第28話 混成班
試験会場を出た頃には、外はすっかり暗くなっていた。
夕食時の食堂。
いつもの席へ向かうと、既にガルドが机へ突っ伏していた。
「死んだ……」
「お疲れ様」
カナトが向かいへ座る。
「お疲れじゃねぇよ……」
「戦術部門の筆記試験考えたやつ絶対性格悪い」
その言葉に、隣へ座ったリゼアが小さくため息を吐いた。
「否定はしないわ」
「最後の問題なんて特に酷かったもの」
リゼアは紅茶へ口をつける。
「敵集団を最も効率的に制圧する方法を述べよ、ですって」
「普通じゃねぇか」
ガルドが即答した。
「解答例の大半が高火力術式による面制圧になるのよ」
「普通じゃねぇか」
「……やっぱり戦術部門って脳筋なのかしら」
「お前もその戦術部門だからな?」
「…否定はしないわ」
真顔だった。
カナトとアイリスが思わず吹き出す。
リゼア本人も自覚はあるらしい。
「医療部門はどうだったんだ?」
ガルドが尋ねる。
「ほとんど優先順位でしたね」
アイリスは答えた。
「状況が変わるたびに判断を変えないといけなくて」
「途中から災害対応訓練みたいだった」
カナトの言葉にアイリスも頷く。
「私、最後の方は何度書き直したか分かりません」
「やっぱりどこも大変なんだな…研究部門の方も問題がヤバかったで聞いたし」
ガルドが思い出したように言う。
「結果から原因を推測して、その根拠を書く問題ばかりだったらしいです」
アイリスが端末から拾ってきた情報を見せてくれる。
「うわぁ……」
カナトが思わず声を漏らした。
「ただ、私としては戦術部門の方が嫌です」
アイリスが即答する。
「私はどちらかと言えば医療部門かしらね」
リゼアが言う。
「患者の経過を見ながら記録を続けるなんて気が遠くなるわ」
リゼアの答えにカナトは少しだけ笑う。
同じアルビオンにいても。
向いていることは違う。
得意なことも違う。
だから部門が分かれているのだろう。
そんなことを考えていると、不意に周囲がざわついた。
「出たぞ!」
「班分けだ!」
新人達が一斉に端末を取り出す。
食堂の空気が変わる。
「お、来たか」
ガルドも身体を起こした。
カナトは端末を開く。
【最終適性試験 第二試験】
【混成実技試験】
【班編成】
指を滑らせ、自分の名前を探す。
やがて見つけた。
【第三班】
ディルク・ラグナード(戦術部門)
カナト(医療部門)
エミール・ローゼン(研究部門)
ミレナ・アーク(戦術部門)
数秒。
ガルド、リゼア、アイリスの三人がカナトの方を見た。
ガルドが額を押さえる。
「これはヤバいな」
カナトは首を傾げた。
「……何が?」
「前の合同講義で噛み付いてきた金髪だ」
「ああ……」
講義室での顔が蘇る。
治癒師を戦えない連中扱いしていた男。
「なるほど」
「なるほどじゃねぇよ」
ガルドが即座に突っ込む。
「一番面倒な相手を引いたな」
「そんなに?」
その横で、リゼアが小さくため息を吐いた。
「ディルクね……」
「知ってるの?」
「知ってるというより、覚えているわ」
リゼアは端末から目を離さない。
「貴族の子弟なら一度は耳にする名前よ」
「ラグナード家の麒麟児」
アイリスは頷いた。
「私も聞いたことあります」
「そんなに凄い人なんだ」
「前衛としての腕は確かでしょうね」
リゼアが実力を認める相手か。
だが。
リゼアは少しだけ眉をひそめた。
「ただ……」
「ただ?」
「あなたとの連携には、あまり向いていないタイプかもしれないわね」
ガルドが苦笑する。
「それは俺も思う」
「そんなに相性悪そうかな」
「悪そうだな」
「あの講義室のやり取り見てたら心配ですね」
ガルドとアイリス二人とも即答だった。
食堂に小さな笑いが広がる。
だが。
カナトはもう一度端末へ視線を落とした。
ディルク・ラグナード。
明日、一緒に試験を受ける相手。
鼻で笑われることには別に気にならない。
問題はそこじゃない。
同じ班として動く以上、連携しなければならない。
相手がどんな人間であっても。
試験は一人では乗り越えられないのだから。
(どうやって、組織として機能させようか)
それは試験への不安というより。
一人の隊員としての、新しい課題のように思えた。




