第31話 優先順位
三人。
負傷者は三人いた。
一人は足を負傷している。
一人は頭部から出血している。
そして一人は地面へ横たわったまま動かない。
「ど、どうする?」
エミールの声には焦りが滲んでいた。
ディルクは即座に動こうとする。
「決まってる」
横たわる負傷者を指差した。
「一番重症そうな奴からだ」
前衛らしい判断だった。
目の前で倒れている人間。
助けなければ死にそうな人間。
まずはそこから。
自然な考え方だ。
だが。
「待って」
カナトが制止した。
ディルクが振り返る。
「またか」
明らかに苛立っていた。
「説明して」
「は?」
「その人を最優先にする理由」
ディルクの眉間に皺が寄る。
「見れば分かるだろ」
「見た目だけ?」
「何が言いたい」
カナトは答えない。
代わりに三人の負傷者へ視線を向けた。
「エミール」
「は、はい」
「まず状況整理しよう」
その声は落ち着いていた。
エミールも少しだけ冷静さを取り戻す。
「足の人」
「歩けそうです」
「頭部の人」
「意識あります」
「横になってる人」
「反応なし」
そこで一度区切る。
「ここまでは全員同じ情報だよね」
エミールが頷いた。
ミレナも黙って聞いている。
ディルクだけが腕を組んだ。
「だから重症だろ」
「本当に?」
カナトは横たわる負傷者へ近付いた。
呼吸確認。
脈拍確認。
そして。
少しだけ肩の力を抜いた。
「……なるほど」
「何だ」
「この人の配置、反応がないことに意識を向けさせるためのものかもしれない」
エミールが目を瞬かせる。
「え?」
「呼吸は安定」
「脈拍、魔力循環も安定」
「出血もない」
カナトは言った。
「少なくとも、今すぐ命に関わる状態じゃない」
ディルクが黙る。
カナトは次に頭部出血の負傷者へ向かった。
こちらも確認。
意識。
瞳孔。
反応。
「こっちも今のところ安定」
そして最後。
足を負傷した人物。
しゃがみ込む。
顔色を見た。
呼吸を見た。
出血量を見た。
「この人だ」
カナトが言った。
「優先するなら」
「…そういうことか」
ディルクが声を上げる。
「出血量が多い」
「うん」
カナトは足元を指差した。
「出血が続いてる」
全員の視線が集まる。
確かに。
地面には血が広がっていた。
派手ではない。
だが止まってもいない。
「頭部出血の人より?」
エミールが尋ねる。
「今はこっち」
カナトは頷いた。
「放置した場合のリスクが高い」
ディルクは黙って負傷者を見つめる。
見落としていた。
いや。
見えていたのに見ていなかった。
重症そうな人間へ目を奪われた。
それだけだ。
「…チッ」
ディルクは苛立たしげに舌打ちした。
「第一試験でやったことと同じだよ」
カナトが言う。
「誰が一番可哀想かじゃない」
「誰から助けるべきか」
静かな声だった。
ディルクは何も言わない。
その横で。
ミレナが初めて小さく頷いた。
「合理的」
一言だけ。
だが肯定だった。
エミールも慌てて端末を開く。
「じゃ、じゃあ処置準備します!」
動き始める。
先程までの迷いはなかった。
ディルクだけが立ち尽くしている。
不機嫌そうな顔。
だが前回とは少し違う。
反論が見つからない。
それが一番気に入らなかった。
「ディルク」
カナトが呼ぶ。
「何だ」
「止血お願い」
当然のように言う。
命令ではない。
依頼だった。
ディルクは数秒黙り込む。
そして。
「……分かってる」
ぶっきらぼうに答えた。
それが。
第三班で初めての。
まともな連携だった。




