69.エルフェイのお茶会
武器を持ったエルフェイたちに囲まれて、俺と、ウェルテは席についた。
巨大な円形のテーブルだと思ったが、それは巨木の切り株だ。これを挟んでシトリスが着席する。
「……」
岩とも、レンガとも、植物とも違う、深緑の鉱物で作られた建物。そこに招かれた俺達。
目の前には今しがた、ティーポットからお茶が注がれた。
「……」
「……」
「どうされました? 人間のしきたりに合わせて、我々もお茶を用意しましたのよ」
「てっきり、捉えられるかと思ったからな」
「あら、それはそれは」
そう言うとシトリスは、自分のカップを口に付けた。同じティーポットから注がれたお茶が、俺たちの前にもある。
「……みんなは、どこだ」
「森の中、ですわ」
「身の保障をしろ」
「もちろん、アル=パタルーには危害は加えません」
「そうじゃない。俺の使用人たちと、そして、ウェルテの身の保障、だ」
「ランジェ様……」
するとシトリスが笑い始めた。何が滑稽なのか、俺には分からなかった。
「何が可笑しい」
「アル=パタルー、面白い人ね。自分より身分の低い部下を気に掛けるとは。上に立つものとしてそれは……」
「保障しろっ!」
バンっ!と、俺は机を叩いた。その振動で、カップのお茶が波打った。
交渉というテーブル上で不機嫌さを全面に押し出してしまったが、後悔はしていない。
たぶん、こうでもしないとシトリスは聞く耳を持たない。
「……もう、手を出しませんわ、目的を果たせればね」
いささか不機嫌な感情を表に出し、シトリスが答える。
「世界樹の開花のことか」
「ええ。早速準備に取り掛かりましょう」
そういうと、シトリスはカルマンダに目配せした。軽く会釈とともに、カルマンダは何人かのエルフェイを従え、何処かに向かっていった。
「こちらも準備がございまして。どうぞ、せっかくのお茶が冷めてしまいますわ」
そして再度、シトリスがティーカップを口に運んだ。
「……ず」
「……ごくっ」
俺とウェルテは、少し悩みながら、結局お茶を飲んだ。
同じティーポットから注がれたお茶だ。中身には疚しいものはないだろうとの判断だった。
「旨っ」
「あ、おいしい」
そして開口一番、素直な感想がでてしまった。
少し冷めているのにも関わらず、俺らが飲んでいるものに比べて香りが格段に良い。口に入れた瞬間からずっと甘い香りが続いている。
渋みや苦味もほぼ無く、後味も申し分ない。
(発酵か? アルコールのような香りも混ざっている。くそう、自然と語らう種族ってのは、伊達じゃないってか)
悔しいが、お茶の味については認めるしか無かった。
俺達の戸惑った表情を見ながら、ニヤつくシトリスがいた。
ほんと、こいつの行動一つ一つが非常に癪に障る。
「……教えてくれ、シトリス」
「なんでしょう、このお茶ですか? この旨味は発酵時間が肝心でして」
「違う違う、いや確かに興味は無くはないけど」
俺は頭を振った。そこは今、本質じゃない。
「ウェルテのことだ。洗いざらい、知っていることを教えてくれ」
「!」
美味しいお茶に舌鼓を打っていたウェルテが、急に驚きの顔になった。
……ウェルテもお茶のことを聞くのかと思っていたのか?
「我々が、彼女のことを知っている、と?」
ティーカップを置き、シトリスが微笑しながら答える。
「ああ、あんたには、ある程度目星がついているんだろ?」
同族を捨て駒よろしく扱うコイツらが、わざわざ、人間と仲良くしているようなウェルテをつれてこさせたんだ。
他のエルフェイにはない、何か特別な存在なのだろう。
「いいえ、我らもその娘については、確証がもてておりません」
しかし、シトリスは否定した。だが、今までの言動を鑑みるに、シトリスは相当な『嘘吐き』だ。にわかには信じられない。
「本当か?」
「本当ですとも。ですが……」
口元を押さえて、シトリスはクスクスと笑いながらウェルテを見た。
「おそらく、あなたはアル=パタルーを迎えに行ったのでしょう。違いますか?」
突然話題を振られ、ウェルテが戸惑いの表情を浮かべる。
「ど、ど、どういう意味ですか? 私は全然記憶がなくて、気づいたら人間の奴隷になってました。ランジェ様を探すなんて気は、全く無かったです」
「あなたは本能的に、その村にアル=パタルーが来ると思ったのでしょうね。だって私たちも、アル=パタルーの残り香からあの村に行き着いたのですから……そうね、我らが知る全てをお教えしましょうか」
そしてシトリスは再度、俺に視線を戻した。その後、彼女から出た言葉の意味を理解するのに、幾分の時間を要したのだった。
「我々の考えが正しければ……。ウェルテは、『世界樹の種』。そのもの、です」




