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魔眼治癒師の最適解  作者: 鍵音-kagine-


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第109話 迎撃開始

 北側防衛線へ到着した第九班は、すぐに戦闘態勢へ移った。


 村を囲むように造られた簡易柵の向こうには、深い森が広がっている。


 騎士たちも剣を抜き、息を潜めていた。


 張り詰めた静寂。


 聞こえるのは風が木々を揺らす音だけ。


 そして――。


 ガサッ。


 森の奥で草木が揺れた。


「来ます!」


 見張りの騎士が叫ぶ。


 次の瞬間、狼型の魔物が森を飛び出してきた。


「ヴォルクスハウルだ!」

 

 渦を巻くような毛並みをもつ、Cランクの魔物――ヴォルクスハウル。


 それが一体。


 続いて二体。


 三体。


 群れをなすことでその脅威は高まる。


 低く唸り声を上げながら、一斉に駆け出す。


「カナト!」


「はい!」


 ギルフォードの声に応じ、カナトは前へ飛び出していた。


 深く息を吸う。


 身体中へ魔力を巡らせる。


 身体強化。


 習得を始めて八日。


 まだ均一に魔力を流すことが出来ておらず、完成には程遠い。


 それでも以前より確実に身体は動く。


 右眼が熱を帯びる。


 魔眼が魔物を映し出した。


 筋肉の収縮。


 足へ掛かる重心。


 視線。


 呼吸。


 そして、身体を巡る魔力の流れと中心にある魔石。


(左から跳ぶ)


 考えるより先に身体が動く。


 身体強化をしたまま地面を蹴る。


 半歩だけ横へ。


 狼型魔物の牙が、頬のすぐ横を掠めていった。


「そこ!」


 一閃。


 すれ違いざまに剣が走る。


 魔石が砕け、狼型魔物はその場へ崩れ落ちた。


(間に合った……!)


 以前なら避けるだけで精一杯だった。


 だが今は違う。


 読める動きに、身体が追い付く。


 それだけで戦い方は大きく変わっていた。


「右!」


 レオンの声が飛ぶ。


 カナトが振り向くより早く、森から猪型の魔物が突進してくる。


 巨大な二本の湾曲した牙を持つCランクの猪型魔物――アースバッシュ。


 あの牙に貫かれれば、ただでは済まない。


 回避しようとしたカナトの表情が強張る。


 魔力の維持を乱して身体強化が解かれてしまった。


 この突進は避け切れない。


 その瞬間。


 ――ズゴォォンッ!!


 腹へ響くような重低音が森へ轟いた。


 レオンの大型魔法銃。


 放たれた弾丸がアースバッシュへ直撃する。


 巨体が横へ弾き飛ばされた。


「今だ!」


「はい!」


 魔力が乱れて解除された身体強化を改めて行い、一気に間合いを詰める。


 倒れた魔物の首元へ剣を突き立てると魔石が砕け、霧となって消えていく。


 レオンは素早く術式のカートリッジを交換し、新しい魔弾を装填した。


 先ほどより細身の弾。


(弾を替えた……)


 カナトは一瞬だけ視線を向ける。


 レオンの魔法銃は、一種類ではない。


 相手や状況に応じて魔法銃や魔弾を切り替える。


 そして近距離では卓越した剣術で敵をなぎ倒す。


 それがレオンの戦い方だった。


「左から六体!」


 騎士が叫ぶ。


 今度はリゼアが前へ出る。


 杖を軽く掲げるだけ。


 詠唱はない。


 炎弾が次々と生み出される。


 四発。


 五発。


 六発。


 炎弾は狙い違わず魔物へ降り注ぎ、先頭集団の足を止めた。


「今よ!」


「はい!」


 カナトと騎士たちが一斉に飛び出す。


 魔眼が次々と情報を拾う。


 一体目。


 右肩へ力が入る。


(爪を振り下ろしてくる)


 最小限の動きで躱す。


 返す剣で魔石を断つ。


 二体目。


 呼吸が変わる。


(突進)


 半歩だけ下がる。


 突進を空振らせ、そのまま横薙ぎ。


 三体目。


 視線が騎士へ向いた。


(狙われる!)


「右です!」


 カナトが叫ぶ。


 騎士が咄嗟に盾を構える。


 直後、魔物の爪が盾へ叩き付けられた。


「助かった!」


 礼を言う騎士へ頷く間もなく、カナトは再び前へ出る。


 先が見える。


 だが、見えるだけでは足りない。


 身体強化があるからこそ、その未来へ身体が届く。


 前の実戦ではできなかった戦い方だった。


 しかし――。


「まだ来ます!」


 見張りの叫びが響く。


 森の奥。


 木々の隙間が大きく揺れ始めた。


 狼型ーヴォルクスハウル。


 猪型ーアースバッシュ。


 そして角を持つBランクの大型魔――グレイオーガ。


 (あいつは……街で老人を襲っていた魔物だ)

 

 カナトの胸にあの日の光景が一瞬だけよぎった。


 魔物たちが次々と姿を現す。


 十体。


 二十体。


 三十体。


 数えることすら意味を失っていく。


 ギルフォードは静かに大剣を構えた。


「ここからが本番だ。」


 低い一言。


 その言葉と同時に、大地を揺らすような魔物たちの咆哮が、防衛線へ押し寄せた。


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