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66.ティーパーティー

 建物は片付いてないし、修理も未だ終わっていない。客間は資材置き場になっていた。

 そのため、奴らには外でテーブルに付いてもらうことにした。


 元は、試験用の花壇があったところだ。そこに、丸い白テーブルを準備し、俺とシトリスが席についた。


 冬が迫っている庭園は、昼間でも肌寒さが残っていた。

 しかしここなら、常に、庭木組《ガーデン》と料理組(キッチン)の目が届く。

 すくなくとも、俺たちに不利な場所ではない。


 席に着いたシトリスの後ろには、カルマンダが立っていた。素人目にみても、彼女にはスキがなかった。実際にトモエさんと殺り合ったのだから、相当の実力者である。

 そして俺の後ろには、トッシュとトモエさんに立ってもらっている。


 そして……。


「お、お茶を、お持ちしました」


 ウェルテがティーポットを持ってきた。料理組(キッチン)が焚き火で淹れてくれた紅茶だ。

 彼女は、俺とシトリスのティーカップにお茶を注いた。


「ありがとう、ウェルテ。君もここにいてくれ」

「は、はい」


 ウェルテが一歩引き、まっすぐ背筋を正した。

 これで、役者は揃った。


「……」

「……」


 しばし沈黙が続いた。

 俺は、シトリスをずっと見ていた。

 開花宣言の能力で覗いてみた彼女の花は、巨大な花弁だった。魔力の素質によるものだ。

 しかし、その花はかなり『くたびれていた』。枯れる、という感じではない、かなり長い時間を生きている植物に見られるものだ。


(エルフェイは長寿といわれるが、かなりの高齢だぞ彼女)


「……ふふっ」

 沈黙に耐えかねたかのように、シトリスが笑った。


「何が可笑しい?」

「いえ、貴方がじっと見つめてくるので」


 ふざけんな。好きで見ているんじゃない。

 お見合いじゃねえんだぞ。


「それにしても……。エルフェイがここにいるとはね」

「!!」


 シトリスが俺から目線を外し、横にいたウェルテに視線を移した。


「わ、わたしのことご存知ですか!?」

「……いいえ。良くは知らないわ。今の貴方の名前も知らないの」


 そういうとシトリスは、注がれた紅茶のカップを持ち上げた。


「いい香りね」


 しかし、彼女はお茶を飲まなかった。

 しばらく、訝しげな表情でティーカップと、俺。そして、ウェルテに目線を泳がせていた。


「……毒なんか、入っていないよ」

 俺は自分のカップを持ち上げ、一口すすった。甘い香りが鼻に抜ける。

 俺謹製の茶葉で作った紅茶だ。


「……ふふっ」

 俺の行動を見て、シトリスもカップに口をつけ、紅茶を一口飲んだ。


「マズっ」

 急に顔を顰(しか)め、そのままカップを置いた。

 失礼極まりない。


「あら、そうでしたわ……『私には口に合わなかったようです』」

 言い換えが遅いよ。

 実は結構な自信作の茶葉だっただけに、内心、精神的ショックがデカい。


 ……まあいい(よくないけど)。

 本題に移ろう。


「単刀直入に聞こう。何をしに来た」

「話し合い、ですよ。争いを止めるための」

「お前らが先に手を出してきたんだろうが」

「……あなたを歓迎したいのです。アル=パタルー」


 シトリスは真っ直ぐに俺を見つめていた。


「それ、なんなんだよ。アル=パタルーって」


 俺も俺で、その言葉に興味を示していた。


「なるほど、あなたがアル=パタルーである自覚がない、と」

「……『開花宣言』の、ことか」

「ご明察ですわ」


 シトリスはニコリと笑った。

 いや、ニコリ、という表現には違和感がある。

 優しい微笑みではない。とても冷たい笑みだった。


「ご存知でしょう。300年前の魔王によって、世界樹は切り倒され、エルフェイの多くが滅ぼされました」

「そうらしいな、けど、今ここに居るってことは。細々と生きていたということか」

 相手の冷笑に反抗するように、こちらも自然と口が悪くなっていた。


「ふふっ、そうよ。難を逃れた一部の我々(エルフェイ)は、手つかずの自然の中に聖域(シェルター)を作り出し、生きながらえたのよ──唯一残された、『世界樹の種』を使って、ね」

「世界樹の、種、だって?」


 また新たな言葉がでてきた。

 300年前に伐採された世界樹の、種が残っているというのか。


「ええ。我々エルフェイは、世界樹から潤沢に供給されるマナを使い生きていました。しかし、世界樹が切り倒され、糧を失ったエルフェイは滅びを待つばかりでした。しかし、一部の我々(エルフェイ)は世界樹の種を見つけ出し、そこから漏れ出るマナを啜り、生き延びたのです。ですが……」

「ですが?」


 エルフェイが生き長らえた理由は、これではっきりした。世界樹の種が、彼女らの命を繋いでいたのだ。


「もう、森が。そして、種が、限界なのです」


 シトリスはそう言うと、急にしおらしくなった。そして顔を自分の手で覆い、嗚咽を漏らした。


「どんなに、長寿な植物であっても、寿命はあります。そして、世界樹の種では……我々のマナを補うには限界があったのです……」


 うう、と泣きながら訴えるシトリス。

 後ろに立っていたカルマンダも、ハンカチを手に取り自らの涙を拭いていた。


「……嘘泣きは辞めてもらえないか?」

「あらバレましたか。ここは泣く場面と思ったのですが」


 シトリスは顔をあげこちらを見た。全く涙は流れてなかった。ケロっとしていた。

 カルマンダも素面に戻っていた。


 表面ばかり体裁を整えるコイツら。

 種族の違いはあれど、ここまで人間を小馬鹿にしたような行動をされると、こちらとしても至極やりにくい。


「……そうか、だから『俺』なのか」

「ふふっ。お話が早くて助かります。アル=パタルーには、『世界樹の開花』を行って頂きたいのです」


 コイツらの目的が、明らかとなった。

 自分たちが生き延びるため、世界樹の再生を目指していたってわけか。

 しかし一つ疑問が残る。


「あんたも、植物を操る能力じゃないのか?」

「残念ながら、私の力は植物を『操る』だけです。急成長も可能ですが、アル=パタルーのような、『発芽や開花をさせる能力』ではないのです」


 つまりシトリスの能力と、俺の能力は、似て非なるもの。まったく違う能力だという。


「なるほどね。つまり正確には、俺ではなく『俺の能力』目当てってこと、か」

「いいえ……もうひとつ。あなたでなければならない理由があるのですよ」

「なに?」


 能力目当てだと思っていたが、シトリスの口からそれは否定された。

 どうやら、もうひとつの理由があるらしい。


「……うちの屋敷を、ここまでめちゃめちゃにするほどのことだ。それほど切羽詰まった理由があるんだろうな」


「私がほしいのは、能力だけではない。『あなたがほしい』の、アル=パタルー」


「……」

「……」



「……」

「……」


「……そんなに見つめられると、照れてしまいますわ」

「……」




 え?





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