2-2 フーデリオン
【今回の見どころ】
無人のバイクに向かって叫んだ「ピックアップオン!」の音声承認。
一雄の全身を包んだのは、あまりにも自分の体型を強調しすぎた“ダサい鎧”だった……!
迫り来る黒い変態の猛攻、展開するデリバリーバッグの盾。そして敵が漏らした「あんたの喉、壊したら――」という不穏な言葉の意味とは!?
命がけのラストワンマイルの逃走劇が始まる!
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【2-2 本文】
「ピックアッープ!オン!!!」
叫んだ自分の声が、駐車場のアスファルトに跳ね返った。
情けない声だった。裏返っていた。三十八年生きてきて、これほど必死な声を出したのは初めてかもしれない、と一雄は思った。
一拍。
『声紋確認。及び、装着指示を受諾』
スクーターが、喋った。
ヘッドライトが光った。白ではない。シアンの、冷たい光。一雄は腕で顔を覆った。まぶたの裏まで青かった。
そして、音がした。
かしゃん、かしゃん、かしゃん。
薄目を開ける。スクーターが、崩れていた。カウルが割れ、フレームが分かれ、ステップが外れ、ミラーが折り畳まれる。壊れたのではない。分かれたのだ。あらかじめそこで分かれるように作られていた線に沿って、三十ほどの部品が宙に浮いていた。
それが、一斉にこちらへ飛んできた。
「うわ、うわ、うわっ」
避ける暇はなかった。避けようとした足に、脛当てが噛みついた。かちり。腿に装甲が回り込む。かちり。腰。かちり。左右の肩。かちり、かちり。
胸に、一番大きな部品が来た。銀色の曲面が、心臓の前で噛み合う。
息が詰まった。締めつけられているのではない。押し返されているのだ。自分の肋骨より外側に、もう一枚、硬い胸がある。
最後に、頭。
スイカ柄のヘルメットが、内側からせり上がるように締まった。そして、視界の上から黒いシールドが降りてきた。
しゅっ。
音は静かだった。世界が一段暗くなり、駐車場の白線が、輪郭だけくっきりと浮かび上がる。
『ボディアーマー装着完了。システム起動開始。生体認識、及び、システムオールグリーン』
『コードネーム:フーデリオン 起動完了』
静かになった。
一雄は、自分の両手を見た。
鈍い銀色だった。手の甲から前腕にかけて装甲が伸び、継ぎ目にシアンの線が走っている。悪くない、と思った。思ってから、指先に気づいた。
人差し指と親指だけ、装甲がない。素の指が出ている。
「……スマホ、触れるようにしてある」
そのとき、駐車場の脇の店のガラスに、自分が映っているのが見えた。
銀色の装甲。シアンの光。四角い背負い箱。そして。
首から上だけが、スイカヘルメットのままだった。赤い地に、緑の縞。その下半分を黒いシールドが覆っていて、そこだけが何の感情もない真っ黒だった。
「……ダサ」
思わず口に出た。命の危機の最中に出す感想ではない。だが正直な感想だった。肩の装甲は無駄に丸みを帯びていて、腹のあたりは曲面が前に突き出している。自分の体型を隠す気が一切ない設計だった。隠す気がないどころか、強調していた。
背中が重い。手を回すと、保温バッグがあった。配達に使っているあの四角いバッグが、そのまま背負われている。
「これ、要る?」
一雄が冷静さを取り戻した直後、黒い変態は目の前まで迫っていた。
そして突進の勢いを乗せた警棒の攻撃がきた。
「やばっ」
一雄は身構えることすらできなかった。伸びた警棒が、横から一雄の側頭部めがけて振り抜かれる。
ごぉん。
鐘が鳴ったような音がした。
痛くない。
首が持っていかれる感覚はあった。三歩よろけた。だが、痛くなかった。頭の中で音が反響しているだけで、皮膚も骨も、何も訴えてこない。
黒い変態が、動きを止めた。ヘルメットのシールド越しに、こちらを見ている。表情は見えない。だが、間違いなく困惑していた。
一雄も困惑していた。二人で困惑していた。
「……あの」
「くたばりなっ!!」
会話は成立しなかった。
黒い変態が、両手の警棒の尻を打ち合わせた。かちり、と噛み合う音。二本が繋がり、二メートルを超える一本の長い棒になった。
それを、槍のように構える。
まずい、と本能が言った。今のとは違う。今のは横薙ぎだった。次は、点で来る。
『一雄!! バッグだ!! 背中のバッグに手を回せ!!』
ヘルメットの中で、オヤッサンの声が割れた。
「はっ!?」
『いいから回せ!! 死ぬぞ!!』
考える時間はなかった。一雄は背中に手を回した。
バイクを降りて、背中に手を回して、バッグを外す。十年間、毎日やってきた動作だった。だから体のほうが先に動いた。
外れたバッグが、手の中で展開した。
四角い保温バッグが、一雄の身長ほどの盾になっていた。縁を、シアンの光が走った。
そこに、槍が突き刺さった。
衝撃が、腕から肩、背骨、そして踵へ抜けていった。一雄の足が、アスファルトを二十センチ削って後退する。
だが、止まった。
「止まった、止まった止まった止まっ――」
二撃目が来た。
盾の上端を叩き落とすような一撃。腕が下がる。その隙間に、三撃目が滑り込んだ。膝の裏。装甲の継ぎ目。
がくん、と片膝が落ちた。
「痛っ!!」
痛かった。さっきの側頭部は痛くなかったのに、ここは痛い。守られている場所と、そうでない場所がある。当たり前のことに、今になって気づいた。
黒い変態が、棒を短く持ち替えた。振り回すのではない。押さえ込む持ち方だった。
その動きを、一雄はどこかで見たことがあった。逃げる犬を追い詰めるときの、あの動きだ。
「あの、ちょっと、待っ」
「くたばりなっ」
「だから何なんですかそれは!!」
棒の先が、一雄の首の横に押し当てられた。冷たくもない、ただの金属。だが、そこが装甲の切れ目だということを、男は正確に知っていた。
「…………」
押し当てたまま、男が動きを止めた。
「……おっと。壊すなって、言われたんだった……」
独り言だった。一雄に言ったのではない。手順を間違えかけた作業員が、自分に言い聞かせるときの声だった。
初めて、叫び以外の声を聞いた。くぐもった、若い男の声だった。
そして男は、棒の先をわずかに浮かせてから、今度ははっきりとこちらに向けて言った。
「あんたの喉、壊したら俺が終わる」
一雄の背筋が、装甲の内側で冷たくなった。
意味は分からなかった。分からないのに、分かってしまった。この男は、自分を殺しに来たのではない。持って帰りに来たのだ。
『一雄!!』
耳元でオヤッサンが怒鳴った。
『そいつは倒せん!! 逃げろ!! 店まで走れ!!』
「無理!!」
『無理でも走れ!! 一・六キロだ!!』
一雄は、盾を横に振った。狙いも何もない、ただ腕を振っただけの動作だった。それでも身長ほどの板が唸れば、相手は下がる。
下がった。半歩だけ。
その半歩で、一雄は立ち上がって走り出していた。
背中で、男が舌打ちするのが聞こえた。
視界の右上に、青い枠が浮かび上がった。
見慣れた地図だった。配達アプリの、あの地図だ。赤いピンが立っている。現在地から、一本の青い線が伸びていた。
『目的地 モトショップ ウバ』
『距離 一・六キロメートル』
『到着予定 16:32』
「案内してる場合か!!」
『経路を再検索しました』
背後から、金属が地面を擦る音が近づいてくる。
一・六キロ。ラストワンマイル。配達で最後に残る、一番面倒で、一番金にならない距離。
それを、今日は自分が運ばれないために走る。
三十八歳、体重七十六キロ。装甲を着て、盾を担いで、桜の花びらの舞う歩道を、全力で。
似合っていなかった。心の底から、似合っていなかった。
【2-3へ続く】
第5話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第6話「2-3 ラストワンマイル」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
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