45.二日酔い
「うっ・・・ん?朝か・・・」
ひろとは、窓から差し込む陽の光に目を細め、ベッドから体を起こした。
「・・昨日はちょっと飲みすぎたな・・」
ギルドでの登録が終わったあと、今泊まっている宿屋を紹介してもらい、3人とそのまま近くの酒屋に繰り出した。
彼らの行きつけだそうで、連れてこられたのだが、久しぶりの酒だったので、調子に乗って飲みすぎてしまった。
決して質の良い酒ということもなかったため、二日酔いしてしまったようだ。
痛む頭を抑えながら、ギシギシと軋む建付けの悪いベッドから起き上がり、桶に入った水で顔を洗い、スクール水着に着替える。
「さて、ギルドに行って仕事を探さないと・・・」
この街に来る途中で倒したオオカミの毛皮を商人に売ったお金があるが、この安宿でも1週間も泊まれば、金が尽きてしまう。生きていくにはお金が必要なのだ。
「まったく、異世界に来ても働かなきゃならんとはね・・・」
1人愚痴りながら、ギルドへの道を歩き出す。
途中、屋台で朝食のパンを買って食べながら、通りを歩く。スクール水着を着てパンダのリュックを背負い、うさ耳のカチューシャをつけたおっさんに、通行人がヤバいものを見るように警戒しているが、気にしない。
「ふう、これが依頼書だな」
ひろとはギルドの2階の広間にある、沢山の紙が貼られている掲示板の前に立っていた。
「この『ソチン』って書いてあるところの依頼書から選べば良いんかな・・・ふーん、ドブさらいに荷物の運搬・・・モンスター退治とかはないんかなあ・・・」
依頼をこなすのであれば、冒険者っぽくモンスター退治をしたいと思いつつ依頼を探す。
「おっ、大ネズミの退治!これにするか!」
依頼書を壁から剥がし、受付に持っていった。
「あっ、スク水剣士さん!依頼ですか?大ネズミの討伐ですね。街の近郊にある農地で大ネズミが現れて被害が出ているんで、駆除する依頼ですね。倒したネズミの額についている小さな角を持ってきてください」
「なるほど、わかった」
「場所はここから南にまっすぐ歩いていくと農地区画があるので、そこで農家さんに聞いてください」
「りょーかい」
「そんな変態的な格好してると警戒されますので、農家の人にボコられないように注意してくださいね」
「やかましいわ!ってやっぱこの格好だとそうなるよなあ・・」
「なりますね」
「そっかあ・・・まあ行ってくるわ」
ひろとは、ギルドを出て、農地区画に向かうことにする。
「うーん、センスィたちが言ってたようにマントでも買うかあ」
やはりこの格好は、まずい。さっき朝飯のパンを買う時も、店主のおっさんがが俺をいやらしい目で見るなとか言いながら包丁を持ちっぱなしで警戒していたし、さすがに日常生活に支障が出ている。
「ん?おっ、鎧が並んでる店発見」
冒険者用の防具や服が売っている店のようだ。ちょうど良い。マントを買っていこう。
「すいませーん。マント欲しいんですけどー」
「はいいらっしゃヒイィイ!?」
入口の扉を開けて女性店員と目が合った瞬間、腰を抜かして後退りを始めた。
「・・・マント欲しいんですけど」
「えっ、あっ、ヒッ、レ、レ〇プ?」
「んなわけないだろ、マント、マ・ン・ト!どうやったら間違うんだよ!1文字もあってないだろ!」
「あ、マ、マントですか?え、えっと、そこの棚に並んでるものとその隣の棚にあります」
「ありがとう」
ひろとは無表情でそのままスタスタと棚の前まで進み商品を選び始めた。色々言っても警戒されるだけだろうしさっさと買って店を出よう。
「ん、これサイズぴったりやな。銀貨1枚か。これにするか」
薄茶色のしっかりした生地のマントを選び、会計する。
「はっはい、ぎ、ぎ銀貨1枚になりますっ、ヒッ」
店員が怯えながら銀貨を受け取る。
「ふう、これで不審者には見えないだろ」
店を出たひろとは、マントを羽織り全身を確認した。マントが全身を覆い、靴以外は隠れている。パンダのリュックもスク水の上から背負っているのでマントの中に隠れている。うさぎ耳のカチューシャはリュックにしまっているため、これでどこから見ても普通の冒険者だ。
道行く人々から奇異の目を向けられないことに満足しつつ、歩いて行くと、20分程で目的地に着いた。
建物はまばらになり、小麦畑や果樹園等が通りの両側に広がっている。
近くで、作業している男性を見つけ、声をかけることにした。
「すいませーん。ネズミ退治に来たんですけど、どこに行けば?」
「おう兄ちゃん、冒険者か!それなら、そこに見える林の中が奴らの住処になってるからそっちで駆除してくれねえか?あとネズミを駆除する時は、畑を荒らさないようにな。すぐ逃げるし、すばしっこくてなかなか捕まらないから頑張ってなー」
「わかったよ。ありがとう!」
「おう、頼んだぜー!」
農家のおっさんと別れて、畑に隣接している雑木林に入って行く。
薄暗い空間に木々の隙間から木漏れ日が刺して心地よい風が吹いている。
「よっしゃ、とりあえず大ネズミとやらを探しますか」
マントを脱いで、入口近くの大きな木の根元に置き、剣を抜く。
「うーん、とは言っても、どうやって探したら良いのか・・ん?」
ひろとが林の奥へ歩き出そうと振り向くと、目の前に体調50cm程の大きなネズミが3匹こちらを見ていた。
「・・これが大ネズミかな?多分そうなんだろうな・・」
いきなり出てきたネズミにびっくりしつつ、ネズミの全身を観察すると、額に小さな角が生えているのが見える。やはりこれが大ネズミのようだ。
「よし!退治といきますか!」
意を決して、剣を前方に掲げながら、ネズミにジリジリと近づいていく。
ピャアアアアアア!
ネズミ3匹が突如として叫び声をあげながら、こちらに向かって一目散に突っ込んできた。
「えっ?」
先程すぐ逃げると聞いていたので、まさか突っ込んでくるとは思わず、棒立ちになってしまった。
ネズミは一斉に、ひろとの股間に噛み付いてきた。
「いってえええ!」
いきなりのことで、避けることもできず、股間にネズミが3匹ぶら下がる。
「ああもう!おらああああ!」
痛みに顔をしかめながら、サーベルで首を順番にかき切っていく。
「・・あーいってえな。いきなり股間に群がるなっての」
愚痴りながら、ネズミの額から角をえぐり取っていく。
「すぐ逃げるんじゃないのかよ。まったく・・ん?これは、俺の股間がモンスターを呼び寄せるから逃げずに突っ込んでくるってことか!」
「つまり、ネズミを見つけさえすれば、股間を餌におびき寄せて倒す作戦だ!」
ひろとは、早速森をウロウロしてネズミを探していく。
すると、早速ネズミが1匹、ぴょんっと目の前に飛び出してきた。
「よし!『スク水ガード!』」
ひろとは仁王立ちしながら股間をネズミに見せつけながら防御スキルを発動した。
スク水が硬化して、バキバキに固まる。
ネズミが一直線に股間に噛み付いてくるが、こそばゆいだけで全く痛くない。
「よっしゃああ!名付けて股間釣り戦法だ!」
ひろとは股間を餌に、大ネズミをおびき寄せて駆除して行った。
夕方までにネズミを20匹ほど駆除することに成功した。
「うーん、なんで異世界に来てまで、こんな変態的な方法で無双しなきゃならないんだよ・・・」
ひろとの悲しいつぶやきが日が傾き始めた森に虚しく響いたのだった。




