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第34話 死亡判定

 中央区域。


 第三班は三人の負傷者へ駆け寄った。


 だが。


 一人だけ動かない。


 呼びかけにも反応がない。


 エミールの顔が青ざめる。


「し、死んでる……?」


「まだだ」


 カナトは即座にしゃがみ込んだ。


 呼吸確認。


 脈拍確認。


 瞳孔確認。


 周囲が静まり返る。


 数秒。


 やがてカナトは端末を取り出した。


 模擬患者の識別番号を入力する。


 画面が切り替わる。


 そして。


【死亡判定】


 無機質な文字が表示された。


 誰も声を出さない。


 風が吹く。


 崩れた建物の隙間で、何かが軋む音だけが聞こえた。


 それでも。


 誰も動かなかった。


「そんな……」


 エミールが呟く。


 模擬患者だ。


 本当に死んだわけではない。


 それでも。


 助けられなかった。


 その事実だけは変わらない。


「次へ行くぞ」


 沈黙を破ったのはディルクだった。


 静かな声だった。


 エミールが振り返る。


「で、でも……」


「終わりだ」


 ディルクは言った。


「死亡判定が出てる」


「助けられない」


 正論だった。


 だが。


 エミールは納得できない顔をしている。


 カナトも画面を見つめたまま動かない。


【死亡判定】


 その四文字だけが妙に重かった。


 第一試験。


 優先順位。


 役割分担。


 講義では何度も学んだ。


 限られた人員。


 限られた時間。


 全員は救えない。


 頭では理解していた。


 だが。


 実際に突き付けられると違う。


 助けられなかった。


 ただそれだけで。


 胸の奥に小さな棘が刺さる。


「カナト」


 ディルクが呼ぶ。


 返事はない。


「お前なら助けられたと思ってるのか」


 その言葉で。


 カナトは顔を上げた。


「…違う」


 即答だった。


「たぶん無理だったと思う」


 ミレナが静かに聞いている。


 ディルクも黙った。


「でも」


 カナトは再び端末を見る。


「助けられなかったって事実は残るから」


 それだけだった。


 誰かを責めるわけでもない。


 試験内容を否定するわけでもない。


 ただ。


 助けられなかった。


 その結果を受け止めているだけだった。


 ディルクは少しだけ目を細める。


 そして。


「戦場じゃ珍しくねぇ」


 ぽつりと言った。


「助からない奴はいる」


 エミールが顔を伏せる。


「でも……」


「その間に助けられる奴がいる」


 ディルクの声は冷たく聞こえた。


 だが。


 その表情はどこか苦かった。


 きっと。


 知っているのだろう。


 そういう現場を。


 何度も。


 カナトはゆっくり立ち上がった。


「うん」


 短く頷く。


「行こう」


 その前に。


 端末へ入力する。


【対象番号:C-07】


【状態:死亡判定】


【対応:記録完了】


 保存。


 送信。


 無機質な電子音が鳴る。


 その音だけが妙に大きく聞こえた。


 記録は残る。


 助けられた患者も。


 助けられなかった患者も。


 同じように。


 残さなければならない。


 クロエ主任が言っていた言葉が脳裏をよぎる。


 記録とは。


 次の誰かへ繋ぐためのもの。


 ならば。


 この結果も残さなければならない。


 目を逸らさずに。


 第三班は再び歩き出す。


 カナトは前を歩くディルクの背中を見つめた。


 冷たい男だと思った。


 今もそう思う。


 けれど。


 それは誰かを見捨てるための冷たさではないのかもしれない。


 戦場で何度も同じ光景を見てきた故の割り切り方。


 その一端だけは、少し分かった気がした。


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