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第38話 配属発表

 翌日。


 研修生達は朝から落ち着かなかった。


 最終適性試験は終わった。


 講評も終わった。


 残るのは一つ。


 正式配属。


 これから先の運命を決める発表だった。


 広場には多くの候補生が集まっている。


 普段より騒がしい。


 期待。


 不安。


 緊張。


 様々な感情が入り混じっていた。


 やがて。


 巨大な投影板が起動する。


 ざわめきが止まった。


『正式配属先一覧』


 文字が浮かび上がる。


 候補生達が一斉に見上げた。



 カナトは自分の名前を探した。


 そして。


 見つける。


【第九班】


 思わず視線が止まった。


【カナト】


 その下。


【リゼア・ヴォルト】


「リゼア?」


 思わず声が漏れる。


 少し離れた場所から。


「カナト?」


 聞き慣れた声が返ってきた。


 リゼアも同じ場所を見ていたらしい。


 一瞬だけ目が合う。


「同じ班みたいね」


「そうみたいだ」


 二人とも少し驚いていた。


 研修期間で最も多く関わった同期。


 その相手と再び同じ班になる。


 不思議な縁だった。


 さらに視線を下へ移す。


【レオン・クロード】


 広場の空気が変わった。


「レオンだ」


「第九班か……」


「歴代最高記録保持者だろ?」


 あちこちで囁きが聞こえる。


 カナトはその名前を見つめた。


 試験中も。


 結果発表でも。


 何度も耳にした名前。


 歴代最高記録保持者。


 レオン・クロード。


 その本人が同じ班になる。



 一方。


 リゼアは動けなかった。


 視線が名前から離れない。


 レオン・クロード。


 追い続けてきた背中。


 何度も見上げてきた記録。


 届かなかった頂。


 その本人が。


 同じ班になる。


 胸の奥がざわついた。


 嬉しいのか。


 悔しいのか。


 分からない。


 ただ一つだけ。


 確かなのは。


 もう遠くから見上げるだけでは済まないということだった。



「おっ!」


 聞き覚えのある声が響く。


 ガルドだった。


 投影板を見ながら大きく笑っている。


「アイリス! 同じ班じゃねぇか!」


 少し離れた場所。


 アイリスが驚いた顔をしていた。


「ほんとだ……!」


 二人は顔を見合わせる。


【第七班】


 どうやら同じ班らしい。


 ガルドは嬉しそうに拳を握った。


「よし!」


「これなら退屈しなさそうだ!」


「もう少し緊張感持ってくださいよ……」


 呆れたように言いながらも、アイリスも少し嬉しそうだった。


 その光景を見て。


 カナトは小さく笑う。


 皆、それぞれの場所へ進んでいく。


 少しだけ寂しくて。


 少しだけ嬉しかった。



「なるほど」


 穏やかな声がした。


 カナトとリゼアが振り返る。


 一人の青年が立っていた。


 肩の力が抜けている。


 偉そうに立っている訳でもない。


 周囲を圧倒する威圧感もない。


 まるで以前からそこにいた先輩のような自然さだった。


 年齢は少し上だろう。


 整った顔立ち。


 柔らかな笑み。


 そして不思議と人を安心させる空気。


 青年は配属表を見上げる。


 それから二人へ視線を向けた。


「君達が第九班か」


 自然な口調だった。


 カナトが首を傾げる。


「あなたは?」


「ああ、失礼」


 青年は少し笑う。


「レオン・クロードだ」


 一瞬。


 周囲が静まり返った気がした。


 だが本人は気付いていない。


 あるいは気にしていない。


 そんな様子だった。


 レオンは自然に手を差し出した。


「よろしく」


 まずカナトへ。


 次にリゼアへ。


 ごく自然に。


 まるで肩書きなど存在しないかのように。


「はい、よろしくお願いします」


 カナトが握り返す。


「よろしくお願いします」


 リゼアも続いた。


 レオンは満足そうに頷く。


 そして二人を見比べた。


「なるほど」


「何がですか?」


 カナトが聞く。


 レオンは少しだけ笑った。


「クロエ主任、今は研修期間も終わったからクロエ教官かな?彼女が気に入る訳だ」


 嫌な予感がした。


「何て言っていたのでしょう?」


「面白い治癒師と優秀な魔法使いがいる」


 即答だった。


「やめてほしい……」


 思わず頭を抱える。


 その様子にレオンが笑う。


 リゼアも少しだけ口元を緩めた。


 張り詰めていた空気が和らぐ。



 レオンはそんな二人を見ていた。


 カナト。


 観察癖がある。


 考え込み過ぎるタイプだ。


 リゼア。


 真面目で優秀。


 家の付き合いで昔から知っているが。


 しばらく会わないうちに雰囲気が変わっている。


 責任を抱え込みそうな危うさを感じる。


 だがどちらも優秀だ。


 そして。


 どちらも少し不器用だった。


 だからこそ。


 面白い。


 レオンは小さく笑う。


 信じられる仲間がいるなら。


 それを使わないのは愚かだ。


 それが彼の信条だった。



 リゼアはふとレオンを見る。


 穏やかな横顔。


 柔らかな笑み。


 昔会った時と同じ表情。


 優しく、柔らかく、頼りがいを感じさせる立ち居振舞い。


 もっと冷徹で。


 もっと完璧で。


 もっと近寄り難い存在だったら良かった。


 だが。


 目の前にいるのは一人の人間だった。


 だからこそ。


 胸の奥が少し痛んだ。


 手の届かない英雄なら諦められた。


 怪物なら納得できた。


 だが違う。


 同じように笑う。


 同じように話す。


 それなのに届かない。


 それなのに越えられない。


 胸の奥で小さな炎が揺れる。


 それはまだ向上心だけではない。


 焦りも。


 執着も。


 悔しさも混ざっている。


 誰にも見えない炎だった。


 それでも確かに燃えていた。



 第九班。


 カナト。


 リゼア。


 レオン。


 新しい第九班の物語が始まる。


 そしてそれは。


 研修ではない。


 本物のアルビオンの物語だった。



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