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怪異探偵雛菊香  作者: LostAngel


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『降霊術と密室』

『降霊術と密室』


 一



 二〇二〇年の大晦日。誇り高き美の女王が、死んだ。


 名誉の死だった。部下を殺され、女性の尊厳を踏みにじる相手に汚されるよりもと、半ば強制的ではあったが、自ら選んだ死だった。


 あの夜、天空の牢獄から生還した人々は嘘と欺瞞に満ち溢れた証言をしたが、こと彼女の死に様については、黒幕でさえ真実を語った。


 ジュエリーブランド『グローリーシャイン』を冠する同名の宝飾品メーカーの女社長は、自ら奈落へと身を投げた。この事実は、エレベーター連続殺人事件が招いた悲劇のうちの一つとして、当時の世間を大いに賑わせた。


 その名は、美楽智子みらともこ。享年四十八。彼女の生涯は波乱万丈であったが、特にファッション、アクセサリー業界において、まさしく『輝かしい栄光』を授与されるに相応しい功績を上げてきたことは間違いない。


 彼女は最後まで、誇り高かった。女性の威厳というものを、奇抜なデザインとコーディネートをもって体現していた。宝石の持つ気品と高貴さを誰よりも鋭く見出し、ファッションに取り入れた。


 当然の帰結として、彼女及び『グローリーシャイン』には多くのファンがいた。日本の女性で知らない人がいないというのは決して過言ではなく、男性の中でも、彼女の生き様に胸を打たれて尊敬の対象にする人がいた。


 彼女の死は多くの人を悲しませた。昔からのファンは言うまでもなく、美的感覚の違いから『グローリーシャイン』を身に着けてこなかった人々や、競合のファッションブランドを手がける企業の多くが、彼女の死に哀悼を表した。


 彼女の知人友人はより悲しんだ。彼女は生涯独身で、両親もすでに他界していたため、家族はいなかった。その代わりというべきか、彼女は知人友人や自社の従業員、取引先の人間や商品を利用するモデルや俳優、商品を求めてくれる客のことを愛していた。


 そして、彼女と最も親しかった親友は、より一層の深い悲しみを背負った。


 その親友は大手企業の社長夫人という立場をふんだんに利用し、都内の郊外に洋館を建設させた。それから『閻魔大王連続殺人事件』が起きた二〇二六年までの約六年もの間、洋館にこもってオカルト、とりわけ降霊術に傾倒した。


 やがて梅川検事の一人娘、梅川春魅によって運命の歯車が再び回り始めた。春魅が連続殺人を起こした動機は公表されなかったものの、その親友は財力によって築いていたコネを最大限利用し、裁判の担当検事から供述を聞き取った。


 全てを知ったその親友は、ただひたすらに涙を流した。絶望し、途方のない喪失感に襲われた。実行犯が重傷を負っているが生きているという事実に、復讐の火を燃やそうとも考えた。


 幾度となく繰り返した後悔と悲壮の結果……。


 その親友はさらにもう一押し、運命の歯車というものを回す決意をした。



 ※※※



 怪異探偵の雛菊香ひなぎくかおるは、友達の梅川春魅うめかわはるみを伴って、東京郊外にある瀟洒な洋館へと向かっていた。


 総合商社大手の久我グループの社長夫人である、久我麗奈くがれいなに招待されたためだ。


「春魅さん、大丈夫ですか?事件を思い出させてしまいますが」


 麗奈から連絡が来たとき、香は春魅に優しく聞いた。


 六年前の大晦日の夜、百階建ての超高層ビル、Kin-Ji-Towerのエレベーターから身を投げた女性、美楽智子の降霊を執り行うので、ぜひ来てほしい。そういった内容の招待の文句を、香と春魅は受け取っていた。


「大丈夫。過去は消せないし、向き合うつもり」


 春魅はゆっくりと、しかし力強く言った。


「それに、私も招待するってことは、そういうことでしょ?向こうは私が復讐したことを知ってる」


「……そういうことになりますね」


 そういうことになるから、香は気を病んでいる。向こうはこちらのことを知っているのに、こちらは向こうのことを知らないという不安。いや、相手が有名企業の社長夫人であり、美楽智子と旧知の間柄であるということは知っているが、知っているのはそれだけだ。二人を招待した真意はさっぱり分からない。


 美楽を降霊するとはどういうことだろう。そしてたとえ降霊が成功したとして、香と春魅になにをするつもりなのだろう。香には検討もつかなかった。


 あるとすれば、美楽の口から復讐を果たした春魅に礼を言うためか?それなら降霊せずとも久我が直接礼を言えばいいし、香を呼ぶ必要はない。


 それなら、事件の真相を明らかにするため?降霊した美楽と春魅と香が揃えば確かに、あの日エレベーター内で起きた真相を事細かにすることはできるはずだが……。


 もう既に、春魅による復讐はなされている。糾弾する相手も、男性器を失って心神喪失状態のダンベルトしかいない。正直言って、こいつにそんな労力を割く必要はないように思える。


「久我さんは美楽さんの降霊術をして、なにをするつもりなのでしょうか?私には分かりません」


 香は正直に胸の内を明かした。


 無策で相手の根城に行くのは、得策とは言えない。そう言葉に込めたつもりだった。


「分からないなら、会って聞いてみようよ」


 しかし、春魅はあっけらかんと返した。


 無策こそが得策だと、そう言ってのけた。


「いきなり降霊術ってやつをされたら困るけど、久我さんって人と話す機会はあるでしょ」


「そうだとは思いますが……」


「香さんが心配することないよ。なにか用があるとしても、私でしょ」


 当事者により近い春魅に強がられると、香はなにも言えなくなる。


 リスクは承知の上。あわよくば相手の狙いを聞き出す。そういう方針でいくしかないか。


 香も腹を決めた。


「危険を感じたら逃げてください。私以外、いえ、向こうに着いたら私の言葉も信用しないでください」


「香さんの言葉も?どうして?」


「降霊術が誰を対象にするか分からないからです。私かもしれない」


「そっか、考えてなかった」


「相手は『降霊術を行う』と言ってきました。見ず知らずの私たちに言うのですから、まず降霊術は可能だと見ていいでしょう」


「降霊術が、できるんだ……」


 ふと、なにかに思いを馳せる春魅に、香は釘を刺した。


「ご両親と会いたいですか?」


「私は……」


 口ごもる。両親と会いたいのか会いたくないのか、今の自分には分からない。会ってなにを言えばいいのか、会わないでいられるか。どうしようか、決断することができないでいた。


「……私は、会いたい」


「本当ですか?」


 かろうじて絞り出したのは、『会いたい』という言葉。


「会えるのなら、会いたい。会って話したい。赦したいし赦されたい」


「赦したいし赦されたい、ですか……」


 言わんとすることは香にも理解できた。


 無実の罪で父親を死なせてしまい、さらに自ら命を絶った母親の罪を赦したい。それと同時に春魅が、娘が復讐により多くの命を奪ったことを、両親に赦されたい。


 複雑な二つの思いが混ざり合い、春魅の心の中で渦巻いているのだろう。職業柄他人を慮ることが多い香には、それが痛いほどに理解できた。


「春魅さんがそう望むなら、私は応援しますよ。久我さんが話の通じる人なら、お願いしてみましょう」


「……うん、ありがとう」


 そうこうしているうちに、目的地に着いた。灰色の塀が左右を囲み、正面には黒い格子状の門。門の向こうには白い直線の道と植物の緑、そしてダークブラウンのおしゃれな建物が見える。


「あれが久我さんのお屋敷……」


「入りましょうか」


 目の前の門は閉ざされていたので、塀の右側に埋め込まれているインターホンを押す。


 ピンポーンと軽い音が鳴り、すぐにブツッと音を立てて内線がつながった。


「どちら様でしょうか」


 監視カメラのレンズが塀と門の間の上部に光っていたが、女性の低い声は誰何を尋ねてきた。


「お招き頂きました雛菊と梅川です」


 香がマイクの部分に向かって言うと、


「お待ちしておりました。少々お待ちください」


 と返ってきた。


 香と春魅は待っていると、洋館の扉が開き、競歩のような早足でメイドがやってくる。


「メイドさんって、ほんとにいるんだ」


「どこのお金持ちも、考えることは一緒ですよ」


「そっか」


 ふりふりのメイド服を着たメイドが門に到着した。そこそこ距離があったのに、息一つ切れていない。


「門を開けます。扉に触らないで」


 閂のようなものを外し、メイドは門扉を手前に引いた。キイィィという音が響く。


「ようこそ、麗奈邸へ」


 メイドは頭を軽く下げ、敷地に入る香と春魅を迎えた。


「わあ……」


「見事なガーデニングですね」


 門の向こう、麗奈邸の館までの敷地は庭園になっていた。白い石が敷かれた小道の両側に、色とりどりのチューリップが植わっている。


「麗奈様は緑がお好きですから。私どもと一緒に美しいお庭造りをしています」


「久我さんもやられてるんですか?」


 ポニーテールを揺らしながら歩くメイドに、春魅が聞いた。


 近年になってオカルトに目覚めた人物として業界で有名な久我麗奈が、日の当たる場所で土いじりに励むとはイメージしづらい。春魅はそんな失礼なことを考えていた。


「はい。植物の枝葉や花、実などは降霊術の触媒にもなりますから」


 背の高いメイドは、至極当然のことのように言った。


 香と春魅の間に緊張が走る。当たり前だが、このメイドは主人が降霊術に取り組んでいることを知っている。知っていてなお、主人に仕えている。


 世間一般では眉唾ものとされている降霊術への認識は、ここでは通用しないかもしれない。二人は奇妙な感覚を覚えた。


 チューリップの花畑を過ぎると、広めの玄関ロータリーがあった。洋館はもう目の前だ。


 ロータリーを直進し、手を伸ばして大きな黒い扉を指しながら、メイドが言う。


「こちらが正面玄関になります」


「豪華だ……」


「私どもも掃除のしがいがあります」


 冗談を口にして、メイドは両開きの扉の右側を押し開けた。


「いらっしゃいませ」


「わ!」


 瞬間、聞こえた挨拶の大きさに、春魅が素っ頓狂な声を上げる。


 洋館の中はホールになっていた。エントランスホールというやつだ。大理石の白い床に赤い絨毯、俗に言うレッドカーペットが玄関から真っ直ぐ引かれ、奥の大きな階段を経由して二階まで敷かれている。


 天井には大きなシャンデリア。かなり明るいオレンジ色の光で照らしている。


 そして、レッドカーペットの両側にはメイドが三名控えていた。同時に挨拶をして出迎えたのはこの人たちだ。


 壁にはブラウンの木目調の壁紙が貼られ、ところどころにランタンを模したライトが設置されている。こちらも暖かなオレンジの光だ。


 全体的に見て、高級感と安らぎが同居したインテリアとなっていた。香も感心する。


「実際はもう三名ほどメイドがおりますが、来客対応中でございます」


 案内してくれたメイドが恭しく言った。


「本日お二人の御用聞きを行いますのは、こちらの月野つきのです」


「月野と申します。よろしくお願いします」


 案内してくれたメイドが、待っていた三人のうちの一人を紹介した。少し高めの声だ。


「よろしくお願いします。怪異探偵の雛菊香です」


「よろしくお願いします。梅川春魅、です」


 香と春魅は無難に返した。


 メイドの月野は、案内してくれたメイドよりも背が低い。栗色のウェーブのかかったショートカットに、小動物を彷彿とさせるかわいらしい顔立ちにはナチュラルメイクが施してある。こてこてのメイド服と相まって、ファンシーな雰囲気を醸し出している。


「それではこれより、月野が館内を……」


「すみません」


「はい、なんでしょう」


 聞けずじまいになりそうなので、香はメイドの言葉に無理やり割り込んだ。


「あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」


「これは、大変失礼致しました」


 案内してくれたメイドは居住まいを正し、


「私、夜架やがけと申します。夜に、高架の架けるという漢字を当てます」


「夜架さんですね。分かりました」


 香は頷いて頭の中に名前を刻み込む。


「失礼してしまい恐縮なのですが、メイド長を仰せつかっております」


「そうなの?若そうなのに」


 春魅が夜架と月野を交互に見ながら、不躾に聞いた。流石のメイド長も苦笑いしてしまう。


「若いからこそですよ。私たちは雇われの身ですけど、夜架は子どもの頃から麗奈様のお側にいましたから」


「月野。あまり昔の話は……」


「いいじゃない。立派なことよ」


 役職と年齢の上下関係がちぐはぐなせいで、夜架は月野の口に戸を立てることが難しいようだ。


 おしゃべりなメイドは、まるで自分のことのように誇らしげに続ける。


「孤児だった夜架を、子どもがいなかった麗奈様が引き取ったんです。六歳の頃だったから、十二年前に」


「ってことは、今十八歳?大人っぽいからもう少し上だと思ってた……」


「近くの高校に通っていて、もうすぐ卒業式を迎えるんですよ。いつも通り振る舞ってますが、友達と会えなくなるのが寂しいみたいで、時折……」


「月野!」


 堪忍袋の緒が切れるとはこのことか。ついに夜架の激が飛んだ。


 心なしか、先ほどよりも顔が赤い。今まで気丈に振る舞っていたが、若さは捨てきれていない、といったところか。今年で二十一歳になる人生の先輩である香は、こっそりと思った。


「……失礼しました。仕事に戻りなさい。月野も、出雲も朝陽も!」


 うら若きメイド長は過去を暴露した裏切り者と、澄ました顔してちゃっかり聞き耳を立てていた他の二人のメイドに指示を飛ばし、ぷりぷりと怒った様子でエントランスホールを出ていった。


「かわいらしいですね、夜架さん」


「私たちの自慢の娘です。産んでいませんが」


 月野は屈託のない笑みを浮かべて言った。


「お時間を取らせてしまいました。それでは、館内のご案内に移る前に、本日お二人がお泊まり頂く部屋をご案内します。お荷物をお持ちします」


 月野は素早く仕事モードに切り替えると、香と春魅の荷物を持った。



 二



 香と春魅にあてがわれた部屋は、二階の角部屋だった。エントランスホール正面の階段を上り、右折して突き当たりまで廊下を直進した先にある、広い客室だ。


「お疲れでなければ、館内をご案内致しますが……」


「お願いします」


 香と春魅は体力がある。移動により今日の歩数はかなり嵩んでいたが、二人とも未だエネルギッシュだ。


「では、参りましょう」


「よろしく♪」


 春魅は上機嫌に、月野の後に続いた。


 その後、月野のナビにより、香と春魅は広大な麗奈邸の敷地を見て周った。


 特筆すべきは降霊室と月野が呼んだ、一階奥にあるこじんまりした部屋だろうか。


 降霊室の広さは十畳ほど。五メートル四方ほどの空間だ。焦げ茶色のデスクと木の丸椅子、小さな本棚とキャビネットが奥の壁際に並び、手前の黒い石造りの床の上には白いチョークで六芒星が描かれていた。


 さらに特徴的なことに、天井がやけに高い。二階まで吹き抜けにして高さを確保しているらしい。十メートルほど上に続くブラウンの壁のところどころに、光を反射する鏡面のようなものが張られている。そして天井の中央には、はめ殺しの丸い窓があった。


「夜、天窓から六芒星の中心に月光が注ぐようにデザインされています。満月の光の下で降霊を行うんです」


「壁のあちこちに張られているのは鏡ですか?」


「はい。どうしても角度の都合上、満月の夜の午前零時でも月光は床まで届かないので、反射させるために置いています。あ、線を消さないようにしてください」


 香と春魅は足下に気をつけて、興味津々という風にデスク周りを観察した。


「色んな言語の蔵書に、これは羊皮紙の巻物でしょうか。大変興味深いです」


「申し訳ありませんが、お手を触れるのはご遠慮ください」


 聞けば、メイドたちも触ったことがないらしい。


「保存状態がシビアですので、麗奈様しか取り扱っていません」


「つまり降霊術の秘訣は、麗奈様しかご存じないんですね?」


「そうです。たとえ決まりを破って読もうとしても、私どもでは内容が理解できないでしょう。ましてや降霊術を実践するなんてこと、できるはずがありません」


「確かにそうですね」


 香は探偵らしく情報を拾っていく。


 自身が招かれた理由が未だ判然としていない。だからこそ、探偵としてやるべきことをやっておこうという腹積もりだ。


「でも、こっちは白い紙だよ。学習ノートっぽい」


 春魅はデスクの上に置かれた、開かれたノートを指差す。


「そちらは、今夜の降霊術に使うもののチェックリストです。見開きのページだけ、お客様にご覧頂けます。私どもも材料の準備のため、把握しております。ぜひご覧ください」


「やった」


 春魅は早速前のめりになり、ノートを覗き込んだ。香も続く。


「……どれも変わったものばかりですね。植物や動物の部位や分泌物、金属の塊に液体の試薬や薬剤、生き物の死骸に一本のナイフ……」


「私どももいつも大変です。ですが、全て降霊に必要なものですので」


「こちらの、大量で種類の異なるたくさんの紐とはなんですか?」


「紐は、麗奈様独自の解釈により採用している触媒となっております。こちらとあちら、現世と冥界を"つなぐ"象徴として、床一面に無造作に張り巡らせておくそうです」


「なるほど」


 それっぽい言葉で説明されると説得力がある。香は感心した。


「降霊対象のDNA……。美楽さんの体の一部を持ってるの?」


「はい。ここだけの話ですが、麗奈様が相当無理をして手に入れました」


 詳しく聞かないでくれと言わんばかりに、月野は顔を伏せた。


「こちらのページ、写真を撮らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい。私どもも撮影して漏れのないようにしていますので、問題ありません」


「ありがとうございます」


 香はポケットからスマホを取り出し、パシャリと一枚写真に収めた。


 日が届かないため少し暗いが、内容が読めなくはない。素早く画像を確認し、スマホを戻した。


「皆様には降霊を行う直前の二十三時五十分頃にもう一度、ここに訪れていただきます。そのときには降霊の準備が済んでおりますので、今とは違う雰囲気を味わって頂けると思います」


「見せて頂けるんですね」


「はい。皆様には、降霊成功の証人になって頂くという大きな意味もあります」


「そのために私たちを呼んだの?」


「半分はそうです。もう半分は、生前の美楽様と縁のある方々に、美楽様と交流する機会を設けるためです」


「……なるほど」


 春魅がそれとなく探りを入れると、あっさり真意が聞けた。亡くなった美楽と話をするチャンスをくれるとは。


 それにしても、『縁のある』、か。メイドたちは一連の事件の真相を知っているのだろうか。春魅の残酷な運命を理解しているのだろうか。香の関心は、専らその辺りにあった。


 月野の言うことを鵜呑みにしてもいいのか。本当に、死者とコミュニケーションする以外の狙いはないのか。考えごとは尽きない。


「……そろそろ、よろしいでしょうか?」


 月野はちろりと舌を出して言った。


「実は、買い出しを仰せつかっているもので……」


「ああ、気が利かず申し訳ありません。ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 三人は降霊室をあとにした。


「先ほどの部屋に戻りましょう」


「あ、ご案内は大丈夫ですよ。道順は覚えていますので」


「そうですか?助かります」


 月野は軽くお辞儀をし、


「それでは、勝手ながら失礼させていただきます。夕食のお時間になりましたら伺いますので、客室でお寛ぎください」


「はい。ご丁寧にありがとうございました」


「ありがとう、月野さん」


 降霊室前の廊下で、香と春魅は月野と別れた。


「それで、どうするの?」


 監視の目がなくなるや否や、春魅は悪戯っぽく微笑んだ。


「そうですね。探索といきましょうか」


 香もウインクしてみせ、茶目っ気を滲ませる。



 考えることは一緒だった。



 ※※※



 数時間後。歩き疲れてすっかりくたくたになった香と春魅は、再度月野に案内されて一階の食堂へとやってきた。


 次々出てくる料理と個性豊かな面々の団欒により晩餐会は大いに盛り上がり、つつがなく終わった。香と春魅はここで二人以外の招待客と、メイドの残りのメンバー、それと久我麗奈その人と顔を合わせることができた。


「お楽しみ頂けたかしら?腕によりをかけて料理人たちに作らせましたが」


 縦長のテーブルが撤収され、大きな円形のテーブルに席を落ち着かせてから麗奈が聞いた。


 彼女は不思議なデザインの貫頭衣を纏っている。目に悪い不規則でアシンメトリーな柄も、極彩色の色合いも厚手の生地も、香と春魅の見たことのないものだった。


 髪は短く切り揃え、顔には白粉をまぶしたかのように真っ白なメイクがされてある。下は黒のレギンスとローファーだ。


 奇抜なファッションの体に、ステレオタイプなお化けを思わせる顔が乗っているというちぐはぐ感があった。下半身が闇に紛れる黒一色なこともあり、麗奈が立っているとまるで、白い頭部が奇妙な色の光を発しながら浮かんでいるように見える。


 これも降霊術に必要なのだろうか。お化けに似せることで霊を降ろしやすくするとか。晩餐会が始まる前に挨拶をしたとき、話す機会はあったのだが、その異様なコーディネートに圧巻されて聞けなかった。なので、香は色々と考えていた。


 だが、麗奈の格好は決して場違いではなく、むしろヴェールに包まれたようなミステリアスさを醸し出していた。麗奈の立ち居振る舞いが上品だからだろうか。


「失礼致します。デザートでございます」


 食事が一段落するとメイドたちがやってきて、白いテーブルクロスの上にアイスクリームの乗った小皿を次々並べていく。アイスはバニラとチョコ味だ。


「美味しかったわ、麗奈。今日は呼んでくれてありがと♡」


 美楽や麗奈と同い年である某芸能プロダクションの女社長、天樹珠巳あまぎたまみは、麗奈にタメ口で返した。


 彼女は麗奈と美楽の共通の友人だ。『グローリーシャイン』の大ファンでもあり、事務所の所属芸能人たちにジュエリーを身に着けさせるなどしてブランドの発展に貢献した。


 すなわち、今夜の降霊術に参加するのに相応しい人物である。


宝田たからださんはどうかな?」


「楽しませて頂きました」


 水をちびちび飲みながら、今をときめく売れっ子モデルの宝田純夏たからだすみかは応えた。


 言わずもがな、彼女も『グローリーシャイン』のアクセサリーの愛用者だ。派手すぎないようにジュエリーを身に纏ってランウェイを歩いたり、撮影に臨んだりしたことで、『グローリーシャイン』の広告塔として計り知れないほどの寄与を果たした。


 美楽と会ってやりとりをしたいというのは、美楽に女性としての憧れを抱く彼女にとっては悲願であった。今夜ここにいるのも納得だ。


「最高だよ。こんなに美味しい食事を毎日食べて、よく太らないね」


羽賀はがさん?女性にそういうことは聞かないの」


「冗談だよ、冗談。はははっ!冗談が出てしまうくらい最高だったってこと!」


「相変わらず、お口が達者だこと」


 ベテランの3Dデザイナーである羽賀章一はがしょういちは笑いながら、陽気に麗奈と話す。


 彼は美楽にクリエイティブの才能を見出され、『グローリーシャイン』の商品を形作るデザイン担当として尽力した。美楽とは年がそれほど遠くなく、プライベートではよく軽口を叩き合う仲だった。


 故に今日、彼女の復活の儀に招かれている。


「お二人はどうかしら。雛菊さんに梅川さん」


「……」


「はい。大変美味しかったです。皆さんのお話も参考になりました」


 アイスを頬張って話せない春魅の分まで、香をお礼を言った。


 ただ、後半の一文を口にしたとき、天樹と宝田と羽賀の三人の顔が曇った。


 この二人は誰だ?どうして、美楽の降霊術に呼ばれた?食事が始まってから今まで、そんな疑問のこもった眼差しが香と春魅に何度も突き刺さっていた。


 だが、それも仕方のないことだった。春魅が『閻魔大王連続殺人事件』の犯人であることと、香がその事件を解決に導いたことは公にされていないのだから。よって、他のゲストから見て、美楽と香、春魅のつながりが曖昧なように見えるのも致し方なかった。


 麗奈は他のゲストに、意図的にこれらのことを伝えていないようなので、香と春魅も黙っておくことにした。しかしその代償として、この場を借りて麗奈に招待の真意を質すという作戦が実行に移せないでいた。


「なあ麗奈さん、二人を紹介してくれないかな。横のつながりというか、業界内の縁で天樹さんと宝田さんのことは知ってるけど、二人は業界外の人だろう?どちらもかわいらしいが」


「羽賀あ?セクハラよ」


 ワインでアルコールが周っている天樹が舌っ足らず気味に窘めるも、本気で止める気はないようだった。


 疑問の答えを知りたい。天樹も宝田も口にしないだけで、内心そう思っている。


「そうねえ、知りたい?」


 麗奈は香と春魅以外の三人に目配せする。


 三人は黙って頷いた。


「内緒よ。降霊に関わることだから」


「ええー、ケチ……」


「私に言う?一応社長夫人よ?」


「言葉の綾というやつですよ」


 思わず口を出た言葉を、羽賀は苦笑して誤魔化した。


 麗奈も笑って、


「でも、少しだけ教えてあげる。こちらの雛菊香さんは怪異探偵をやっていらっしゃるの。怪異、いわゆる超常的なモノやコトを調査する探偵よ」


「ああ、だから……」


 四十代と三十代の天樹と羽賀は女子大生の香の若さと怪異探偵という異質な職業のギャップに理解が追いついていなかったが、二十代の宝田はすんなり飲み込めたようだ。


「怪異探偵の見地から、私の降霊術を吟味してほしく、雛菊さんをお招きしました。降霊はこれまで何度か内々で成功しているけれど、やっぱり第三者の検証は大事だから」


 一瞬目が泳ぎ、すぐそれを正すように前を向き直した。嘘ではないが、なにか隠している。香は麗奈の話す様子に不自然さを感じた。


 降霊術のジャッジ以外に、私になにかしてほしいことがあるように思える。怪異探偵としてのなにかか、あるいは春魅の事件に関わることだろうか。香は思索を巡らせる。


「どういう風の吹き回し?あなた、公表したがってなかったじゃない。初めて成功したときも」


 天樹が聞いた。口ぶりからして、過去に降霊術の成功をこの目にしたらしい。


「いよいよ智子に会える準備ができたんだもの。もう隠す必要はないわ。私の降霊は今夜でおしまい」


「えっ、そうなの?」


 羽賀が分かりやすく驚く。天樹も宝田もびっくりする。


「智子の最後の意思を聞いて、招待客の方々とお話してもらって、今度こそちゃんとお別れして、終わりよ。それで私の望みは果たされる」


「そっかあ……」


 思うところがあるのか、天樹の返答は弱々しかった。


「それじゃあさ……」


 一方、羽賀はなお話し始める。


「梅川さんは?言っちゃあなんだけど、ただの女子高生にしか見えないけど」


 痛いところを突かれた春魅は苦い顔をし、麗奈と夜架の目つきが鋭くなったが、それは香しか気づいていなかった。


「彼女は、梅川検事の娘さんです」


「あ、梅川沙羅検事の!」


 羽賀は思わず立ち上がりそうになった。


 Kin-Ji-Towerで起きた『エレベーター内連続殺人事件』の犯人ということになっているである佐藤弘毅の裁判で、彼に死刑を求刑した梅川検事のことは、三人ともよく知っていた。


 美楽を死に追いやった憎き殺人鬼に、死という罰をもたらした。三人はその表面上の結末を信じ、佐藤を憎み、梅川検事を誇っていた。


 そんな三人の態度を見て、春魅の顔が歪む。麗奈が氷のように冷たい真顔を作った。


「梅川さんには、事件が"無事解決した"ことを智子に伝えてほしいと思っています。検事は亡くなられてしまったので」


 麗奈は用意していたカバーストーリーを展開する。恐ろしいほど真顔で、自罰意識に耐えるようにゆっくり、はっきりと言葉にした。


 麗奈の苦しみを見て、香は気づいた。全てを知った麗奈は、春魅のことを思って降霊をしようとしているのだと。


 佐藤が犯人ではないこと、梅川沙羅が自ら命を絶ったこと、春魅によって真犯人たちに復讐が果たされたことを、降霊によって美楽に伝える。そして、美楽に赦してもらおうとしているのだ。春魅の犯した罪を復讐対象の起こした事件の被害者である美楽に赦してもらうことで、春魅に未来を生きてほしいのだろう。前を向いて生きてほしいのだろう。


 自分が招かれた理由もはっきりしてきた。香は一人頷く。


「梅川検事に娘さんがいるなんて知らなかったよ!言われてみれば確かに、彼女の面影があるなあ!」


「……」


 じろじろと顔を見られ、春魅がさらに萎縮する。


「春魅さん……」


「……さあ、お開きにしましょう。客室でゆっくりお休みになってください」


 麗奈は強引に話を締め括り、メイドたちに目で合図する。


「白鳥、花澤、風音。三人をお連れして。月野、雛菊さんと梅川さんをお願い」


「かしこまりました」


 四人のメイドは息を揃えて、主人の命令に応えた。


「くれぐれも寝てしまわないようにね。二十三時四十五分頃にメイドが訪ねますので」


「美味しい食事をありがとうございました。降霊術、楽しみにしています」


「……ありがとうございました」


 香と春魅は自分なりのお礼を麗奈に伝え、月野に従って食堂をあとにした。



 三



 数時間後。予定通り二十三時四十五分に月野が客室にやってきて、香と春魅は降霊室の前までやってきた。


 扉の前にはメイド長の夜架がいた。白鳥、花澤、風音となにやら話している。


 少し離れた一角に天樹、宝田、羽賀の三人がいた。天樹と宝田はスマホをいじり、羽賀はあちこちに視線を巡らせて手持ち無沙汰にしている。


「こちらで少々お待ちください。もうすぐ準備が終わります」


 月野は香と春魅に告げ、メイドたちの輪に加わった。


「あと十五分で、降霊術が始まるんだ……」


「まずは本物か偽物か、見極めなければなりません。話はそれからです」


「あっ。……そうだね」


 春魅はすっかり、降霊術が実在するものだと思い込んでしまっていた。


 麗奈や招待客たちの間では降霊術が本物という前提で話が進んでいるが、探偵である香は未だ疑い深かった。


 『ホンモノ』の確率は高いが、100%ではない。香は春魅にも、そのことを肝に銘じておいてほしかった。


 美楽が現世に降りてくれるかどうかは、まだ分からないのだから。


「夜架です!」


 数分後の二十三時五十分。メイド長が降霊術の扉を数回ノックし、声を張って中の麗奈に伝える。


「皆様ご到着されました!準備完了です!」


「そう……」


 おしゃれな意匠のドアの向こうから、くぐもった返事が返ってくる。


「こっちもオッケーよ。お招きしてちょうだい」


「かしこまりました!」


 夜架は快活に応え、香たちの方に振り返る。


「麗奈様のご準備ができましたので、ご案内致します。今からご覧頂くのは、降霊術直前の降霊室と麗奈様の様子です」


「中は狭く薄暗いので、一名ずつお入りください。天樹様からどうぞ」


「はーいっ」


 月野の声に従い、天樹が扉を躊躇なく開けた。


 いきなりか。香は瞬きを止め、部分的に見える降霊室の内部を観察した。


 降霊室は暗く、廊下のオレンジの光が手前側を申し訳程度に照らしていた。


 床には様々な長さと太さの紐が乱雑に置かれている。毛糸、綱、釣り糸、ゴム紐、ロープ、電気コード、麻紐、銅線、ビニール紐、刺繍糸、ワイヤーなどなど。それぞれが重なり、絡まり、たわみ、引っ張り合いながらこんがらがり、床の上に縦横無尽な線の群れを形成していた。


 それらの紐たちの下に描かれた六芒星は不気味なほど真っ白で、紐の線たちに埋め尽くされてもところどころが視認できた。


 手前の足下には、抜き身のナイフが横向きに寝かせてあった。柄も鍔も金属でできていて、オレンジの光を全身で反射させている。


 そして、奥は……。香が目を移動させる前に、入室した天樹が扉を閉めた。


「……雰囲気は出ていますね」


「え?暗くてなにも見えなかったけど」


「これから中に入れますから、じっくり観察できますよ」


「天樹様、お疲れ様でした。……それでは宝田様、どうぞ」


 一分ほどで天樹が出てくると、促された宝田は扉を開け、降霊室に入った。ぱたんとドアが閉まる。


 天樹が降霊室内にいた時間は一分ほどだった。順調にいけば、二十三時五十五分頃に全員の確認が終わる見込みか。


「宝田様、お疲れ様でした。……続いて羽賀様。お入りになってください」


 また一分かかって宝田が出てきた。入れ違いに羽賀が入る。


「羽賀様、お疲れ様でした」


 ただ、羽賀は前の二人よりも早く出てきた。二人が確認したから、適当でいいだろうという考えか。


「次は梅川様、どうぞ」


「……はい」


 次は自分の番だと思っていた香は、拍子抜けした。春魅も完全に虚を突かれ、返事がワンテンポずれる。


「行ってくる」


「くれぐれも、お気をつけて」


 香は、春魅の目を見て言った。


「分かってる」


 春魅も香の目を見つめる。数秒の間、二人の視線が絡み合った。麗奈相手に一人で大丈夫なのか。香は目で訴えかける。


「……大丈夫だよ」


 対して春魅は顔を逸らし、すたすたと歩いていった。降霊室に入る。


「大丈夫、でしょうか……?」


 意図せず声に出してしまっていた。春魅が麗奈に危害を加えられないだろうか。もしくは過去の事件のことで、心ないことを言われないだろうか。心配だ。香は心配な気持ちでいっぱいだった。


「落ち着きませんか?」


 扉の付近で悶々とする香に、夜架が話しかけてきた。


「はい。失礼を承知で申し上げますが、麗奈さんがなにをされるか予想がつかない。食堂ではあのようなことを言っていましたが、それも本当かどうか……」


「不安になる気持ち、分かります。私も定期試験で何点取れたか発表されるときなど、ドキドキします」


 いや、それとは違うのではと香は思ったが、余計な軋轢を避けるために受け流した。


「大丈夫です。麗奈様はお優しい方ですから……」


「そう、ですね。夜架さんを立派に育て上げられていますし」


「……それは少し違うと思いますが」


 と思ったら、夜架に言い返されてしまった。


 確かに、客人に対する優しさと家族同然の間柄の人に対する優しさは別物か。香は遅れて納得した。


 そんなやり取りをしていると、出し抜けに扉が開いた。


「春魅さんっ」


 香は焦りを悟られない程度の早足で、降霊室の入り口に近づいた。


「大丈夫」


 春魅もぼかして無事を主張する。


「謝られた。あなたに背負わせてしまったって」


 十中八九、一ヶ月ほど前に起きた『閻魔大王連続殺人事件』で果たされた復讐のことだろう。


 香は頷いて、


「他には?」


「辛いだろうけど、美楽さんの声に耳を傾けてほしい、って」


「なるほど……」


 一対一のときを狙って危害を加えるようなことはなかったか。香はひとまずほっとした。


「梅川様、お疲れ様でした。……最後に雛菊様、どうぞ」


 夜架がやんわりと促し、香は扉の前に立った。軽く呼吸し、金属のドアレバーを握る。


 春魅が大丈夫だったからといって、自分もそうであるとは限らない。なにかされても逃げ場はないが、最悪、叫べば春魅にSOSを伝えられるか。


「失礼します」


 そこまで考えておいてから、三回ノックし、香は降霊室に入った。


「ようこそ、私の降霊室へ」


 部屋の奥にいる麗奈は両手を広げ、香を迎えた。


 貫頭衣のカラフルな布地が、月光が降り注ぐ薄暗闇の空間に広がり、幻想的な雰囲気を生み出す。


「久我麗奈さん。あなたの狙いはなんですか?」


 紐たちに躓かないよう、あと六芒星の線を踏まないように二、三歩前進しながら、香は単刀直入に聞いた。時間が限られているからだ。


「智子を降ろすことよ。晩餐会で話した通り」


「本当にそれだけですか?春魅さんのことを思っているのは伝わってきますが……」


「梅川さんだけではないわ」


 麗奈ははっきりと言う。


「あなたも大切に思ってるわ。梅川さんを救った雛菊香さん」


「私もですか?」


「ええ。今日招待した珠巳も純夏も羽賀もそう。夜架も、他のメイドたちも、大切に思ってる」


「だから招待したんですか?」


「そうよ。そして……」


 息を吸い込んで、麗奈は言った。


「……そして、皆と同じくらい、智子を大切に思っているの。彼女がこの世で言いたかったこと、やりたかったことを、やらせてあげたい。そう思って、私は今日まで降霊術を勉強してきたの」


「美楽さんの遺志を果たしてあげたいということですか」


「ええ」


 白い顔を縦に振り、


「そのためなら私、なんだってできるわ。それが私の望みだから。親友にしてあげたいことだから」


「……そうですか」


 香は納得するしかなかった。


 麗奈の希望とやりたいことは一貫している。普通の探偵として話を聞く限りでは、特に違和感はない。


 では、怪異探偵としてはどうか。降霊術という信じ難い儀式は本物なのか、偽物なのか。本当に美楽の霊を顕現させられるのか。


「止めなくて、いいんですね?」


「ええ。降霊術は実在するわ。今夜も成功させてみせる」


 香には分からなかった。不可能を可能にするエネルギーのようなものの通称である、神性が関わってはいるのだろうが、それが天使の主から奪われた不当なものであるかは分からない。


 自分はなんのために招かれたのか?その答えは多分、探偵として降霊術を吟味するためでも、麗奈の特別な存在だからでも、春魅の救世主だからでもないように思える。


「……」


 気づけば、呼吸が止まっていた。思考の海に深く潜りすぎた。


「最後に、この光景を覚えておいて。次に会うとき、私は私じゃないから」


「はい……」


 頷くしか、なかった。


「以上よ。……ああ、最後の最後に、そこの発泡スチロールを取ってちょうだい」


 振り返った香の背に、お使いが頼まれた。


 よく見ると、扉の脇に小包サイズの白い箱があった。香は注意深くそこまで移動し、発泡スチロールを麗奈のところまで持ち運んだ。


 発泡スチロールは軽かった。中になにが入っているのだろう。


「ドライアイスよ。二酸化炭素の霧で、この世とあの世の境界を曖昧にするの」


 心を読んだかのように麗奈が答えた。箱を受け取り、中身を開ける。


 たちまち、モクモクと白い煙がこぼれ落ちた。煙は麗奈と香の体にぶつかり、紐たちを包み、床を撫で回しながら室内を満たしていく。


「行って。扉はちゃんと閉めてね」


「やっぱり……」


「お願い」


「……」


 駄目だ。久我麗奈を説得することは不可能だ。


 香は黙って振り向き、今度こそ降霊室をあとにした。



 ※※※



「零時になりました。これより、全員で入室致します」


 夜架が淡々と言う。ドアレバーを掴み、ゆっくりと扉を引き開けた。


 扉を押さえて横にずれたメイド長のおかげで、再び降霊室の中が見える。が、麗奈の姿が見えない。


 ドライアイスの霧の中で横になっているのか?香は考えられる答えを導き出す。


「失礼致します。麗奈様、いかがですか?」


 開けっ放しのドアをくぐり、月野が中に入る。白鳥、花澤、風音の三人も続く。


 空気が乱れ、霧が徐々に晴れてきた。とはいえ、メイドたちに遮られて麗奈は視認できない。


「では、美楽様とお呼びした方が……、麗奈様!?」


 月野が不意に驚愕し、歩み寄る。麗奈の上半身があるだろう辺りでしゃがみ込み、胸付近に手を近づける。


「……ない」


 白鳥も目を見開いて驚きつつも足を止めず、六芒星を回り込んで部屋の奥にあるデスクに向かう。


 花澤もびっくりしながら、けれどもその場に屈んで、まだ少し白い足下の床に手を這わせる。


「ない……」


 風音は部屋の奥に急ぐ。奥の壁際で腕を伸ばして、周辺をまさぐる。


「こっちはあるわ。どうして……?」


「どうかしたんですか、皆?」


 異変を察知し、夜架が頭を傾けて降霊室の中を覗き込む。


「え、麗奈様っ!?」


「失礼します」


 探偵の出番か。香は慌てふためく夜架に続いて入室した。


 降霊室の様子は、先ほど香が訪れたときとほとんど変わっていなかった。


 部屋の中央、六芒星の中心に寝そべる麗奈の胸に、銀のナイフが突き刺さっていること以外は。


「きゃああああっ!!」


 女性の金切り声。天樹のものだ。


「な、なんで麗奈さんが……」


「……」


 羽賀は意味が分からないと言いたげに頭を振る。宝田に至っては絶句している。


「麗奈様……!」


「皆さん動かないで!ひとまず現場ほぞ、ん、を……!?」


 夜架や他の人たちを落ち着かせるため、張り上げた香の声が途切れる。


 信じ難い瞬間を、この目で捉えたからだ。


 降霊術は、もう始まってしまっていた。


「……」


 麗奈の両の腕が、ぴくりと動き始めた。誰も触れていないのに、ひとりでに。


 ゆっくりと両手を床に突き立て、それを支えにして、緩慢な動作で上半身を起こす。


「ひいっ!」


 後ろで羽賀が漏らす。


 麗奈の、いや、かつて麗奈のものだった首は最初座っておらず、胴体が直立する頃には頭は後ろに反っていた。


 が、たちまち生気が吹き込まれる。胴体から首を通じて頭に、姿勢維持のために命令された筋肉の伸縮が伝わっていく、と表現すればいいだろうか。


 首が座るようになり、麗奈らしき存在は頭を起こした。


 虚ろな表情をしていた。目は据わり、近くの床を見つめる黒目に輝きが感じられない。頬も口元も緩みきっており、表情が読み取れない。元々白いメイクされていた肌は、より一層青白く感じられる。


「麗奈様……。まさか、自分を媒介に……?」


 夜架が呟く間にも、麗奈の顔に生気が上っていく。


 下から上に。顎を引き、唇を結び、頬を自然に上げ、目に光が宿る。


「……」


 麗奈の見た目をしたなにかは、口を小さく開ける。軽く息を吸った。


 なにかを言おうとしている。瞬時に全員はそう確信した。


「……あ。……あ、わ、私は、美楽智子。エレベーターから身を投げた、美楽智子よ」


 麗奈の声で、美楽は言った。


「間違いありませんか?」


 傍らの月野が問う。


「ええ。麗奈が命を賭してあの世から引っ張り出してきた、あの美楽智子よ。『グローリーシャイン』のオーナーで、あなたの主人の親友よ、あざとい兎さん」


「その呼び方。いつも仰ってくださる……」


「そこにいるのは、夜架?ちょっと前までおチビちゃんだったのに、すっかり逞しくなったわね」


「よしてください。せっかく呼ばれなくなったのに」


 手前の夜架に焦点を合わせて美楽が言うと、夜架は笑いながら返した。


「腹黒い白鳥さんと、ちゃっかりなお花さんもいるじゃない」


 自然な動作で後ろを見て、白鳥と花澤にも話しかける。


「お世話になっております、智子様」


「ご足労をおかけしました」


 二人は無難に、かつ馴れ馴れしさを含ませて応える。


「……奥にいるのは珠巳かしら。それと純夏?」


 美楽は首を戻し正面、香たちの方を再び見て、言った。


「……ええ、私よ智子」


「宝田純夏です」


 天樹は涙ぐみながら、宝田も泣かないように取り繕いながら、美楽に言う。


「羽賀は、変わってないわね。小生意気なのは直した方がいいわよ」


「……お互い、様ですよ」


 目元を擦りながら、嗚咽を我慢して羽賀が口にする。


「皆、私のために集まってくれたのね。感謝するわ」


 美楽は持ち上げた右手を胸に当て、


「とはいえ、ここにいられる時間には限りがある。一言ずつ伝えるわね」


「うん……」


 旧友を代表して、天樹が頷いた。


「メイドたち、それと夜架。ごめんなさい。私を降ろす引き換えに、あなたの主人を死なせてしまったわ」


「……」


「でも、それこそが麗奈の望みでもあったの。私のいない世界で生きるより、死んで私のいるあの世で一緒に過ごしたい。それが、麗奈の望みだった」


 そういうことか。香は納得した。


 今まで抱いていた違和感が解消された。麗奈は美楽を降霊させるだけでなく、同時に自ら命を絶とうと画策していたのだ。


「……どうにかして自殺の意図は隠そうとしていたみたいだけど、私はそれを許さなかった。だってあまりにも、残されたあなたたちがかわいそうだもの」


「……」


「あなたたちは、主人が自殺を計画していたことは知らなかった。ましてや協力なんて以ての外。そう主張しなさい、分かった?」


「……ど、どういうことですか?」


 夜架は周りのメイドたちの据わった顔を見ながら、言葉を絞り出した。


「麗奈様が自殺を計画?それに協力なんて……」


「……なるほど。麗奈はとことん馬鹿ね」


 美楽は吐き捨てるように言った。


「後で教えてもらいなさい。私に言えるのはそれだけよ」


「……分かりました」


「それじゃあ、終わりね。次、珠巳」


「なに……?」


「麗奈の後を追おうなんてこと、絶対にやめてね。あなたは私たちがいなくてもやっていけるわ」


「……うん」


「元気でね。……次、純夏」


「はい」


「きれいになったわね。どこに出しても恥ずかしくないわ」


「美楽さんのおかげです」


「いいえ、あなたの努力よ。宝石はあくまで装飾品。身につける人の魅力をせいぜい数倍しか引き上げることしかできない。あなたはその魅力の素地が、もう十分すぎるほど高くなった」


「ありがとう、ございます……」


 宝田の整った顔から一筋の涙が落ちる。


「精進しなさい。以上。……次、羽賀」


「はい……」


 背筋をピンと伸ばして、羽賀が耳を傾ける。


「いつまでも『グローリーシャイン』にこだわらず、フリーになりなさい。あなたのことだから、くだらないプライドを燃やして専属デザイナーの座を降りてないんでしょ?」


「ははは。お恥ずかしながら、そうです……」


「それじゃあ駄目。あなたはもっと活躍できる。羽ばたきなさい。美と誇りを追求しなさい。あなたにしかできないことよ」


「……はい、これまで以上にがんばります!」


 こみ上げる思いに蓋をするように、羽賀はわざと大声で応えた。


「以上よ。……最後に、そこの知らない二人」


「雛菊香と申します」


「梅川春魅、です」


「香と春魅ね。あなたたちに、あの世の神様、『閻魔大王』から伝言を預かっているわ」


「……伝言ですか」


「……」


 香と春魅は反射的に身構えてしまう。


 春魅に奪った神性を与え、連続殺人事件を起こさせた元凶が、事件を起こした本人と解決した探偵になにを伝えたいのだろう。全く見当がつかない。


「『悪かった。だが、この程度の奇蹟なら問題ないだろう?』とのことよ」


「……なるほど」


 閻魔大王が自らの過ちを認めるとは、なんだか滑稽だ。香は素朴にもそう思った。


 そしてやはり、麗奈の降霊術は奇蹟、神性を用いた神の御業であるらしい。


「以上。もう行かないといけない」


「智子様……」


「夜架、強く生きなさい。私と麗奈がいなくても、あなたは大丈夫よ……」


 あなたは、誰よりも美しく、誰よりも誇り高い主人の従者なのだから。


 そう言い残し、美楽の霊魂は黄泉に帰った。


 麗奈の体から力が抜け、上半身が崩折れるどたんという音が、虚ろな降霊室内を反響した。



 四



 翌日の午前十時。麗奈邸の最寄り駅のホーム。香は春魅と一緒に、十分に一度やってくる帰りの電車を待っていた。


「やっぱり、自殺なんだよね……」


「春魅さんは悪くないです。気づけなかった私の責任です」


 自責する春魅に、香は優しく言った。


 麗奈の意思は堅牢だった。自らの命を捧げるとは予想できなかったとはいえ、たとえ二人が止めたとしても麗奈は実行しただろう。


 降霊術の後、香はすぐに警察に通報した。数十分ほどで麗奈邸に捜査員が押しかけ、特に降霊室と麗奈の遺体が詳しく調べられた。現場と遺体の状況、それと関係者(香と春魅も含む)の供述により、警察は久我麗奈が自殺であると判断したのだった。


「でも、メイドさんなら止められたかもしれなかったのに……」


「いや、従者だからこそ、止められなかったんじゃないでしょうか。主人を尊重し、主人の悲願を第一に、行動したんだと思います」


 月野、白鳥、花澤、風音の四人のメイドは全て白状した。数週間前に麗奈から自殺する計画を伝えられたこと、夜架には計画を秘密にすること、麗奈が自殺した後、決められた工作を行うこと。主にこの三つの秘密を、招待客たちと警察、そして夜架の前で打ち明けた。


「ただ夜架さんは、麗奈さんにとって娘のような存在だったから、巻き込むまいと蚊帳の外に置かれた。後から彼女が受けたショックは、とても私たちには想像できませんが……」


 麗奈が自殺しようとした手段と四人が行った工作は、既に判明している。


 昼間に招待客全員が降霊室を見学し終えた後、麗奈はとある仕掛けを施したのだ。


「長い糸を結んだナイフを高所に配置し、糸を引っ張ることでナイフを落下、六芒星の中心で横になった自分の胸に突き刺すことで、凶器に触れずして自殺するつもりだったとは、思いつきませんでした」


「吹き抜けの天井を利用したんだね。床にたくさん並べた紐と壁に張られた鏡は、カモフラージュの役目だったって言ってたけど」


「はい。木を隠すなら森の中と言いますから。ことが済んだ後、月野さんがナイフに結ばれた糸をほどいて床に落とすことで、使われた糸はたくさんの紐の中に隠れます。柄や鍔まで金属製の特別なナイフを選んだのも、ナイフを壁の鏡面の一部と同化させて隠す意味があったんでしょう」


 実際に、数メートルの長さの糸に結ばれた銀色のナイフが、壁の上部の辺りから回収されている。トリックを裏付ける物証が残っていたのだ。


 そして香の言った通り、月野に命じられた工作とは、亡くなった麗奈に近寄り、刺さっているナイフに結ばれた糸をほどいて捨てることだった。事実、月野はすぐに麗奈の遺体に駆け寄った。


 しかし、『……ない』と漏らしたように、月野は実際にはその工作を実行に移すことはできなかった。


 なぜなら……。


「でも、凶器はそのナイフじゃなかったんだよね。どういうこと?」


「そうですね。私たちが直前に降霊室を確認したときに床に置いてあった、いわばダミーの方のナイフが刺傷に使われたのは間違いないと思います。メイドの花澤さんが入ってすぐ屈んでのは、ダミーを回収するためだったと言っていましたし」


「ドライアイスを炊いたのは、部屋に入ったときに自殺に使う予定のナイフとダミーのナイフが二本存在することが他の人にばれないようにするため、だったんだよね」


「はい。決して、この世とあの世の境界を曖昧にするためじゃなかった。あれもトリックの一部だったんです」


「でもそもそも、なんでそんなことをしたんだろう。最初からダミーのナイフを使えばいいと思うんだけど……」


「その理由はおそらくですが、麗奈さんが自殺を隠そうとした意図に隠されていると思います」


「意図……?夜架さんを心配させないため?」


「そうです」


 香は頷きながら、自前の推理を披露する。


「麗奈さんは降霊を成功させるためと美楽さんの後を追うために、自分の命を代償にすることに決めた。ですが、そのことは大切に思っている夜架さんや招待客たちには内緒にしたかった。多分ですが、デスクのノートにそのような思いを書いて、夜架さん以外の四人のメイドに事前に共有していたんです。ただ、それだとノートが証拠になってしまうので、降霊術の後、白鳥さんは入ってすぐデスクに向かい、こっそりノートを回収した」


「え?ノートに書いてあったの?昼間見たときは、そんなこと書いてなかったよ」


 降霊室を見学したときのことを、二人は思い出した。


「これも推測ですが、自殺の計画は前の方のページに書いてあって、夜架さんや私たち招待客が見るときに一番後ろのページを開いていたのでしょう。『メイドがノートを触ってはいけない』というルールは、夜架さんの知らないところで破られていた。麗奈さんが許したんでしょう。私たちが見学したときは、月野さん以外の誰かがあらかじめ最新のページを開いておくことで、降霊術に必要な表向きの材料リストを表示させていたんです」


「なるほど。それならできるか……」


 春魅は顎に手を当て難しそうに考えていたが、やがて理解したように頷いた。


「月野さんと花澤さんの異変の報告を受け、四人目の風音さんは麗奈さんが持っていたはずの糸の端を探した。ナイフが結ばれている糸の反対側です」


「確か、『こっちはある』って言ってたね」


「よく覚えてましたね」


 香は素直に褒め、春魅の頭を撫でた。


 暖かい手に覆われた春魅は、安らかに深呼吸してされるがままにする。


「私には見えませんでしたが、風音さんは糸の端が奥の壁際に垂れ下がっていたのを確認した。よって、高所にしかけた本命のナイフは落ちてきていない。ということは、麗奈さんは床にあったダミーのナイフで胸を刺したことになります」


 香は最も大事なところを目指し、論理を展開していく。


「これまた予想ですが、麗奈さんはいよいよというときに糸の端を手放してしまったんでしょう。時間制限のある緊張感や、部屋の薄暗さが原因で」


「扉の向こうには私たちがいたし、午前零時に降霊するって言っちゃったもんね。最後の最後で、失敗したんだ……」


「おそらく」


 香は、春魅にはそう答えるしかなかった。


 『どうにかして自殺の意図は隠そうとしていたみたいだけど、私はそれを許さなかった』。麗奈のガワに収まった美楽が放った一言が、やけに香の胸の中に引っかかっていた。


「……失礼します」


 不意にポケットのスマホが震えた。画面を見ると畠山からだった。


 香は春魅に断ってから頭の上に乗せていた手を離し、声を潜めて応じる。


「もしもし」


「ああ、畠山だ」


 だるそうな低い男声。畠山で間違いない。


 一応不審死ではあるので、捜査一課の刑事である彼も一捜査員として麗奈邸に駆り出されていた。今は絶賛捜査中のはずだが……。


「迅速な通報と正確な現場保存、誠に感謝申し上げる」


「それだけですか?」


「いいや。ホトケさんの凶器についてだ」


「……なんでしょう」


 嫌な予感がした。


 最悪の予感が。


「実はな、凶器の柄にも鍔にも刃にも、どこにも指紋が残ってないんだ。その、降霊術たるものをしたとき、久我さんは素手だっただろ?おまけに、扉の前には探偵さんたちがいて事実上の密室だった。降霊室だかには他に出入り口はなかった」


「……」


「ナイフは心臓を貫いて即死だった。刺した後にホトケさんが拭く余裕なんてない。誰かが指紋を拭き取ったとは考えられないか?」


「……」


 香は思う。


 美楽は、麗奈が自ら命を絶つ決断をしたことが許せなかったのではないか。『どうにかして自殺の意図は隠そうとしていたみたいだけど、私はそれを許さなかった』という言葉の意味は、そういうことなのではないか。


 自ら命を絶つくらいなら、いっそ自分の手で……。


 手段や方法は分からない。が、世間にはポルターガイストという、こんなときに都合の良い心霊現象に対する呼称が存在している。


 霊が、現世の物体を操ることができる可能性は、十二分にあるのだ。床のナイフを持ち上げ、その切っ先を寝ている麗奈の胸に突き刺したなんて可能性も、ないとは言えないのだ。


「おい、もしもし。おーい……!」


「……」


 肉体を持たない霊魂の意志による、殺人。


 刑事になんか言えるはずのない最悪の予想に、香は顔を青ざめて戦慄するしかないのであった。

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