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65. 人間の礼節のマネ

「ごきげんよう」

 そのエルフェイの術師は、ドレスの裾をつまみ礼をした。

 その横に立つ大女は、ドレスではなくスーツ姿だった。男装の令嬢という形容が合致する。


「……どういう真似だ」

 あからさまに嫌悪感をだして、俺は、正門の鉄格子越しに悪態をついた。

 用心のため、トッシュとトモエさんを連れて来た。そして離れには、料理組(キッチン)も待機している。ちょうどキャンプの片付けをしてたので、ついでに警戒してもらっている。


「あら、人間の礼節を真似たのですけどね」

 そのエルフェイの女は笑顔だった。憎らしいほど、美人な笑顔だ。


「何をしに来た」

 もう一度俺は、嫌悪感丸出しで返答を求めた。


「はじめまして──ではありませんけど。私の名前は、シトリス。こちらはカルマンダですわ」

 こちらの意図に反して、彼女らは自己紹介を始めた。

 それでいて彼女らの一挙一動には、何故か嫌悪感を覚えた。

 非常に懇切丁寧な立ち振る舞いなのだが、なにか違和感があった。


「……」

「あら? おかしいですわね。人間の作法では、まずは自己紹介と聞いていたのだけど」

 シトリスが首をかしげた。隣の大女、カルマンダも、やれやれといったような表情を見せてきた。


(そうか、こいつら!)

 彼女たちから覚える不快な感じの理由がわかった。

 このエルフェイ共は、表面だけ人間の礼節を真似ているだけで、内心は『これっぽっちも礼を重んじていない』のだ。


「……もう一度聞く。何しに来た」

「私達は、話し合いに来ました」

 そんな俺の感情は全く読み取られることなく、そして悪びれもなく、口を開く。


「話し合い、だと?」

「ええ、無益な殺生はしない。これ以上無駄な血は流したくない、というやつかしら?」


 くすくすと、シトリスは笑った。

 その笑い方は、うちの使用人たちの神経を逆なでするには十分だった。


「……ふざけやがって」

 トッシュが、斧を強く握り直した。

 トモエさんも無言で、双剣を抜いていた。


「待て」

 しかしそんな彼らを、俺が制した。


「あら?」

 シトリスは、笑った顔のまま首を傾げた。


「これ以上の被害を出さずに、こんなふざけた事を終わらせられるなら、俺は賛成だ」

「あらあら」

 俺の提案はそれほど驚きだったのか。女は笑顔のまま、口調だけは驚嘆の声だった。


「トモエさん、彼女たちを招こう」

「なにを!」

 そしてそれ以上に、トモエさんは驚いていた。

 もちろん、トモエさんの気持ちは痛いほど分かる。

 庭をグチャグチャにされ、屋敷を破壊され、そして従業員に多大な被害を与えたコイツを、俺は招き入れようとしたのだから。


「でもまずは、同じテーブルにつかなければ、なにも始まらない」

「くっ……わかりました」


 そういうとトモエさんは双剣をしまい、トッシュは正門を開放した。いずれも、納得いかない渋い顔である。


 そりゃ俺も悔しいさ。

 このケンカは、あいつらが仕掛けてきたのだから。

 それを、向こうから話し合おうだなんて──身勝手にもほどがある。


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