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4-13 最初の一歩

挿絵(By みてみん)


【前回の振り返り】


長引く座学と工場暮らしに、少しお疲れ気味の三人。


蓮の無茶振りをきっかけに、一雄が語り始めたのは、配達の待機中に膨らませていた「超能力」の妄想でした。


まさかの簡易ステージまで現れ、一雄が披露した一曲『僕の秘密』。


レンコンで未来を覗き、卵を握りつぶして時間を止める奇妙な歌に、工場は温かな笑い声で満たされます。


「僕の未来は、僕がつくるのさ」蓮がその言葉を口ずさみ、陸の疲れた表情も少しだけやわらいだ夜。


束の間の息抜きを経て、一雄は新たな一歩を踏み出そうとしています――。




【作品紹介】


本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。


本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。



【2作連動の仕掛け】


オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?


そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線

     ▼ ▼ ▼

『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』

     ▲ ▲ ▲

と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。



【主題歌】

YouTube・noteにて順次公開!


①オープニングテーマソング

FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」


②エンディングテーマソング

FoodFighter「流星」



作者が作詞しました。

ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!


(リンクは後書きの下にあります)

【4-13 本文】


五月十六日。


「今日から、少しだけ動いていいそうだ」


陸が、天井のスピーカーを見上げた。


『負傷から二週間が経過した。肩の可動域は改善している。ただし、急な動作は避けること。痛みが出た場合、直ちに中止すること』


「だそうだ。少しだけな」


陸は一雄を見た。


「分かってる。無理はしない」


「昨日も同じことを言ってたよね」


蓮が横から口を挟んだ。


「昨日は肩を使う予定なんてなかっただろ」


「じゃあ今日は、無理しないところを見せてもらおうかな」


「おう! よく見とけよ」


一雄は右肩をさすった。


「まず、腕を上げてみろ」


陸に促され、一雄はゆっくり右腕を持ち上げた。肩の高さには届かない。痛みが出る手前で、腕を下ろした。


「まだ右腕は使えなさそうだな」


「使わない前提でやる。今日は殴り合いの練習じゃない」


陸は天井を見上げた。


「爺。頼んであった訓練配置を頼む」


『了解した。収納棚を移動する。安全のため、訓練区域への立ち入りを禁止する』


工場の奥で、低い駆動音がした。


壁際に並んでいた収納棚が、車輪を回して動き出す。高さ三メートルほどの棚が何台も、床の表示に沿ってゆっくり進んでいく。


棚は工場の中央で止まり、互い違いに並んだ。まっすぐ見通せた空間が、折れ曲がった通路へ変わっていく。


棚の脚から、固定具が床へ降りた。


『配置完了。収納棚を固定した。訓練中、棚は移動しない』


「おお……」


一雄は、棚の向こうを見ようとした。だが、三メートルの棚が視界を遮り、奥はまったく見えない。


蓮が通路の入口を覗き込んだ。


「これ、迷ったら出られなくなりそう」


「迷わないように考える練習だ」


「簡単に言うなあ」


陸は一雄に向き直った。


「今日の目的は、蓮を見つけて、二人で出口まで戻ることだ。だが、俺に見つかって一緒に逃げるのが無理だと判断したら、蓮だけでも出口へ逃がせ」


「陸が敵役か」


「そうだ。蓮は棚の奥で待ってろ」


「了解」


蓮は通路の中へ入っていった。数歩進むと、棚の向こうに姿が隠れる。


陸も別の通路へ消えた。


一雄は、訓練区域の入口に立った。


「蓮、声は聞こえるか?」


「聞こえるよ」


「陸は?」


返事はなかった。


『訓練を開始する』


一雄は通路へ入った。


棚に挟まれた通路は、一人が通るのがやっとの幅だった。右へ曲がると、すぐに左へ折れている。その先も棚に遮られ、出口は見えない。


一雄は、角の手前で足を止めた。


そのとき、棚の向こうから足音が近づいてきた。


陸だ。


一雄は反射的に右腕を上げかけた。肩に力が入り、腕が動きかける。


痛みが走る前に、一雄は動きを止めた。


「止めろ!」


陸の声が響いた。


訓練が中断され、通路の照明が明るくなる。蓮がすぐに一雄のもとへ来た。


「肩、大丈夫?」


「痛みはない。ちょっとびっくりしただけだ」


陸が一雄の右腕を見た。


「腕を上げかけたな」


「分かってたんだけど、咄嗟に出た」


「実戦でも、身体は考えるより先に動く。だから、痛めている腕を使わない動きまで身体に覚えさせるんだ」


一雄は唇を噛んだ。


「もう一回やらせてくれ。今度は、腕を出さない」


陸は一雄の肩を確認してから、天井を見上げた。


「爺、肩の状態は?」


『動作確認時から変化はない。痛みが出た場合は、直ちに訓練を中止すること』


「分かった。痛みが出たら終わりだ」


陸は、再び自分の持ち場へ戻った。


照明が落ちる。


『訓練を再開する』


一雄は、今度は角の手前で立ち止まった。陸がいるかもしれない。正面から進めば、また出くわす。


「蓮。どこにいる?」


「奥の通路。右に曲がったところ」


「そこから動かないで。俺が行く」


一雄は角を覗き込まず、棚の端に沿って少しずつ進んだ。足音を聞き分けようと耳を澄ます。


通路の先で、金属が小さく鳴った。


陸が動いた音だ。


一雄は足を止めた。正面から行けば、陸が待ち構えている。ここで無理に進めば、また右腕を使ってしまうかもしれない。


一雄は足元に落ちていた空き缶を見つけた。


左足で軽く蹴る。


缶は通路を転がり、角の向こうで乾いた音を立てた。


陸の足音が、そちらへ動く。


「蓮、今だ。出口に向かって進んで」


「分かった!」


蓮の足音が遠ざかる。


一雄は、出口へ向かうために別の通路へ進もうとした。だが、陸はすぐに気づき、通路の先に立ちはだかった。


一雄は右腕を上げかけて、今度は動きを止めた。


逃げ道は後ろにある。蓮はもう出口へ向かっている。自分が陸を倒す必要はない。


一雄は一歩下がった。


「蓮は?」


「出口に着いたよ」


『訓練終了』


照明が戻った。


「成功か?」


一雄が尋ねた。


「二人で出口まで戻るのが目標だった。そこはできなかった」


陸は、蓮を見た。


「でも、蓮を出口まで逃がせた。最低限の目標は達成だ。半分だな」


「最後、俺は捕まったけど」


「勝手に捕まったことにしないでよ。ちゃんと逃げ切ったじゃん」


蓮が言った。


「一緒には戻れなかっただろ」


「でも、さっきよりはよかったよ。陸を見た瞬間に腕を上げかけたけど、自分で止めた」


「痛みが出る前に止められた。そこは進歩だ」


陸は空き缶を拾って、作業台に置いた。


「通路は毎回変える。俺の位置も変える。同じやり方が毎回通用すると思うな」


陸が天井を見上げた。


「配置を変えてくれ」


『収納棚の固定を解除する』


固定具が床から上がり、収納棚がゆっくりと動き出した。棚の列が入れ替わり、さっきとは違う通路ができていく。


蓮が新しい通路を見た。


「次は、さっきと全然違うね」


「同じ迷路を覚えても意味がないからな」


一雄は、今度は入口から通路を見渡した。棚が作る角の数を数え、出口の方向を確認する。


「準備できた」


訓練は、棚の配置を変えながら続いた。


一雄は、蓮と一緒に出口へ向かうことを何度か試した。陸に行く手を塞がれ、蓮を先に逃がすことになった回もあれば、二人で出口まで戻れた回もあった。


うまくいかなかったときは、陸がどこで判断を誤ったのかを聞いた。


「出口を探すのに夢中で、蓮の位置を見失った」


「俺の足音を聞いて、隠れることに気を取られた」


「蓮に先に行けと言うのが遅かった」


陸は一つずつ、次に試すことを確認した。


やがて、天井から声がした。


『訓練時間が終了した。肩の状態に変化はない』


「今日はここまでだ。肩を休ませろ」


「もう一回くらいなら――」


「今日はここまで」


「……はい」


蓮が笑った。


「陸、ほんとに厳しい先輩だね」


「かっこいい先輩、だろ」


「自分で言うんだ」


「じゃあ、俺はかっこいい後輩だな」


「それは違う」


陸と蓮の声が、ぴったり重なった。


三人の笑い声が、工場に響いた。


一雄は右腕をかばいながら、訓練区域の外へ出た。


一人で敵を倒すための練習ではなかった。


誰かを逃がし、自分も次の判断ができる場所へ行く。


そのための一歩を、一雄はようやく踏み出した。



【4-14へ続く】

ep.24 4-13「最初の一歩」をお読みいただき、ありがとうございました!


作業台の上の雪だるまに代わり、いよいよ一雄自身が訓練の場へ!


収納棚で作られた迷路で求められたのは、敵役の陸を倒すことではなく、蓮を見つけ、一緒に出口へ戻ることでした。


頭では分かっていても、とっさに動いてしまう右腕。

それでも一雄は、空き缶で注意をそらし、退くことを選び、少しずつ学んだことを自分の動きに変えていきます。


誰かを逃がし、自分も次の判断ができる場所へ行く。

派手な必殺技ではないけれど、誰かを守るために欠かせない「最初の一歩」を踏み出した回でした。


最後にぴったり重なった陸と蓮のツッコミにも、三人の距離の近さが感じられます。



【次回 ep.25 4-14「手がかり」明日18:00公開予定!】


次なる訓練は、居場所の分からない蓮の捜索!分かっているのは「工場の奥側にいる」ということだけ。


声をかけることもできず、さらに制限時間まで設けられ、一雄はわずかな手がかりを頼りに迷路へ踏み込みます。


どこから探すか。どの道を戻るか。そして、陸に行く手を塞がれたらどうするか。


「見つける」だけでは、まだ終わらない。考えなければならないのに、迷い続ける時間はない。


一雄は限られた情報の中で、二人で帰るための道を選べるのか――。


明日も18:00にお届けします!




【作者からのお願い m(_ _;)m】


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【主題歌のお知らせ!!】

作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲

YouTube・noteで順次公開中!


オープニングテーマソング

『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』


エンディングテーマソング

『流星』


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