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第37話 講評

 結果発表後も、広場のざわめきは収まらなかった。


 順位を見て喜ぶ者。


 悔しそうに拳を握る者。


 仲間と健闘を称え合う者。


 様々な感情が入り混じっている。


 そんな中。


 前方の壇上へ数人の教官達が姿を現した。


 広場の空気が引き締まる。


 やがて。


 中央へ立ったクロエが口を開いた。


「静粛に」


 一言。


 それだけで広場が静まり返った。


 クロエは受験生達を見渡す。


「まずは最終適性試験、お疲れ様」


 淡々とした口調。


 だが。


 いつもの講義より少しだけ柔らかかった。


「結果に満足した者もいるでしょう」


「不満の者もいるでしょう」


「けれど」


 そこで一度言葉を切る。


「順位に囚われてはいけない」


 ざわりと空気が揺れた。


 順位発表の直後だからだ。


 当然の反応だった。


「勘違いしないこと」


 クロエは続ける。


「今回見たのは強さではない」


「組織の中で機能できるかどうかよ」


 カナトは静かに聞いていた。


 講義で何度も聞いた言葉。


 だが。


 試験を終えた今なら分かる。


 その意味が。


「優秀な個人は大勢いる」


「けれど」


「優秀な組織は少ない」


 クロエの視線が広場を巡る。


「全部を抱え込んだ者」


「独断で動いた者」


「仲間と連携出来なかった者」


 その言葉に。


 リゼアが僅かに目を伏せた。


 誰も気付かないほど小さな変化だった。


「逆に」


「自分の役割を理解し」


「仲間へ任せ」


「組織として成果を出した者もいる」


 そこで。


 一瞬だけ。


 クロエの視線が第三班の方へ向いた。


 ほんの一瞬。


 責めるような冷たさはない。


 かといって褒めるわけでもない。


 ただ。


 そこにいた四人を見た。


 それだけだった。


 だが。


 エミールは思わず背筋を伸ばしていた。



 続いて別の教官が前へ出た。


 戦術部門主任だった。


「今年は面白かった」


 開口一番そう言った。


「特に混成試験だ」


 受験生達が耳を傾ける。


「医療と戦術」


「研究と後衛」


「互いの考え方の違いで衝突した班も多かった」


 何人かが苦笑する。


 第三班もそうだった。


「だが」


 主任は笑った。


「それでいい」


 意外な言葉だった。


「組織は仲良しごっこじゃない」


「意見が違うのは当たり前だ」


「重要なのは」


「誰が正しいかじゃない」


「何が正しいかだ」


 ディルクが腕を組む。


 表情は変わらない。


 だが。


 以前よりは素直に聞いているように見えた。



 講評が終盤へ差しかかる。


 再び前へ出たクロエは、静かに受験生達を見渡した。


「明日、正式配属を発表する」


 その瞬間。


 広場がざわついた。


 ついに来る。


 配属。


 誰と組むのか。


 どの班へ入るのか。


 研修期間の終わり。


 そして本当の始まり。


「今日で研修期間は終了よ」


 静かな声だった。


 だが。


 誰も聞き逃さない。


「けれど勘違いしないこと」


「配属はゴールじゃない」


 一拍。


 広場が静まり返る。


「ようやくスタートラインに立つだけよ」


 その言葉の重みを。


 誰もが感じていた。


「研修では失敗しても教官が助けてくれた」


「配属後は違う」


 クロエの視線が受験生達を貫く。


「あなた達の判断で仲間が助かり」


「あなた達の判断で仲間が死ぬ」


 息を呑む音が聞こえた。


 試験で見た死亡判定。


 あれは訓練だった。


 だが。


 現実は違う。


 取り消せない。


「だから学び続けなさい」


「考え続けなさい」


「そして」


 クロエは僅かに笑った。


「生き残りなさい」


 その一言が。


 どの講義よりも強く胸に残った。



 解散後。


 カナト達は広場を歩いていた。


「終わったな」


 エミールが大きく伸びをする。


「明日で解散かぁ」


 その言葉に。


 少しだけ沈黙が生まれた。


 第三班。


 ほんの一日だけの即席チーム。


 それでも。


 色々あった。


「寂しい?」


 ミレナが聞く。


「少し」


 エミールは素直に頷いた。


 ディルクは鼻を鳴らす。


「配属後も同じとは限らねぇ」


「だろうな」


 カナトも頷く。


 アルビオンは適性重視だ。


 同じ班になる保証はない。


 むしろ可能性は低いだろう。


「まあ」


 エミールが笑う。


「最後にちゃんと終われて良かったです」


 その言葉に。


 誰も否定しなかった。


 夕陽が広場を赤く染めている。


 長い影が四人分、足元へ伸びていた。


 数日前。


 顔合わせをした時は最悪だった。


 それが今では。


 同じ方向へ歩いている。


 少しだけ不思議だった。


 そして明日。


 新しい班が始まる。


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