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第51話 少しずつ

 アルビオンでの日々は、静かに積み重なっていた。


 午前は講義を受け、医療部門で診療記録の整理や備品の補充を手伝う。


 午後は任務や訓練に備え、それぞれが必要な技術を磨く。


 派手さはない。


 だが、そうした積み重ねが現場を支えているのだと、カナトにも少しずつ分かり始めていた。



 その日もカナトは医療部門の処置室にいた。


 棚へ薬品を戻し、使い終わった器具の確認を終える。


「ありがとう」


 担当の隊員が笑顔を向けた。


「最初の頃よりずっと手際が良くなったね」


「ありがとうございます」


 まだ覚えることは山ほどある。


 それでも、自分が役に立てていると思える瞬間は嬉しかった。



 午後からは街道沿いの巡回任務だった。


 暖かな陽気もあって往来は多い。


 荷馬車が行き交い、旅人達の姿も見える。


 大きな事件は起きなかった。


 その代わり、小さな困り事が次々と舞い込んでくる。


 荷車から降りる際に足を捻った商人。


 転んで膝を擦りむいた子ども。


 魔物に襲われたわけではない。


 命に関わる怪我でもない。


 それでも治療を終えると、皆ほっとした表情を浮かべて頭を下げてくれた。


 カナトは、その度に治癒師という仕事の意味を改めて実感する。



 巡回を終えた帰り道。


 レオンがふと口を開いた。


「最近、判断が早くなったね」


「そうですか?」


「うん」


 以前なら立ち止まって考えていた場面でも、今は自然と身体が動いている。


 患者の状態を確認し、必要な処置を選び、迷わず治癒魔法を施す。


 経験が少しずつ知識へ結び付いてきた証拠なのだろう。


「まだまだです」


 そう答えると、レオンは穏やかに笑った。


「その気持ちを忘れなければ大丈夫だよ」



 任務報告を終えた後、カナトは医療部門の図書室へ立ち寄った。


 棚から応急処置の専門書を取り出す。


 ページをめくると、巡回中に対応した症例とよく似た記述が目に入った。


 現場で経験したことが、文字として理解に繋がっていく。


 以前なら難しく感じていた内容も、今は自然と頭へ入ってきた。


「なるほど……」


 思わず小さく呟く。


 学ぶことは尽きない。


 だからこそ面白い。


 静かな図書室で本を閉じた時、カナトは橋の任務へ向かう前よりも、自分がほんの少し成長していることを感じていた。


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