【北区治安会議】
講義室のような広い部屋。
前方のスクリーンに映し出されていた映像が、ふっと消えた。
一瞬の静寂のあと、ざわめきがゆっくりと広がっていく。
壇上に立っていた男が、書類を軽く叩きながら言った。
「じゃあ、わかったことがあったら治安維持班に報告してやってくれ。以上。解散」
その一言を合図に、室内は一気に騒がしくなる。
あちこちで先輩と後輩のやり取りが始まり、空気が張り詰めたものへと変わっていった。
――
「貴方……ちゃんとメモしてました?」
鋭い声に、若い男がびくりと肩を震わせる。
「は、はい!なんとか!」
「はぁ?なんとか?全部理解できるように書いたわけ?」
「は、はい!書きました!」
疑うような視線が突き刺さる。
「そう。じゃああとで確認するから、メモ貸してちょうだい」
「ど……どうぞ……」
震える手で差し出されたノートを、女の先輩は無言で受け取った。
――
「お前さぁ〜、書いてばっかりで言われたこと、頭に入ってんの?」
別の場所では、軽い調子の声が響く。
「あ…す、すみません…入れているつもりです…」
「“つもり”じゃダメなんだよ、“つもり”じゃ!!」
語気が一気に荒くなる。
「本当……これだから女は……」
「……す、すみません……」
うつむく後輩の声は小さく、周囲の喧騒にかき消されそうだった。
――
室内には、同じようなやり取りがいくつも重なっている。
十数人の先輩と後輩たちが、それぞれに言葉を交わし、確認し、叱責し、指示を飛ばす。
誰もが忙しなく、余裕のない空気が満ちていた。
その中で――
一人、静かに席を立つ影があった。
みずはだ。
椅子がわずかに軋む音に気づき、隣にいた森川も慌てて立ち上がる。
「...みな」
小さく呼ばれた名前に、森川は即座に背筋を伸ばした。
「は、はい!なんでしょうか先輩!!」
みずはは、周囲の喧騒を一瞥してから、ぽつりと呟く。
「ずっと話ばっかりで..疲れたよね..」
「あ、い、いえ!そんなことないです!まだまだ頑張れます!」
反射的に返すその声は、どこか張り詰めている。
しかし、みずはは気にした様子もなく続ける。
「そう..。でも..もうお昼だから..ご飯食べに行こうか...事務所戻るのは..それからでいいよ..」
その言葉は、騒がしい室内の中で、不思議と柔らかく響いた。
「は、はい!」
森川は力強く頷く。
そして、ほんの一瞬だけ視線を落とす。
(…先輩、ほんと大好き……)
胸の奥で小さく呟きながら、彼女はみずはの後を追って歩き出す。
ざわめきに満ちた講義室を背にして、二人は静かに外へと出ていった。




