2-3 ラストワンマイル
【今回の見どころ】
迫り来る未来の襲撃者から逃れるため、一雄が選んだのは大通りではなく、十日間の地獄で覚えた過酷な裏道!
商店街を激走し、デリバリーバッグの盾を掲げて、命がけの「ラストワンマイル(最後の1.6キロ)」を駆け抜けろ!
そして、生還した一雄の前にオヤッサンが告げる、鎧の解除コード。その後に明かされる、オヤッサンの喉に隠された「驚愕の真実」とは――!?
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
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と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【2-3 本文】
大通りに出た瞬間、一雄は自分の間違いに気づいた。
広い。まっすぐだ。信号がある。
つまり、脚の速い方が勝つ。
背後の足音が、一定の間隔で近づいてくる。息が乱れていない。走り慣れた人間の足音だった。対して一雄の呼吸は、走り出して二十秒でもう喉に引っかかっている。
『一雄、大通りはまずい!!』
「わかってます!!」
わかっていた。十年やってきて、それだけは体に刻まれている。
大通りは速い。速度は出る。だが、信号がある。
配達を始めたばかりの頃、一雄はアプリの示す青い線をそのまま走っていた。最短距離。最速ルート。そう書いてあるのだから、そうなのだと思っていた。
半年で気づいた。あれは距離の話をしているだけだ。
三百メートル遠回りでも、信号がゼロなら勝つ。大通りを一直線に走って赤に三回捕まる男と、住宅街をうねうね曲がって一度も止まらない男とでは、後者が先に着く。毎回、必ず。
だから配達員は裏道を覚える。地図に載っていない抜け方を覚える。この時間は混む、この道は一方通行だが自転車なら逆走できる、この団地は敷地を突っ切れる、ここの角は見通しが悪いから出会い頭に気をつけろ。
十年分の、それだけが頭に入っている。他には何も残らなかった。
一雄は、次の角を右に曲がった。
大通りから外れる。クリーニング屋と自販機の間、人ひとり分の隙間。三年前、雨の日にここを抜けて二分縮めたことがある。
背後で、速度が落ちた。舌打ちが聞こえた。
『ようし、そのまま行け』
「この先、突き当たりです」
『は?』
「突き当たりに、階段があるんですよ」
バイクでは通れない道だった。だから一雄は、十年間この先を知らなかった。
知ったのは、この十日間だ。自転車で、毎日押して降りた十二段。腹が太ももに当たるのが嫌で、それでも近いからと選び続けた階段。
一雄は、そのまま飛び降りた。
着地の衝撃が、足首から膝、腰へ抜けていく。だが折れない。膝の装甲がきしんだだけで、体は前に進み続けた。七十六キロを、この鎧は勘定に入れて作られている。
背後で、男が階段の上に立った。
追ってこない。いや、追えないのだ。あの脚力なら飛べる。飛べるが、着地したところを盾で殴られたら終わる。相手はそれを計算していた。
一雄は走りながら、初めて笑った。
「勝ってる」
『まだだ!! 回り込まれるぞ!!』
視界の右上で、青い線が引き直された。
『経路を再検索しました』
『到着予定 16:33』
「延びてる!!」
『経路を再検索しました』
『到着予定 16:34』
「延びてるって!!」
商店街のアーケードに飛び込んだ。夕方の買い物客が、こちらを見て道を開ける。当たり前だった。銀色の鎧を着てスイカの頭をした男が、巨大な保温バッグを担いで全力疾走している。
「すみません!! 通ります!! すみません!!」
謝りながら走った。十年間そうしてきたからだ。歩道を押して歩くとき、店の入口で待つとき、エレベーターに乗り合わせたとき。配達員は、だいたいいつも謝っている。
八百屋の前を抜けたとき、店主が声をかけてきた。
「兄ちゃん、撮影かい」
「配達です!!」
答えになっていなかったが、他に言いようがなかった。
アーケードを抜ける。魚屋の角を左。この先の駐車場は、夕方だけ通り抜けられる。管理人が五時に閉めるが、今は四時半だ。
知っていた。自転車で十日間、毎日ここを通ったから。
『到着予定 16:32』
戻った。
「戻った!!」
『一雄、右!!』
反射的に盾を上げた。
横合いのブロック塀の上から、黒い影が降ってきていた。回り込まれていた。棒が、盾の縁を叩く。火花が散った。
止まらなかった。一雄は盾で押しのけ、そのまま走った。
止まったら終わる、と体が知っていた。配達も同じだ。止まった瞬間に遅延になる。
「くたばりなっ!!」
「だから何なんですかそれ!!」
背中に一撃、もらった。痛くはない。だが押された。前につんのめる。
つんのめった勢いを、一雄はそのまま歩幅に変えた。
見えた。
シャッターの降りた、小さな店。錆びた看板に「モトショップ ウバ」。
シャッターが、内側から持ち上がっていく。
『滑り込め!!』
一雄は、頭から転がり込んだ。
背後でシャッターが落ちる。がしゃん、という音のすぐあとに、外側から重い衝撃が三度。それきり、静かになった。
一雄は、油の匂いのする床に大の字になっていた。
「……はあっ……はあっ……」
視界の隅で、表示が消えていく。
『デリバリー・コンプリート』
『所要時間 三分三十秒』
「……何が……コンプリートだ……」
「よう」
オヤッサンが、上から一雄の顔を覗き込んでいた。作業台の脇には、いつもの瓶。赤い薔薇が一本、変わらずそこに挿さっている。
こんなときでも、あの薔薇は同じ角度で立っていた。
「生きとるな」
「……説明……してください……」
「立てるか」
「無理です」
「じゃあ寝たまま聞け」
オヤッサンは、そばの丸椅子に腰を下ろした。ゆっくりだった。若くない人間の座り方だった。
「まず、それ脱げ」
一雄は寝たまま、天井を見た。
「……脱ぎ方、知らないんですけど」
「当ててみな」
「は?」
「クイズだ」
一雄は首だけ動かして、オヤッサンを見た。にやにやしていた。心の底から楽しそうな顔だった。
「今、俺、死にかけたんですけど」
「死んどらん。当ててみな」
一雄は、天井に向かって息を吐いた。
着るときは「ピックアップ オン」だった。ならば。
「……ピックアップ オフ!!」
沈黙。
装甲は、びくともしなかった。
「惜しい!!」
オヤッサンが膝を叩いた。
「惜しくもねえよ、半分合ってるだろ!!」
「半分も合ってねえ」
一雄は寝たまま考えた。ピックアップ。受け取り。荷物を持つこと。
その反対は。
一雄は、毎日それをやっている。アプリの画面を上にスワイプして、写真を撮って、押す、あのボタン。
「……あ」
「おう」
「……ドロップ オフ!!」
『解除指示を受諾。パーツオフ』
かしゃ、と全身が一斉に緩んだ。
装甲が体から離れ、床の上を滑り、部屋の隅で組み上がっていく。かしゃん、かしゃん、かしゃん。逆再生のように、一台のスクーターが立ち上がった。
一雄は、Tシャツ姿で床に転がっていた。
汗だくだった。全身が震えていた。左手首が、なぜか今になって痛み出した。
「そうだ。ピックアップしたら、ドロップオフする」
オヤッサンが言った。
「お前の仕事だろうが」
一雄は、天井を見たまま笑った。笑ったら涙が出た。理由は自分でもわからなかった。
「……オヤッサン」
「なんだ」
「あれ、何なんですか」
オヤッサンは、すぐには答えなかった。
椅子の上で、しばらく黙っていた。それから、首に巻いたタオルをずらした。
喉仏のあたりに、銀色の輪が埋まっていた。
「……長くなる」
オヤッサンは言った。
「奥、来い」
【第二章 〜完〜】
【第三章 3-1へ続く】
第1話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第6話 第三章「3-1 二〇五七年」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!
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