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第39話 初顔合わせ

 正式配属の発表が終わっても、広場のざわめきはしばらく収まらなかった。


 投影板の前では、候補生達がそれぞれ自分の名前を探し、同じ班になった者同士で言葉を交わしている。


 喜ぶ者。


 安堵する者。


 不安そうに立ち尽くす者。


 反応は様々だった。


 カナトも改めて投影板へ目を向ける。


【第九班】


 医療部門 カナト


 戦術部門 リゼア・ヴォルト


 戦術部門 レオン・クロード


 自然と息を呑んだ。


 三人だけの班。


 研修中に何度も即席の班を組んできたが、これは違う。


 ここから先、同じ仲間として任務に就く正式な編成だ。


 責任の重さが、静かに胸へ落ちてくる。


「第九班は、今日は顔合わせだけになると思うよ」


 穏やかな声が隣から聞こえた。


 振り向くと、レオンが柔らかな笑みを浮かべている。


「そうなんですか?」


「うん。配属されたその日に任務へ出ることもあるけど、今回は引き継ぎがあるみたいだからね」


 気負った様子はない。


 歴代最高記録保持者という肩書きを聞いていなければ、ごく自然な先輩にしか見えなかった。


「明日からは分からないけど」


「……つまり、明日からは普通にあり得るんですね」


「あるね」


 あっさりと返ってくる。


 その軽さが、かえって現実味を帯びていた。


「問題ありません」


 リゼアが迷いなく口を開く。


「任務である以上、いつでも対応できます」


「頼もしいね」


 レオンは穏やかに頷いた。


 リゼアも短く会釈を返す。


 それ以上は何も言わない。


 どこか張り詰めた空気をまとっているように見えたが、カナトは深く考えなかった。


 緊張しているのだろう。


 正式配属なのだから、それも無理はない。


 その時だった。


「カナトー!」


 広場の向こうから聞き覚えのある大声が響く。


 人混みをかき分けて駆けてくるガルドと、その後ろを追うアイリスの姿が見えた。


「ガルドさん! 走らないでください!」


「急がねぇと見失うだろ!」


「だからって走る理由にはなりません!」


 いつもの調子だった。


 そのやり取りを見て、思わず口元が緩む。


「おう、第九班か!」


 ガルドが投影板を見上げる。


「リゼアも一緒なんだな」


「ええ」


 リゼアは小さく頷いた。


「そっちは?」


「第七班!」


 ガルドは胸を張る。


「アイリスと一緒だ!」


「もう少し落ち着いて報告してください」


 呆れたように言いながら、アイリスの表情もどこか嬉しそうだった。


「別々の班でも負けねぇからな」


「競うものなの?」


 カナトが首を傾げる。


「今決めた!」


「急だね」


「そういうもんだ!」


 差し出された拳に、カナトも笑って拳を合わせた。


 乾いた音が広場に響く。


「また会おうぜ」


「うん」


 短い約束だった。


 それだけで十分だった。



 第九班へ割り当てられた部屋は、広場から少し離れた棟の二階にあった。


 扉には簡素に『第九班』とだけ記されている。


 レオンが扉を開けた。


「ここが僕達の部屋だよ」


 中は拍子抜けするほど質素だった。


 机が三つ。


 椅子が三脚。


 壁際には資料棚と地図、端末が置かれている。


 余計な装飾は何もない。


「思ったより普通ですね」


 カナトが呟くと、レオンは小さく笑った。


「もっと凄い部屋を想像してた?」


「少しだけ」


「期待に応えられなくてごめんね」


 冗談めかしてそう言いながら、椅子へ腰を下ろす。


 その自然な振る舞いだけで、部屋の空気が少し柔らかくなった気がした。


「改めてよろしく」


 レオンは二人を見回す。


「配属された瞬間から、完璧な班になれる人なんていない」


「意見が食い違うこともあるし、失敗することもある」


「だから焦らなくていい」


「少しずつ、一緒に歩いていければ十分だよ」


 押しつけるような口調ではなかった。


 経験を積んだ人間だからこそ言える、穏やかな言葉だった。


「……分かりました」


 リゼアが静かに答える。


 その返事は短かったが、レオンは満足そうに頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。


 カナトも椅子へ腰を下ろす。


 窓の外では、夕焼けがアルビオンの街並みを赤く染めていた。


 研修は終わった。


 明日から始まるのは、本当の任務だ。


 試験ではない。


 誰かの命を救うための仕事。


 静かな部屋の中で、カナトは改めて投影板で見た三人の名前を思い浮かべる。


 第九班。


 三人だけの小さな班。


 その物語が、今、静かに始まろうとしていた。


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