表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/64

第29話 顔合わせ

 翌朝。


 最終適性試験第二試験――混成実技試験。


 指定された集合場所には、既に何人かの新人達が集まっていた。


 班ごとに呼ばれ、それぞれ顔合わせを行うらしい。


「第三班」


 端末に表示された番号を確認しながら、カナトは指定場所へ向かった。


 そこには既にカナト以外の三人がいた。


 一人は見覚えのある金髪。


 そして眼鏡を掛けた気弱そうな少年と、短い黒髪の少女。


 カナトが近付くと、眼鏡の少年が慌てて頭を下げた。


「え、えっと……エミール・ローゼンです。研究部門です」


「カナト。医療部門です。よろしく」


「は、はい!」


 緊張しているのが一目で分かる。


 続いて黒髪の少女が軽く手を上げた。


「ミレナ・アーク」


 短い自己紹介。


「戦術部門、よろしく」


「よろしくね」


 必要最低限だけを口にするタイプらしい。


 そして。


 残る一人。


 金髪の男がこちらを見る。


 鋭い視線。


 講義室で見た時と変わらない。


「……あの時の治癒師か」


 第一声がそれだった。


「うん」


 カナトが頷く。


「カナトです」


「知ってる」


 それだけ言って視線を逸らす。


 歓迎されている空気ではなかった。


 エミールが困ったように二人を見比べる。


 ミレナは無言のまま壁へ寄りかかっていた。


 気まずい沈黙。


「第三班、揃ったな」


 そこへ試験官が現れた。


 全員の視線が向く。


「これより混成実技試験の説明を行う」


 周囲でも同様に班ごとの説明が始まっている。


「試験内容は模擬災害救助」


 その言葉に空気が変わった。


「指定区域内に配置された負傷者を救助し、安全地点まで搬送」


「評価対象は救助数だけではない」


「連携」


「判断」


「情報共有」


「そして組織としての行動」


 カナトは小さく息を吐いた。


 予想通りだ。


 第一試験の延長線上にある。


「なお」


 試験官が続ける。


「班内での役割分担は自由」


「誰が指揮を執っても構わない」


 その瞬間。


 ディルクが鼻で笑った。


「なら話は早い」


 当然のように言う。


「前衛の俺が先導する」


 エミールの肩が小さく震えた。


 ミレナは無表情のまま。


「異論あるか?」


 ないだろう。


 そう言わんばかりの口調だった。


 カナトは少し考える。


 そして口を開いた。


「一つだけ」


 ディルクの眉が動く。


「何だ」


「負傷者を見つけた時は、状態確認の時間が欲しい」


「は?」


「重症度で優先順位が変わるから」


 ディルクは露骨に嫌そうな顔をした。


「そんなもの現場で見れば分かる」


「分からないこともあるよ」


「治癒師より俺の方が戦場を知ってる」


 空気が冷える。


 エミールが顔を青くした。


(初日から終わった……)


 そんな声が聞こえてきそうな表情だった。


 ミレナは腕を組んだまま二人を見ている。


 止める気も、加わる気もなさそうだった。


 だが。


 カナトは特に気にした様子もなく頷いた。


「そっか」


「……は?」


「じゃあ試験で確認してみよう」


 ディルクが目を細める。


 挑発されたと思ったのかもしれない。


 だがカナトにそのつもりはなかった。


 本当にそう思っただけだ。


 現場で分かるならそれでいい。


 分からないなら補えばいい。


 それだけだった。


 試験官が苦笑する。


「揉めるなら試験が始まってからにしろ」


 周囲から小さな笑いが漏れた。


 ディルクだけが不機嫌そうに舌打ちする。


「……気に入らねぇな」


 小さな呟き。


 エミールがますます縮こまる。


(どうして僕の班だけこうなるんだろう……)


 顔にそう書いてあった。


 一方のミレナは相変わらず無言だ。


 ただ、その視線だけは第三班の面々を静かに観察していた。


 誰が正しいか。


 誰が間違っているか。


 そんなことには興味がないように見える。


 ただ事実だけを見ている。


 そんな目だった。


 やがて試験官が手を叩く。


「準備時間は一時間」


「作戦会議でも雑談でも好きにしろ」


「開始と同時に区域へ進入してもらう」


 試験官が離れていく。


 周囲では既に班ごとの話し合いが始まっていた。


 だが第三班だけは妙に静かだった。


 ディルクは地図を眺めている。


 エミールは話しかけるタイミングを失っている。


 ミレナは壁にもたれたまま。


 カナトは端末へ表示された試験区域を見つめた。


 模擬災害救助。


 負傷者。


 搬送。


 情報共有。


 そして連携。


 どう考えても、一人では攻略できない内容だ。


 だからこそ。


 この班を機能させなければならない。


 試験開始まで残り一時間。


 第三班はまだ、班ですらなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ