↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

2-3 ラストワンマイル

挿絵(By みてみん)


【今回の見どころ】


迫り来る未来の襲撃者から逃れるため、一雄が選んだのは大通りではなく、十日間の地獄で覚えた過酷な裏道!

商店街を激走し、デリバリーバッグの盾を掲げて、命がけの「ラストワンマイル(最後の1.6キロ)」を駆け抜けろ!

そして、生還した一雄の前にオヤッサンが告げる、鎧の解除コード。その後に明かされる、オヤッサンの喉に隠された「驚愕の真実」とは――!?



【作品紹介】


本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。


本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。



【2作連動の仕掛け】


オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?


そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線

     ▼ ▼ ▼

『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』

     ▲ ▲ ▲

と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。



【主題歌】


YouTube・noteにて順次公開!

①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」


作者が作詞しました。

ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!


(リンクは後書きの下にあります)

【2-3 本文】


大通りに出た瞬間、一雄は自分の間違いに気づいた。


広い。まっすぐだ。信号がある。

つまり、脚の速い方が勝つ。


背後の足音が、一定の間隔で近づいてくる。息が乱れていない。走り慣れた人間の足音だった。対して一雄の呼吸は、走り出して二十秒でもう喉に引っかかっている。


『一雄、大通りはまずい!!』


「わかってます!!」


わかっていた。十年やってきて、それだけは体に刻まれている。


大通りは速い。速度は出る。だが、信号がある。


配達を始めたばかりの頃、一雄はアプリの示す青い線をそのまま走っていた。最短距離。最速ルート。そう書いてあるのだから、そうなのだと思っていた。


半年で気づいた。あれは距離の話をしているだけだ。


三百メートル遠回りでも、信号がゼロなら勝つ。大通りを一直線に走って赤に三回捕まる男と、住宅街をうねうね曲がって一度も止まらない男とでは、後者が先に着く。毎回、必ず。


だから配達員は裏道を覚える。地図に載っていない抜け方を覚える。この時間は混む、この道は一方通行だが自転車なら逆走できる、この団地は敷地を突っ切れる、ここの角は見通しが悪いから出会い頭に気をつけろ。


十年分の、それだけが頭に入っている。他には何も残らなかった。


一雄は、次の角を右に曲がった。


大通りから外れる。クリーニング屋と自販機の間、人ひとり分の隙間。三年前、雨の日にここを抜けて二分縮めたことがある。


背後で、速度が落ちた。舌打ちが聞こえた。


『ようし、そのまま行け』


「この先、突き当たりです」


『は?』


「突き当たりに、階段があるんですよ」


バイクでは通れない道だった。だから一雄は、十年間この先を知らなかった。


知ったのは、この十日間だ。自転車で、毎日押して降りた十二段。腹が太ももに当たるのが嫌で、それでも近いからと選び続けた階段。


一雄は、そのまま飛び降りた。


着地の衝撃が、足首から膝、腰へ抜けていく。だが折れない。膝の装甲がきしんだだけで、体は前に進み続けた。七十六キロを、この鎧は勘定に入れて作られている。


背後で、男が階段の上に立った。


追ってこない。いや、追えないのだ。あの脚力なら飛べる。飛べるが、着地したところを盾で殴られたら終わる。相手はそれを計算していた。


一雄は走りながら、初めて笑った。


「勝ってる」


『まだだ!! 回り込まれるぞ!!』


視界の右上で、青い線が引き直された。


『経路を再検索しました』


『到着予定 16:33』


「延びてる!!」


『経路を再検索しました』


『到着予定 16:34』


「延びてるって!!」


商店街のアーケードに飛び込んだ。夕方の買い物客が、こちらを見て道を開ける。当たり前だった。銀色の鎧を着てスイカの頭をした男が、巨大な保温バッグを担いで全力疾走している。


「すみません!! 通ります!! すみません!!」


謝りながら走った。十年間そうしてきたからだ。歩道を押して歩くとき、店の入口で待つとき、エレベーターに乗り合わせたとき。配達員は、だいたいいつも謝っている。


八百屋の前を抜けたとき、店主が声をかけてきた。


「兄ちゃん、撮影かい」


「配達です!!」


挿絵(By みてみん)


答えになっていなかったが、他に言いようがなかった。


アーケードを抜ける。魚屋の角を左。この先の駐車場は、夕方だけ通り抜けられる。管理人が五時に閉めるが、今は四時半だ。


知っていた。自転車で十日間、毎日ここを通ったから。


『到着予定 16:32』


戻った。


「戻った!!」


『一雄、右!!』


反射的に盾を上げた。


横合いのブロック塀の上から、黒い影が降ってきていた。回り込まれていた。棒が、盾の縁を叩く。火花が散った。


止まらなかった。一雄は盾で押しのけ、そのまま走った。


止まったら終わる、と体が知っていた。配達も同じだ。止まった瞬間に遅延になる。


「くたばりなっ!!」


「だから何なんですかそれ!!」


背中に一撃、もらった。痛くはない。だが押された。前につんのめる。


つんのめった勢いを、一雄はそのまま歩幅に変えた。


見えた。


シャッターの降りた、小さな店。錆びた看板に「モトショップ ウバ」。


シャッターが、内側から持ち上がっていく。


『滑り込め!!』


一雄は、頭から転がり込んだ。


背後でシャッターが落ちる。がしゃん、という音のすぐあとに、外側から重い衝撃が三度。それきり、静かになった。


一雄は、油の匂いのする床に大の字になっていた。


「……はあっ……はあっ……」


視界の隅で、表示が消えていく。


『デリバリー・コンプリート』


『所要時間 三分三十秒』


「……何が……コンプリートだ……」


「よう」


オヤッサンが、上から一雄の顔を覗き込んでいた。作業台の脇には、いつもの瓶。赤い薔薇が一本、変わらずそこに挿さっている。


こんなときでも、あの薔薇は同じ角度で立っていた。


「生きとるな」


「……説明……してください……」


「立てるか」


「無理です」


「じゃあ寝たまま聞け」


オヤッサンは、そばの丸椅子に腰を下ろした。ゆっくりだった。若くない人間の座り方だった。


「まず、それ脱げ」


一雄は寝たまま、天井を見た。


「……脱ぎ方、知らないんですけど」


「当ててみな」


「は?」


「クイズだ」


一雄は首だけ動かして、オヤッサンを見た。にやにやしていた。心の底から楽しそうな顔だった。


「今、俺、死にかけたんですけど」


「死んどらん。当ててみな」


一雄は、天井に向かって息を吐いた。


着るときは「ピックアップ オン」だった。ならば。


「……ピックアップ オフ!!」


沈黙。


装甲は、びくともしなかった。


「惜しい!!」


オヤッサンが膝を叩いた。


「惜しくもねえよ、半分合ってるだろ!!」


「半分も合ってねえ」


一雄は寝たまま考えた。ピックアップ。受け取り。荷物を持つこと。


その反対は。


一雄は、毎日それをやっている。アプリの画面を上にスワイプして、写真を撮って、押す、あのボタン。


「……あ」


「おう」


「……ドロップ オフ!!」


『解除指示を受諾。パーツオフ』


かしゃ、と全身が一斉に緩んだ。


装甲が体から離れ、床の上を滑り、部屋の隅で組み上がっていく。かしゃん、かしゃん、かしゃん。逆再生のように、一台のスクーターが立ち上がった。


一雄は、Tシャツ姿で床に転がっていた。


汗だくだった。全身が震えていた。左手首が、なぜか今になって痛み出した。


「そうだ。ピックアップしたら、ドロップオフする」


オヤッサンが言った。


「お前の仕事だろうが」


一雄は、天井を見たまま笑った。笑ったら涙が出た。理由は自分でもわからなかった。


「……オヤッサン」


「なんだ」


「あれ、何なんですか」


オヤッサンは、すぐには答えなかった。


椅子の上で、しばらく黙っていた。それから、首に巻いたタオルをずらした。


喉仏のあたりに、銀色の輪が埋まっていた。


「……長くなる」


オヤッサンは言った。


「奥、来い」


【第二章 〜完〜】

【第三章 3-1へ続く】

第1話をお読みいただきありがとうございました!

明日の同じ時間に、第6話 第三章「3-1 二〇五七年」を投稿予定です。お楽しみに!


少しでも面白いと思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】でのポイント応援や、ブックマーク登録をぜひよろしくお願いいたします!


【主題歌のお知らせ!!】

作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌

『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!


アプリから閲覧している方はお手数ですが

YouTube・noteから「なおパパ」で検索をお願いします!!


▼▼▼このアイコンが目印▼▼▼

挿絵(By みてみん)


サイトから閲覧している方は

▼▼もっと下に楽曲・noteリンクがあるよ▼▼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。