第35話 信頼
死亡判定を受けた模擬患者を後にし。
第三班は残る負傷者の救助へ向かっていた。
先頭を進むのはディルク。
その後ろをカナト達が続く。
少し前までとは違う。
会話は少ないままだったが、不思議と空気は悪くなかった。
「北側まであと一分」
エミールが地図を確認する。
「了解」
ディルクが短く答えた。
その時だった。
ミレナが立ち止まる。
「待って」
全員が足を止める。
「どうした?」
ディルクが振り返る。
ミレナは少し先を見ていた。
「崩れる」
「何?」
次の瞬間。
前方で大きな音が響いた。
瓦礫の一部が崩落する。
もしそのまま進んでいたら巻き込まれていた距離だった。
エミールの顔が青くなる。
「うわっ……」
「助かった」
カナトが素直に言う。
ミレナは小さく肩をすくめた。
「見えただけ」
相変わらず短い。
だが。
その観察力のおかげで全員が無事だった。
「迂回する」
ディルクが即座に進路を変更する。
誰も異論はない。
数分後。
北側の負傷者へ到着した。
意識なし。
だが生存判定。
搬送可能。
カナトが診察する。
エミールが記録する。
ミレナが周囲を警戒する。
ディルクが搬送準備を進める。
自然だった。
誰かが指示しなくても。
それぞれが自分の役割を理解していた。
「担架いける」
ディルクが言う。
「うん」
カナトも頷く。
「搬送しよう」
負傷者を運び始める。
その途中。
エミールがぽつりと呟いた。
「何か、不思議ですね」
「何が?」
カナトが聞く。
「最初は絶対失敗すると思ってました」
正直な感想だった。
ディルクが眉をひそめる。
「おい」
「だ、だって!」
エミールが慌てる。
「顔合わせの時、凄かったじゃないですか!」
ミレナが僅かに口元を緩めた。
ディルクは露骨に嫌そうな顔をする。
「忘れろ」
「無理ですよ」
エミールが即答した。
カナトも少し笑う。
「確かに」
「お前まで言うのか」
ディルクが呆れたように言う。
そのやり取りに。
張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。
そして。
搬送地点まであと少しというところで。
ディルクが不意に口を開く。
「……おい」
誰もが顔を上げる。
ディルクは少しだけ言いづらそうな顔をしていた。
「何?」
カナトが聞く。
ディルクはわざと前方へ視線を向けた。
こちらを見ようとしない。
「……さっきの判断」
「うん」
「悪くなかった」
ぶっきらぼうな一言。
だが。
それがディルクなりの評価だった。
エミールが吹き出す。
「それ褒めてます?」
「うるせぇ」
即答だった。
ミレナが小さく呟く。
「素直じゃない」
「お前もか」
ディルクが頭を抱える。
カナトは少しだけ笑った。
それで十分だった。
第三班は負傷者を運びながら前へ進む。
試験終了まで、残りわずか。
だが。
まだ短い時間だけの関係だった第三班という即席のチームは。
それでも。
今、確かに一つの班になりつつあった。




