き受けた。


馬車の周囲で見張りをしながら、数時間歩いていると、街道脇に小屋が数戸あるのが見えてきた。

シコシコの街には、明日にならないと着かないということで、今日は街道に設置されているこの休憩小屋に泊まるとのこと。


商人は小屋の隣に馬車を留め、併設されている馬小屋に馬を繋げた後、食事の準備を始めた。

食事は、硬いパンと乾燥肉と野菜のスープをかまどで温めた簡素なものだったが、腹が空いていたので美味しかった。


その後は、日が落ちてからは、小屋の前で焚火をしながら、交代で番をするとのことで、2人一組になって見張りをすることになった。


「じゃあ、俺と組んで見張りやってみるか!」

ひげの男に言われ、ひろとは、見張りをすることになり、2人で焚火を囲んで小屋の前に椅子を置いて座った。夜は冷えるので、商人から借りたブランケットを肩にかけている。


「こういう見張りをするのは初めてか?そうか、物影が動いてないか、何か物音が聞こえてこないか、気配がないか窺っておけばよい。まあ気楽にやりな」

ひろとが、初めてだと答えると、にこりと笑って肩をポンポンとたたいた。


空を見ると、満天の星空が広がっていた。元の世界ではなかなか見られない一面に広がる星々を見て、なぜかは分からないが、急に異世界に来たのだと実感がこみあげてきた。

「きれいな空だな・・・」

焚火のパチパチと爆ぜる音が時折響くおだやかな空間に、ひろとの声が静かに響いた。

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