表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/61

第7話 第二試験

 第一試験終了後。


 試験場は、まるで戦場のような有様だった。


 骨折者。


 火傷。


 気絶者。


 医療班が慌ただしく動き回り、脱落者達を次々と搬送していく。


「うわぁ……」


 ガルドが顔を引きつらせる。


「毎年こんななのか?」


「……どうなんだろ」


 カナトは答えながら、無意識に負傷者達へ視線を向けていた。


 呼吸。


 出血量。


 骨の変形。


 つい確認してしまう。


 その様子を、少し離れた場所からリゼアが見ていた。


 理解できないものを見るような目。


 だがそこには、ほんの僅かな戸惑いも混じっていた。


 何故そこまで他人を気にするのか。


 何故、自分が傷つく危険を冒してまで助けるのか。


 力を持つ者は、もっと合理的であるべきだ。


 少なくとも、彼女はそう教わってきた。


「……?」


 カナトが視線に気づく。


 だがリゼアはすぐに顔を逸らした。



「これより第二試験を開始する」


 試験監の低い声が響く。


 生き残った受験者達が、一斉に前を向いた。


 人数は既に半分以下まで減っている。


「第二試験は、サバイバル形式だ」


 ざわめき。


 試験監は背後の巨大な門を示す。


 その先には、広大な森林地帯が広がっていた。


「制限時間内に、規定数のメダルを獲得しろ」


 受験者達へ、小さな魔術具が配られる。


 掌サイズの銀色のプレート。


「メダルはフィールド各地に隠されている。また、魔物を討伐した際にも獲得可能だ」


 探索能力。


 戦闘能力。


 判断力。


 全てが必要になる。


「なお」


 試験監が続ける。


「受験者同士の直接攻撃は禁止とする」


 少し空気が緩む。


 だが。


「ただし」


 試験監の目が細くなる。


「自己責任だ」


 その言葉だけ、妙に重かった。



 試験開始の合図と同時に、受験者達が森へ散っていく。


 カナトは深く息を吐いた。


「さて……」


 右眼が熱を持つ。


 世界が静かになる。


 木々の向こう。


 地中。


 空気。


 不自然な魔力反応。


 その全てが線となって浮かび上がる。


「……あった」


 木の根元。


 土に埋められたメダル。


 カナトは迷わず回収した。


「お前、なんでそんなすぐ見つけられるんだ……?」


 ガルドが若干引き気味に言う。


「なんとなく」


「絶対なんとなくじゃねぇだろ」


 さらに奥へ進む。


 すると。


 茂みが揺れた。


 直後。


 巨大な狼型魔物が飛び出す。


「グルルルルッ!!」


「うおっ!?」


 ガルドが剣を構える。


 だが。


「待って」


 カナトが静かに言った。


 右眼が魔物を解析する。


 筋肉の動き。


 骨格。


 魔力循環。


 そして。


「左前脚」


「は?」


「そこ、怪我してる」


 次の瞬間。


 魔物が飛びかかってきた。


 ガルドが迎撃しようとした、その前に。


 カナトが最小限の動きで回避。


 すれ違いざま、左前脚へ剣の腹を叩き込む。


 バキィッ!!


「ギャウッ!?」


 魔物が体勢を崩した。


「今!」


「お、おう!」


 ガルドの大剣が叩き込まれる。


 魔物はそのまま崩れ落ちた。


「……マジかよ」


 ガルドが絶句する。


「弱点だけ潰した……?」


「怪我庇ってたから」


「見ただけで分かるもんなのか普通!?」


 カナトは答えなかった。


 答えられなかった。


 自分でも、何故分かるのか説明できない。


 ただ、“視える”。


 それだけだった。



 試験開始から数時間後。


 カナト達は順調にメダルを集めていた。


 だが。


「……静かだな」


 ガルドが足を止め、大剣の柄へ手をかける。


 確かに妙だった。


 鳥の声が消えている。


 空気が重い。


 肌へまとわりつくような嫌な静けさ。


 その瞬間。


 右眼が警鐘のように熱を持った。


「ガルド、伏せ――!」


 直後。


 カナト達の上を炎の弾が通り過ぎていった。


 同時に、木々の影から五人の受験者が飛び出した。


 剣。


 魔術。


 完全武装。


 連携慣れした貴族の混成部隊。


「大人しくメダル置いてけよ」


 先頭の男が下卑た笑みを浮かべる。


「ルール違反だろ、それ」


 ガルドが睨む。


 だが男は笑みを深めた。


「ああ、直接攻撃は禁止だよな」


 男の指先に魔力が集まる。


 「でもあれは誤射だ、意図して狙ったわけじゃない」


 貴族たちはゲラゲラと愉快そうに笑っている。


「それに、お前らの足元を爆破して、暴れた魔物に噛み殺されるのは――ただの事故だろ?」


 ぞわり、と空気が冷える。


 これが。


 試験監の言っていた“自己責任”。


 カナトは奥歯を噛み締めた。


 右眼を細める。


 軌道。


 位置。


 魔力。


 攻撃タイミング。


 最適解を探す。


 だが。


(足りない……!)


 人数が多い。


 遮蔽物も少ない。


 ガルドと二人では、どうしても捌ききれない。


 男達の魔術が放たれようとした、その瞬間。


 ――キィィィン。


 鼓膜を突き刺すような熱量の収束音。


「……え?」


 襲撃者達が反射的に空を見上げる。


 頭上。


 木々の隙間から見える空が、真紅に染まっていた。


 熱波。


 陽炎。


 空間そのものが焼けて歪む。


 そして。


 一人の少女が、ゆっくりと歩み出る。


 リゼア・ヴォルト。


 その赤い瞳が、襲撃者達を冷たく見下ろしていた。


「姑息な真似をするのね。反吐が出るわ」


「ヴ、ヴォルト家の……っ!」


 男達の顔色が変わる。


「待て、俺たちは別に実力行使をしてるわけじゃ――」


「邪魔」


 次の瞬間。


 太陽が墜ちた。


 轟音。


 真紅の爆炎が森を呑み込む。


 木々。


 地面。


 襲撃者達。


 その全てを、圧倒的熱量が飲み込んでいった。


 衝撃波でカナトの髪が激しく揺れる。


 数秒後。


 あとに残ったのは。


 黒く焼けた地面と、気絶した襲撃者達だけだった。


 熱気の中。


 リゼアは静かに炎を消す。


 汗一つかいていない。


 まるで散歩の途中だったかのように。


「…………」


 助けられた。


 そう認識するまで、少し時間がかかった。


 理屈でルールを潜り抜けようとした者達を。


 リゼアは、ルールごと焼き払った。


 呆然とするカナトを見ながら。


 リゼアは、不機嫌そうに小さく鼻を鳴らした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ