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魔眼治癒師の最適解  作者: 鍵音-kagine-


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第4話 アルビオン

 アルビオンへの道は、想像以上に長かった。


 大型馬車に揺られながら、カナトは窓の外を見る。


 途中で合流する受験者たちは、どれも貴族らしい佇まいをしていた。


 豪華な装備。


 高価そうなローブ。


 聞こえてくる家名。


 誰も彼も、自信に満ちている。


「……場違い感すごいな」


 小さく呟く。


 すると向かいの席から声が飛んだ。


「お前も受験者か?」


 振り向く。


 そこには、大柄な少年が座っていた。


 金色に近い茶系統の短髪。


 筋肉質。


 背中には大剣。


 見るからに戦士タイプだった。


「そうだけど」


「へぇ」


 少年はカナトを上から下まで眺める。


「平民?」


「まあ」


「珍しいな。アルビオン受ける平民なんて初めて見た」


 悪意はない。


 純粋な驚きだった。


「俺はガルド。戦術部門希望」


「カナト。医療部門希望」


「……医療?」


 ガルドが目を丸くしてカナトの腰にある剣を見た。


「剣持ってるのにか?」


「親に持たされた」


「変わってんな、お前」


 はっきり言われた。


 カナトは苦笑する。


 そんな会話をしているうちに、馬車がゆっくりと速度を落とした。


 窓の外。


 巨大な白亜の壁が見える。


 塔。


 紋章。


 複数の施設を内包した、圧倒的な巨大建造物。


 そして中央には、巨大な門。


「――あれが、アルビオン……」


 思わず息を呑む。


 城にも見える。


 だが同時に、どこか異質だった。


 軍事施設。


 研究機関。


 治療院。


 それら全てを混ぜ合わせた空気。


 自然と右眼が熱を持つ。


 まるで、自分を呼んでいるかのように。



 巨大な門を潜った瞬間、空気が変わった。


 街とは違う。


 空気そのものが張り詰めている。


 行き交う人々は皆、無駄がない。


 白い制服を身に纏った治癒師。


 武装した戦術部隊。


 奇妙な魔術具を運ぶ研究員。


 その全てが、一つの巨大組織として機能していた。


「……すごい」


 思わず漏れた。


 ガルドも周囲を見回している。


「これ全部アルビオンかよ……」


 その時だった。


 前方を歩いていた受験者の一団が、急に道を開け始める。


 ざわめき。


 緊張。


 カナトも視線を向ける。


 数人の戦術部隊員に囲まれながら、一人の老人が通路を歩いていた。


 仕立ての良い衣服。


 杖。


 だが、その目には鋭さが宿っている。


 そして。


 カナトは気づいた。


「あ……」


 一年前。


 グレイオーガから助けた老人。


 向こうもこちらへ気づいたらしい。


 一瞬だけ目を細める。


 だが、老人は何も言わず、そのまま通り過ぎていった。


「知り合いか?」


 ガルドが小声で聞く。


「いや……」


 言いかけて、やめた。


 なんとなく、軽々しく話してはいけない気がした。



 受付は、異様なほど厳格だった。


「推薦状を」


 無機質な声。


 カナトは封筒を差し出す。


 受付係の女性は、推薦状の金色の紋章――その下にある署名へ目を落とした瞬間、息を呑んだ。


 弾かれたように顔を上げ、カナトを凝視する。


「……あなたが、この推薦状を?」


「はい。……何か問題でも?」


「い、いえ……」


 受付係の指先が、僅かに震えている。


 脳裏に、先ほど通り過ぎた老人の姿が浮かぶ。


(……あのおじいさん、やっぱりただ者じゃなかったのかな?)


 周囲の受験者達も、その異様な反応にざわつき始めていた。


「失礼しました」


 受付係は慌てて姿勢を正す。


「カナト様、控え室へお進みください」


 “様”。


 その呼び方に、カナトは思わず目を瞬かせた。


 だが受付係の目には、まだ戦慄の色が残っている。


「お前、何したんだ?」


 ガルドが引き気味に聞いてくる。


「いや、本当に知らないって……」


 本当に分からなかった。



 控え室には、既に多くの受験者が集まっていた。


 きらびやかな装飾を施した剣。


 高名な魔導師が仕立てたようなローブ。


 すれ違うだけで肌に刺さる、特権階級特有の傲慢な視線。


 そこは完全に、カナトの知らない貴族社会の縮図だった。


 カナトは小さく息を吐く。


「……本当に来ちゃったな」


 推薦状を握り直した、その時だった。


 ――空気が変わる。


 ざわり、と控え室全体が物理的に揺れたような錯覚が走った。


 重厚な扉が開く。


 一人の少女が入ってくる。


 燃えるような長い赤髪。


 透き通るような白い肌。


 そして――。


 カナトの右眼が、突如として激痛に近い熱を持った。


「っ……!」


 視界の奥、世界が歪む。


 少女の周囲だけ、大気中の魔力濃度が異常なほど跳ね上がっていた。


 真紅の魔力。


 一本の剣のように、揺らぎなく研ぎ澄まされている。


 一切の無駄がない。


 それなのに、その魔力量だけは常識を遥かに超えていた。


 研ぎ澄まされた刃から溢れ出した熱が、そのまま空間を歪ませているように見える。


 空間そのものが、その魔力に耐えきれず軋んでいるようにすら見えた。


 圧倒的。


 その一言だった。


 下手な魔術師なら、近づくだけで精神を呑まれそうなほどの魔力。


 さっきまで大柄な態度だった貴族の受験者達が、誰もが言葉を失って立ち尽くしている。


「……リゼア・ヴォルトだ」


 誰かが恐怖を堪えるように小さく呟いた。


 少女――リゼアは、周囲の視線など意にも介さず歩く。


 その赤い瞳が、一瞬だけカナトを捉えた。


 値踏みするような視線。


 だが次の瞬間には、興味を失ったように逸らされる。


「…………」


 ほんの一瞬だった。


 なのに。


 その姿が、どうしても脳裏から離れなかった。


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