表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/62

第21話 端末

 実技訓練を終えた頃には、すっかり夜になっていた。


 アルビオンの廊下は静かだった。


 壁へ埋め込まれた照明用魔道具が淡く光を放ち、白い通路を照らしている。


「皆さん、こちらは忘れないうちに設定してください」


 解散前、クロエから渡された小型端末。


 薄い板状の魔道具。


 表面は黒い硝子のように滑らかで、触れると淡く光る。


「……すごい」


 カナトが素直に呟く。


 横ではアイリスが既に操作していた。


「アルビオン標準端末」


「知ってるの?」


「家に似たようなのあった」


 やっぱり貴族はすごい。


 カナトが画面へ触れる。


 すると文字が浮かび上がった。


 名前。


 所属。


 隊員番号。


 身分証情報。


 さらに通話機能、文章通信機能、予定共有。


 かなり多機能だった。


「隊員間連携用、か……」


 その瞬間。


 知らない単語が脳裏を掠めた。


 ――スマートフォン。


「……?」


 カナトは小さく眉を寄せる。


 自分の中の何かは、これを別の名前で知っていた。


 構造も。


 使い方も。


 どこか妙に馴染みがある。


「どうしたの?」


「いや……なんでもない」


 まただ。


 最近、本当に増えている。


 知らないはずの知識。


 知らない言葉。


 けれど、不思議と“懐かしい”。


 カナトは小さく息を吐いた。


 即時に離れた人と連絡が出来るだけで医療現場は大きく変わる。


 しかも、こんな高度な魔道具は世間で見たことがない。


 アルビオンの技術力の高さを感じる。


「紛失したら大変そうだね」


「うん。多分かなり怒られる」


 アイリスが真顔で言った。


 絶対本当に怒られるやつだ。


 その時だった。


 ぶるっ。


「うわっ!?」


 突然、端末が震える。


 画面へ名前が表示された。


『ガルド・グランベル』


「……ん?」


 カナトが固まる。


 ガルド。


 グランベル。


 ……グランベル?


「えっ」


 今更ながら気づいた。


 家名ある。


「……貴族なの?」


 思わず呟く。


 言われてみれば、初対面でも“平民なのか?”みたいな反応をされていた気がする。


 それにガルドは試験中、一度も家名を名乗っていなかった。


 今になって繋がった。


「……あの」


 アイリスが小さく口を開く。


「出なくていいんですか?」


「あっ」


 慌てて操作する。


 端末が淡く発光した。


『遅ぇじゃん!』


 開口一番それだった。


「ご、ごめん」


『実技終わったなら飯行こうぜ。リゼアもいる』


「え、一緒にいるの?」


『なんだその反応』


 カナトは思わず苦笑する。


「分かった、今行く」


 通話を切る。


 するとアイリスが静かにこちらを見ていた。


「友人からですか?」


「うん、これから食事でもどうかって。アイリスも来る?」


「私?」


「せっかくだし」


 少しだけ間。


「……行きます」



 アルビオン中央食堂。


 広い。


 とにかく広い。


 時間帯のせいか、既に多くの隊員達で賑わっていた。


 各部門の制服。


 怒号。


 笑い声。


 金属音。


 まるで巨大な軍施設だった。


「こっちこっち!」


 ガルドが大きく手を振っている。


 その隣。


 当然のようにリゼアが座っていた。


 なんだかんだ一緒にいるんだな、と思う。


 そういえば受験の時、リゼアってずっと一人だった。


 もしかして普通に話せる相手が――


「何か失礼なこと考えてる?」


「……そんなことないって」


 リゼアがじとっと睨んでくる。


「今、絶対ろくでもないこと考えてたわね」


「考えてないです」


「嘘が下手」


「なんで……」


 ガルドが吹き出した。


「相変わらずだなお前ら」


 そんなやり取りをしながら席へ向かう。


「……そちらは?」


 リゼアの視線がアイリスへ向く。


 アイリスの背筋がぴしっと伸びた。


「ア、アイリス・フィールです」


 めちゃくちゃ緊張してる。


「医療部門で一緒だったんだ」


「……そう」


 リゼアは特に興味なさそうだった。


 だがアイリスはずっと硬い。


 席についてからも微妙に緊張していた。


「……リゼアって有名なの?」


 カナトが小声で聞く。


 するとガルドが苦笑した。


「そりゃな、ヴォルト家だし」


 アイリスが小さく補足する。


「魔導貴族の中でもかなり上位」


「へぇ……」


 カナトが感心すると、リゼアは面倒そうにため息を吐いた。


「別にどう思われようが興味ないわ」


 本当に気にしてなさそうだった。


 そんな雑談をしながら、それぞれ料理を取りに行く。


 プレート形式。


 肉料理。


 スープ。


 パン。


 魚。


 かなり豪華だ。


 しかも美味そう。


「アルビオンのご飯って高そうだよね……」


「予算が違うんだろ」


 ガルドが笑う。


 食事が始まり、しばらく他愛もない話が続いた。


 その時、近くの席から小さな会話が聞こえてきた。


「また研究棟の封鎖区画が増えたらしいぞ」


「……あそこ、まだ開かないのか」


「三十年前の件があるからだろ」


「しっ、馬鹿。ここでその話はやめろ」


 ひそひそと交わされた声は、それ以上続かなかった。


「三十年前?」


 カナトが思わず呟く。


 ガルドは首を傾げた。


「なんだろうな。研究部門といえば、爆発とか日常的だって聞いたぞ」


「事故とかでしょうか……」


 アイリスも小さく呟く。


 リゼアが興味なさそうにスープを口へ運ぶ。


「昔話なんて気にしても仕方ないわ」


「それもそうか」


 ガルドが笑って話題を切り替える。


 食堂は再び賑やかな空気へ戻っていった。


 そして食べ始めて少しした頃。


 カナトはふと思い出した。


「そういえばガルド」


「ん?」


「貴族だったの?」


「今更かよ!?」


 ガルドが吹き出した。


「いや、だって家名――」


「そういや名乗ってなかったな」


 本人も気づいてなかったらしい。


「グランベル辺境男爵家。まあ辺境も辺境だから、ほぼ平民みたいな育ちだけどな」


 ガルドは快活に笑う。


「平民とか貴族とか、俺はあんま気にしてねぇよ」


 その笑顔は、本当に裏表がなかった。


 だからカナトも自然と笑う。


「なんかガルドっぽい」


「だろ?」



 食事をしながら、自然と明日の話になる。


「午前は合同教養らしいぞ」


 ガルドが端末を見ながら言った。


「合同?」


「部門共通訓練。午後は各部門に分かれるみたい」


 アイリスも端末を確認する。


「研修期間って書いてある」


「一定期間訓練したあと、試験結果とか適性で部隊編成するらしいわ」


 リゼアが当然のように言う。


 やっぱりもう読んでる。


「部隊……」


 いよいよ軍隊っぽい。


 カナトは少しだけ緊張した。


「とりあえず午前は一緒だな!」


 ガルドが笑う。


「……そうね」


 リゼアも珍しく否定しなかった。



 寮室へ戻ってシャワーを浴びる。


「……なにこれ」


 最高だった。


 温度調整。


 水圧。


 しかも泡が細かい。


 それに濡れた髪を乾かす魔道具もある。


 あっという間に乾いた。


 アルビオンすごい。


 部屋に備え付けられているベッドへ倒れ込む。


 今日だけで、本当に色々あった。


 実技。


 魔眼。


 アルベリウス。


 アイリス。


 そして。


 リゼア達との再会。


 それから、食堂で耳にした三十年前の事故。


 誰も話したがらない、その事件。


 何故か胸の奥に、小さな引っ掛かりだけが残っていた。


「……明日も頑張ろう」


 小さく呟く。


 そしてカナトは、静かに眠りへ落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ