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第27話 総合筆記試験

 最終適性試験当日。


 朝の食堂は、いつもより静かだった。


 普段なら騒がしい戦術部門の新人達も、今日は端末や教本へ視線を落としている。


「終わった……」


 ガルドが机へ突っ伏した。


「まだ始まってないよ」


 カナトが苦笑する。


「いや、もう終わった気がする」


「気が早すぎませんか」


 アイリスが呆れたように言った。


 彼女の前には試験範囲をまとめたメモが並んでいる。


「アイリス、それ全部覚えたのか?」


「最低限です」


「最低限の量じゃないんだが……」


「ガルドさんが勉強しなさすぎるだけです」


「最近俺への当たり強くね?」


 食堂へ小さな笑いが広がった。


 その横でリゼアは紅茶を口へ運ぶ。


「リゼアは余裕そうだね」


「余裕ではないわ」


「試験である以上、準備はする。それだけよ」


 その姿勢が既に優等生そのものだった。


 ガルドが顔だけ上げる。


「お前ら二人とも真面目すぎんだろ……」


「あなたが適当すぎるのよ」


「ひでぇ」


 そんな他愛ない会話も、今日ばかりはどこか特別に感じた。


 研修期間も残り僅か。


 こうして四人で集まる時間も、案外長くはないのかもしれない。



 第一試験会場。


 医療部門の新人達が席へ着く。


 前方へ立つのはクロエだった。


「これより最終適性試験、第一試験を開始する」


 会場が静まる。


 投影板へ文字が映し出された。


【総合筆記試験】


「あなた達が何を見て、何を考え、何を優先するかを見せてね」


 それだけ告げると問題が表示された。


【症例一】


 魔導馬車衝突事故。


 負傷者三名、以下に各負傷者の状態を記載。


 負傷者A:歩行可能だが、魔力循環低下


 負傷者B:右大腿部裂傷、出血継続あり


 負傷者C:意識昏迷、痛覚反射あり、循環正常


 治癒術者一名。


 優先順位とその理由を述べよ。


 カナトは静かに問題へ目を通した。


 誰から助けるか。


 そう考えた瞬間、違うと思った。


 この問題は誰を助けるかじゃない。


 誰を後回しにするかだ。


 そしてどうすれば全員の生存率を上げられるか。


 その視点で考える。


 患者の状態。


 処置時間。


 悪化速度。


 利用可能な術式。


 限られた人員。


 頭の中で整理していく。


 意識昏迷。


 まず目が行くのは患者C。


 危険そうに見える。


 でも。


 循環は正常。


 呼吸異常の記載もない。


 今すぐ処置しないと手遅れ、という可能性は低い。


 その一方で。


 患者Bは出血継続。


 見た目は地味だ。


 だが。

 

 出血は時間経過で確実に悪化する。


 優先順位はB、C、A。


 Bは出血継続による出血性ショック、循環不全移行リスクが最も高い。


 まず止血処置を優先する。


 止血することで、短時間で救命率を大きく改善できる。 


 そして端末へ回答を入力した。



 問題が進むにつれ、状況は複雑になっていく。


 患者も三名から六名へ増え、さらに時間経過で追加情報が提示されるようになった。


【追加情報】


・患者Aの呼吸状態悪化


・患者Dの意識レベル低下


・患者Fに魔力暴走兆候


・搬送経路北側崩落


 会場がざわついた。


「え?」


「待て、話変わるだろ……」


「さっきの優先順位じゃ駄目じゃないか」


 周囲の端末操作が慌ただしくなる。


 カナトは画面を見つめた。


 全部を追いかけていては間に合わない。


 重要なのは、


 今この瞬間に判断を変える情報。


 そして次に動く人間が迷わない情報。


 患者A。


 患者F。


 崩落した搬送経路。


 必要な情報だけを抽出し、優先順位を書き換える。


 理由を書く。


 対応を書く。


 記録とは何だったか。


 クロエの言葉を思い出す。


『あなたの多分大丈夫で、人は死ぬ』


 だからこそ曖昧にしない。


 だからこそ迷わせない。


 未来の誰かがこの記録を見た時、次に何をすべきか分かるように。


 カナトは端末へ入力を続けた。



 試験終了の鐘が鳴った。


 一斉にため息が漏れる。


「終わった……」


「筆記試験だったよな……?」


「災害対応訓練じゃなくて?」


 そんな声が聞こえてくる。


 カナトも背もたれへ身体を預けた。

  

 疲れた。


 だが嫌な疲労ではない。


 今まで学んできたことを全部使った。


 そんな感覚があった。


 荷物をまとめて立ち上がる。


 明日は第二試験。


 混成実技試験。


 正式な班分けは今夜発表されるらしい。


 どんな相手と組むことになるのか。


 少しだけ不安を抱えながら、カナトは会場を後にした。


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