第38話 配属発表
翌日。
研修生達は朝から落ち着かなかった。
最終適性試験は終わった。
講評も終わった。
残るのは一つ。
正式配属。
これから先の運命を決める発表だった。
広場には多くの候補生が集まっている。
普段より騒がしい。
期待。
不安。
緊張。
様々な感情が入り混じっていた。
やがて。
巨大な投影板が起動する。
ざわめきが止まった。
『正式配属先一覧』
文字が浮かび上がる。
候補生達が一斉に見上げた。
◇
カナトは自分の名前を探した。
そして。
見つける。
【第九班】
思わず視線が止まった。
【カナト】
その下。
【リゼア・ヴォルト】
「リゼア?」
思わず声が漏れる。
少し離れた場所から。
「カナト?」
聞き慣れた声が返ってきた。
リゼアも同じ場所を見ていたらしい。
一瞬だけ目が合う。
「同じ班みたいね」
「そうみたいだ」
二人とも少し驚いていた。
研修期間で最も多く関わった同期。
その相手と再び同じ班になる。
不思議な縁だった。
さらに視線を下へ移す。
【レオン・クロード】
広場の空気が変わった。
「レオンだ」
「第九班か……」
「歴代最高記録保持者だろ?」
あちこちで囁きが聞こえる。
カナトはその名前を見つめた。
試験中も。
結果発表でも。
何度も耳にした名前。
歴代最高記録保持者。
レオン・クロード。
その本人が同じ班になる。
◇
一方。
リゼアは動けなかった。
視線が名前から離れない。
レオン・クロード。
追い続けてきた背中。
何度も見上げてきた記録。
届かなかった頂。
その本人が。
同じ班になる。
胸の奥がざわついた。
嬉しいのか。
悔しいのか。
分からない。
ただ一つだけ。
確かなのは。
もう遠くから見上げるだけでは済まないということだった。
◇
「おっ!」
聞き覚えのある声が響く。
ガルドだった。
投影板を見ながら大きく笑っている。
「アイリス! 同じ班じゃねぇか!」
少し離れた場所。
アイリスが驚いた顔をしていた。
「ほんとだ……!」
二人は顔を見合わせる。
【第七班】
どうやら同じ班らしい。
ガルドは嬉しそうに拳を握った。
「よし!」
「これなら退屈しなさそうだ!」
「もう少し緊張感持ってくださいよ……」
呆れたように言いながらも、アイリスも少し嬉しそうだった。
その光景を見て。
カナトは小さく笑う。
皆、それぞれの場所へ進んでいく。
少しだけ寂しくて。
少しだけ嬉しかった。
◇
「なるほど」
穏やかな声がした。
カナトとリゼアが振り返る。
一人の青年が立っていた。
肩の力が抜けている。
偉そうに立っている訳でもない。
周囲を圧倒する威圧感もない。
まるで以前からそこにいた先輩のような自然さだった。
年齢は少し上だろう。
整った顔立ち。
柔らかな笑み。
そして不思議と人を安心させる空気。
青年は配属表を見上げる。
それから二人へ視線を向けた。
「君達が第九班か」
自然な口調だった。
カナトが首を傾げる。
「あなたは?」
「ああ、失礼」
青年は少し笑う。
「レオン・クロードだ」
一瞬。
周囲が静まり返った気がした。
だが本人は気付いていない。
あるいは気にしていない。
そんな様子だった。
レオンは自然に手を差し出した。
「よろしく」
まずカナトへ。
次にリゼアへ。
ごく自然に。
まるで肩書きなど存在しないかのように。
「はい、よろしくお願いします」
カナトが握り返す。
「よろしくお願いします」
リゼアも続いた。
レオンは満足そうに頷く。
そして二人を見比べた。
「なるほど」
「何がですか?」
カナトが聞く。
レオンは少しだけ笑った。
「クロエ主任、今は研修期間も終わったからクロエ教官かな?彼女が気に入る訳だ」
嫌な予感がした。
「何て言っていたのでしょう?」
「面白い治癒師と優秀な魔法使いがいる」
即答だった。
「やめてほしい……」
思わず頭を抱える。
その様子にレオンが笑う。
リゼアも少しだけ口元を緩めた。
張り詰めていた空気が和らぐ。
◇
レオンはそんな二人を見ていた。
カナト。
観察癖がある。
考え込み過ぎるタイプだ。
リゼア。
真面目で優秀。
家の付き合いで昔から知っているが。
しばらく会わないうちに雰囲気が変わっている。
責任を抱え込みそうな危うさを感じる。
だがどちらも優秀だ。
そして。
どちらも少し不器用だった。
だからこそ。
面白い。
レオンは小さく笑う。
信じられる仲間がいるなら。
それを使わないのは愚かだ。
それが彼の信条だった。
◇
リゼアはふとレオンを見る。
穏やかな横顔。
柔らかな笑み。
昔会った時と同じ表情。
優しく、柔らかく、頼りがいを感じさせる立ち居振舞い。
もっと冷徹で。
もっと完璧で。
もっと近寄り難い存在だったら良かった。
だが。
目の前にいるのは一人の人間だった。
だからこそ。
胸の奥が少し痛んだ。
手の届かない英雄なら諦められた。
怪物なら納得できた。
だが違う。
同じように笑う。
同じように話す。
それなのに届かない。
それなのに越えられない。
胸の奥で小さな炎が揺れる。
それはまだ向上心だけではない。
焦りも。
執着も。
悔しさも混ざっている。
誰にも見えない炎だった。
それでも確かに燃えていた。
◇
第九班。
カナト。
リゼア。
レオン。
新しい第九班の物語が始まる。
そしてそれは。
研修ではない。
本物のアルビオンの物語だった。




