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第48話 任務の終わり

 翌朝。


 橋の上には再び木槌の音が響いていた。


 昨日の戦闘が嘘だったかのように、作業員達は補修作業へ戻っている。


 川の流れる音。


 木材を切る音。


 職人達の掛け声。


 穏やかな朝だった。


 カナトは橋の欄干へ手を置きながら、その光景を見つめる。


「不思議です」


 思わず呟いた。


「何が?」


 隣からレオンの声が返ってくる。


「昨日あんなことがあったのに、もう普通に作業してるんだなって」


 レオンは橋の上を見渡した。


 補修箇所を確認する職人。


 木材を運ぶ作業員。


 橋脚を点検する技術者。


 皆忙しそうだ。


「まあ、生活があるからね」


 レオンは苦笑する。


「橋が使えないと困る人もいるし」


 カナトは昨日ギルフォードが説明していた地図を思い出す。


 影響人口三千。


 橋一本が止まるだけで、多くの人の生活が変わる。


 頭では理解していた。


 だが今は少しだけ実感できる。


 橋を守るということは、人を守るということなのだと。



 補修作業は順調だった。


 群れの襲撃以降、魔物は現れていない。


 周辺警戒を続ける隊員達にも大きな動きはないようだった。


 カナトは橋脚近くで負傷した隊員達の最終確認を行っていた。


 昨日治療した槍兵も元気そうに歩いている。


「ありがとう」


 その隊員が頭を下げた。


「おかげで今日も動けるよ」


「それなら良かったです」


 カナトは笑う。


 治療をして感謝される。


 それは当たり前のことなのかもしれない。


 それでも嬉しかった。


 昨日、自分がやったことは無駄ではなかったのだと思える。



 昼頃になると補修は大部分が終わった。


 橋の中央では職人達が最終確認を行っている。


 その様子を見ながら、レオンが伸びをした。


「どう?」


 突然聞かれた。


「初任務」


 カナトは少し考える。


 思い出すのは昨日の光景だった。


 群れ。


 炎。


 負傷者。


 ギルフォード。


 そして。


「思ってたのと全然違いました」


 正直な感想だった。


 レオンが笑う。


「あはは」


「だろうね」


「もっと戦うものだと思ってました」


「まあ新人はみんなそう言うかな」


 レオンは肩を竦めた。


「でも実際は、戦わなくて済むならそれが一番だから」


 その言葉にカナトは頷く。


 昨日、自分が剣を振った回数は多くない。


 むしろ治療や避難誘導の方が圧倒的に多かった。


 けれど。


 あれこそが自分の仕事だった気もする。



 少し離れた場所ではリゼアが橋の外を見つめていた。


 風が長い髪を揺らしている。


 一人だった。


 珍しく誰とも話していない。


 カナトは少し気になった。


「リゼア」


 声を掛ける。


 リゼアは振り返った。


「ああ、カナト」


「どうしたんだ?」


「別に」


 そう言いながらも視線は森の方へ戻る。


 昨日、上位個体が現れた方向だった。


 少しだけ沈黙が流れる。


「隊長、凄かったね」


 カナトが言う。


 リゼアは小さく頷いた。


「そうね」


 短い返事だった。


 いつものような勢いがない。


 カナトは首を傾げた。


 だが、それ以上は聞かなかった。



 夕方。


 最後の確認が終わる。


 橋は無事に補修された。


 作業員達から拍手が起きる。


 職人達の表情にも達成感が浮かんでいた。


 ギルフォードはそれを確認すると小さく頷く。


「任務完了だ」


 その一言で空気が緩む。


 隊員達の間から安堵の息が漏れた。


 大きな怪我人も出なかった。


 橋も守れた。


 十分な結果だった。


 帰還準備が始まる。


 荷物をまとめる隊員達。


 談笑する作業員達。


 その光景を眺めながら、カナトは空を見上げた。


 夕陽が山の向こうへ沈もうとしている。


 オレンジ色の光が橋を照らしていた。


 初任務。


 終わってみれば短かった気もする。


 だが学んだことは多い。


 レオンのこと。


 ギルフォードのこと。


 そしてアルビオンという組織のこと。


 まだ分からないことばかりだ。


 それでも。


 少しだけ前へ進めた気がした。


「帰ろうか」


 レオンの声が聞こえる。


 カナトは頷いた。


「はい」


 夕暮れの橋を背に、第九班は帰路につく。


 それぞれが違う思いを抱えながら。


 次の任務へ向かうために。


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