67.強請
奴らの目的がようやく判明した。
一つは、彼らの森と世界樹の再生だ。
森は限界が来ていて、世界樹の種では減りゆくマナを補えない。
だから、俺の花咲スキルを欲しがった。
そしてもう一つは……。
「うふふっ」
「……え」
「んもう、何回も女性に口説かせないで頂きたいわ」
「……は?」
「私は、アル=パタルーと、『添い遂げたい』の」
刹那、激しい金属音が鳴り響いた。
目の前に、赤い火花が散った。
「……」
「くそっ」
「ちっ」
トッシュの斧と、トモエさんの双剣と、そして、カルマンダとかいう女の大剣が、テーブルの上で交えていた。
「あら、人間のしきたりに合わせたつもりなのだけど」
「失礼。主人を勝手に口説く異人は、問答無用で切り伏せて良いという、当家に伝わるテーブルマナーに沿ったまでです」
俺もそんなマナー知らん。
「私の知らないマナーがあるのね、覚えておくわメイドさん」
俺とシトリスはほぼ同時に、手で従者に合図を送り、同じタイミングで双方が剣を引いた。
「話が飛躍しすぎです、シトリス様」
「あら、カルマンダ。あなたも向こうの肩を持つの?」
従者から注意を受けたシトリスが、ムスっと膨れっ面を晒した。あからさまな不機嫌さを表に出していた。
そんな主人の態度をみて、呆気に取られたカルマンダ。そして、彼女が代わりに俺たちに口を開いた。
「我々エルフェイは、男がいないのだ」
「は?」
「男が生まれない種族なのだ、太古の昔から、な」
え、そうなの?
そんな疑問を呈した顔でウェルテを見てみた。しかし目が合った彼女は、知らなかったと身振り手振り。
トモエさんたちも、首を振った。
シトリスたちエルフェイを見る限り、単細胞生物のような増え方ではなさそう。
もしかして彼女には……。
「……え、は、生えてる?」
「どういう意味だ?」
「あ、いや、その、女の子同士で……その……」
「何を言っているんだ、アル=パタルー」
ホント、ナニを言ってるんだ俺。
戸惑う俺を無視して、今度はシトリスが説明を始めた。
「エルフェイには、男が生まれないの。だから我々は、素体が似ている人間の男と結ばれ、子を孕み、育むのよ」
おいおいマジかよ。そんな生態、どんな文献にも載ってなかったぞ。
そもそも、エルフェイについて書かれた書物が少ないのもあるけど。
「ウェルテ、知ってた?」
「……(ふりふり)」
ウェルテは顔を真っ赤にして首を振った。
自分自身がエルフェイであるが、そのことを知らなかったようだ。
(あ、もしかして)
異種の彼女が俺に好意を寄せるのは、そもそもエルフェイが、子孫を残すために人間と交わろうとする本能から来るものなのかも。
「……」
「……」
俺と見つめ合うウェルテ。
彼女の照れ顔が、こちらにも伝播する。あの時、半裸になったウェルテを思い出し、つい俺も赤面してしまった。
「……なるほど、そこまで発展しているのね」
「いっや、未遂です!」
「未遂ですっ!」
シトリスの一言に、なぜか丁寧語で応対する俺とウェルテ。
シトリスは口に手をやり、クスクスと笑っていた。
「……ちょっとまってくれ、俺が選ばれた理由は、開花宣言だって言ってたけど、もしかして……」
「あらお気づきですか。なら話は早いわ」
口元を押さえたまま、シトリスは俺の疑問を肯定に変えた。
「能力を、子に継がせる、のか」
「ご明察ですわ」
シトリスの目尻が下がった。笑っているのだろう。
「私たちの子は、結ばれた人間の力を色濃く継ぐことが多いの。このカルマンダも、古の剣豪の子どもよ」
「どうりで強いわけだ」
「話が早くて助かるわ。さぁ、早速私たちの聖域に招待します」
「いやだね」
シトリスが勝手にトントン拍子に話を進めたので、俺はそれを止めた。
「人間の礼節を学んでいる割には、初動が少々荒すぎはしないか?」
「そうですか? 人間も、まずは己らの力を見せつけ、平伏させることを第一にすると聞き及びますが」
なんとも微妙なところを突いてくる。
力でねじ伏せる、か。
たしかに、人間ならやりかねないな。
……じゃなくて。
「こちらの被害は甚大だ。手助けしようにも、こんなことやられたら助ける気にもならない」
「あら、我々のほうにも多大な犠牲が生じておりますわよ。多くの同胞が殺されました」
「俺達は、生き残った奴らは捕虜として保護している」
「もう、朽ちておろうて」
「……知っているのか」
「ええ、私は植物を通して、様々な話し声を聞くことができるの」
なかなかにふざけた能力だな。
「男が必要って、さっき言っていたが。今までも人間の男と何度も交配を続けていたのか」
「いいえ、我々エルフェイは、世界樹に選ばれた高貴な種族。劣悪な人間と交わること自体、屈辱なの」
言うな、おい。
「エルフェイは選ばれた人間にのみ、その体を預けるの。ランジェ、貴殿はその資格がある」
「……あのさあ、さっきから大人しく聞いていれば、まあふざけたことばかり言いやがって……」
その時、素人にも分かる殺気が辺りを包んだ。
先ほどと同じだ。俺の後ろに立つ、トモエさんとトッシュ、そして、カルマンダからも醸されていた。
「あら、言い方が悪かったかしらね、人間の作法ってむずかしいわねぇ」
「つまりは、全部本音ってことなんだよな」
俺は殺気まみれのティータイムを立ち上がり、トモエさんとトッシュに合図を送った。
そして、改めて客人を流し見た。
「残った捕虜は、返してやる。もう二度と、ここの敷居は跨ぐじゃねぇ」
しかしその俺の態度を見たシトリスは、ゆっくりと、冷めたお茶をすすった。
「……ふふ、まあ、不味い、お茶だこと」
「聞いているのか」
彼女の中では、まだお茶会は終わっていないらしい。俺的にはさっさと終わらせて、こんなめんどくさい奴らとの関係を金輪際、断ち切りたかった。
「……大湿原、ロピカナ」
「なに……?」
シトリスがボソリと呟いた。
俺はどこかで聞いた……いや、見たことのある、土地の名前であった。
どこだったっけ。
確か……。手紙に書いてあったような……。
するとシトリスはニヤリと笑った。いや、笑顔というより冷笑だ。
俺の態度を楽しんでいるかのようでもあった。
「我らを滅ぼした魔王に立ち向かい、倒した人間のことはよく知っていますわ」
「……!」
思い出した。大湿原ロピカナ。
勇者が──ナツたちが修行をしている場所だ。
「なんで、その場所を……」
「ところで、いまだに勇者の公表は、なされていないようですわね」
「どこまで、人間社会のことを知っている!?」
「草木が風に乗って、私に噂を教えてくれましたことよ……すでに勇者は生まれて、修行中だということも、ね」
「!!」
「なんですって……」
俺とトモエさん、あのとき天啓の間にいた人物。そしてごく少数の人間しか知り得ない、勇者の生誕。それをこいつは知っている。
「申し上げましたでしょう。私は植物の話を聞けます。そして、我々の聖域からは、あらゆる草原、森、密林に転送が可能なのですよ」
「お前まさか!」
俺は最悪の事態を想定した。
この女の付き人、カルマンダ並の強さをもつエルフェイが、その聖域に居たとしたら──。
「そう。私の一言で……大湿原ロピカナに、謎の軍勢を送りつけることも……ふふっ。勇者が修行中に、事故があっては大変ですわよね」
「脅しの、つもり、か」
「さあ? 私のひとりごとかも、しれませんよ」
そしてその妖艶の美女──シトリスは、再度、お茶をすすった。
「ふふっ。聖域にお越しの際は、もっと美味しいお茶を御馳走いたしますわよ」




