2-1 くたばりなっ!
【今回の見どころ】
無事に修理を終えた愛車と共に、配達業務へと復帰した一雄。
しかし、そんな彼の前に「iti」の名を知る謎のスーツ男が現れる。男が放った最凶の言葉と共に、一雄の日常は終わりを告げ――!?
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
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『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
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と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
その日の午後、一雄は配達に復帰した。
新しいカウルのバイクは、驚くほどよく走った。体重が減ったかのように軽く、コーナーで路面に吸いつく。雨上がりのマンホールの上を意識して通ってみたが、微塵も滑らなかった。
三件目のピックアップ。国道沿いのハンバーガーチェーンの駐車場にバイクを停め、ヘルメットを脱いだところで、影が差した。
見知らぬ男が立っていた。
四十代くらい。グレーのスーツ。ネクタイはきっちり締まっている。手ぶらだ。営業か何かだろうと思った。
「あんた、itiさんかい?」
「……え」
一雄は、聞き間違いかと思った。
「iti、さん?」
「あんただな」
「なんでそれ知ってるんですか」
誰にも言っていない。名刺にも書いていない。家族もいない。あれは、スマホの中にしかない三文字だ。
「じゃ、いいや」
男は、確認が済んだ、という動き方をした
一雄は、そのあとの言葉を、たしかに聞いた。
「――くたばりなっ!!」
空間が、歪んだ。
そう錯覚して、一雄は瞬きをした。まばたき一回。〇・一秒。
目を開けたとき、スーツの男はいなかった。
代わりに立っていたのは、全身黒タイツの変態だった。
頭部は黒いフルフェイスのヘルメット。シールドまで真っ黒で、目の位置がわからない。首から足首まで、継ぎ目のない黒い生地に覆われている。そして、その生地の下の筋肉が、はっきり見えた。大腿四頭筋の輪郭。広背筋の広がり。尋常な鍛え方ではない。
両手には、黒い棒が握られていた。握りの部分だけの、短い警棒。それが、振り上げられた瞬間に伸びた。
しゃっ、という金属の擦れる音がして、三十センチの棒が一メートルになった。
それが、振り上げられた。
「ちょっ!?」
一雄の口から出たのは、それだけだった。
警棒が、一雄の頭頂部めがけて振り下ろされる。
避けられない。一雄にはわかった。三十八年生きてきて、自分の身体の反応速度は知っている。避けられない。
ダメだ。死ぬ。
一雄は、目をつぶった。
薄くなってきた頭頂部。それを気にしていたことを、こんな時に思い出した。ヘルメットをかぶり直すたびに鏡を覗いたことを。誰にも注目されないのが嫌で、スイカ柄を選んだことを。
まだ、歌いたい曲があった。
――だが、黒い変態の武器は、一雄に当たらなかった。
爆音がした。
エンジンの、正確にはエンジン以外の何かも混じった、腹に響く爆音。風圧が一雄の頬を叩いた。
金属と肉がぶつかる、湿った鈍い音。
一雄が恐る恐る目を開けると、真横に自分のバイクがあった。
スタンドは立っていない。誰も乗っていない。無人のスクーターが、二輪で直立したまま、生き物のようにエンジン音を響かせていた。ヘッドライトが白く点いている。
十メートルほど先で、黒い変態が転がっていた。アスファルトに肘をつき、まさに立ち上がろうとしている。
一雄は、何が何だか理解できずにいた。
そのとき、バイクから声が聞こえた。
「一雄! 大丈夫か!」
ん? この声は?
「……オヤッサン?」
「オレだ。お前のバイクにちょっと細工をしておいた。無線で俺と話せるようになってる」
「オヤッサン……助かったよ。マジで死ぬと思った」
「喜んでる場合じゃないぞ。そいつは簡単にはくたばらん」
「えっ。オヤッサン、この変態知ってんの?」
「詳しい話は無事に帰ってからだ!」
黒い変態が、立ち上がった。首を左右に振る。折れた骨を戻すような動きだった。
「一雄、とにかく『ピックアップオン』と叫ぶんだ!」
「は? 何言ってんのオヤッサン」
変態が走り出した。速い。人間の走り方ではない。上体がまったく上下しない。
「ヤバい!! あいつが向かってきてるよ!」
「一雄! 俺を信じて早く叫べ!!」
「だぁー、もう分かったよ! もうなるようになれだ!!」
一雄は、無人のバイクに向かって、腹の底から叫んだ。
歌うときに使う、あの声で。
「ピックアッープ! オンッ!!!」
第4話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第5話「2-2 フーデリオン」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!
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