4-12 僕の秘密
【前回の振り返り】
赤いボタンと雪だるまを使った座学で、「考えて、動く」ことを学び続ける一雄。
笑いも交えながら訓練を重ねる日々の中、その夜、一雄は陸の思いがけない姿を目撃します。
半分照明の落ちた工場の奥で、顔を伏せ、小さく肩を震わせる陸。
名前を呼びかけた一雄を止めたのは、蓮の「言わないであげて」という静かな言葉でした。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①オープニングテーマソング
FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
②エンディングテーマソング
FoodFighter「流星」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-12 本文】
五月十五日。
「もう無理。こんなに頭使ったの、久しぶりだよ」
蓮は作業台に突っ伏した。
赤いボタンと雪だるまは、今日も敵と一雄の代わりに戦っている。いや、正確には、陸が二人を戦わせていた。
「さすがに、外に出られないのも一週間を超えるとキツいな」
陸が部品を片づけながら言った。
「一週間どころじゃないだろ。ここに来てから、ずっと工場の中だぞ」
一雄は右肩をかばいながら、椅子の背にもたれた。
肩は少しずつ動くようになってきたが、無理をすればまだ痛む。陸からは、治るまでは動かすなと言われていた。
「一雄。なんか面白い話でもしてよ」
「うわっ。無茶振りだな」
「いいね。俺も聞きたい」
陸まで乗ってきた。
一雄は二人の顔を見比べた。
「……そうだな。俺の仕事がフードデリバリーだってことは知ってるだろ」
「知ってるよ」
蓮が、作業台に頬をつけたまま答えた。
「で、この仕事は注文が入らないと暇なんだよ。だから外でバイクに乗って待機する。業界用語で『地蔵』って言うんだ」
「地蔵?」
蓮が顔を上げた。
「そう。地蔵。注文の多いエリアで、ただじーっと待つんだよ。地蔵みたいに、じーっと」
一雄はそのときのことを思い出し、渋い顔をした。
「地蔵してるあいだは暇だから、歌の歌詞を考えて時間を潰してることが多いね。頭の中に物語を作って、それを歌詞にしていく感じ」
「へえ。プロみたいだな」
「プロを目指してるんだよ。まあ、格好よく言ったけど、簡単に言えば、めっちゃ妄想してるだけ」
「妄想の内容は?」
「それがさ。妄想の中では、俺はついに超能力に目覚めちゃうんだよ!」
蓮が吹き出した。
「いやいや、妄想しすぎでしょ」
「いいだろ。夢を見るのは自由だ」
「それで、その超能力で世界を救うの?」
陸が尋ねた。
「フッフッフ。知りたくなってきたね」
「おいおい。もったいぶるなよ」
「そうだー! もったいぶるな、デブー!」
「デブは関係ないだろ! 太ってねーし!」
三人で笑った。
こんなやり取りが、一雄にはとても新鮮に感じられた。
「気分転換に、その歌を披露しちゃおうかな」
「歌うの?」
「せっかくだからな。オヤッサン、ギターってある?」
『ギターもある。簡単な音響設備も用意できる』
一雄が天井を見上げた。
「あるんだ……」
工場の奥で、低い駆動音がした。
壁の一部がゆっくりと横へ動き、簡易ステージが姿を現す。照明まで点いた。
一雄はしばらく口を開けたまま、それを見ていた。
「爺さん、わかってるね!」
陸が楽しそうに手を叩く。
「一雄、歌いなよ」
「ここまで出されたら、やるしかないか」
一雄はギターを手に取り、右肩に負担をかけないよう椅子に腰かけた。軽く弦を鳴らして、音を確かめる。
「よし。指は動く。肩も、この姿勢なら大丈夫そうだ」
「それじゃあ聴いてください。『僕の秘密』」
一雄はギターを弾き始めた。
レンコンの穴を覗けば、見えるはずのない未来が見える。
卵を握りつぶせば、止まるはずのない時間が止まる。
そんな、役に立つのか立たないのか分からない力を並べながら、歌は少しずつ前へ進んでいく。
最後は、超能力を持っていても、持っていなくても、今日も何かを運んでいく――そんな歌だった。
歌い終わると、工場は静かになった。
「……変な歌だった?」
一雄が、ギターを抱えたまま尋ねた。
「変だけど、いい歌だった」
蓮はそう言うと、とうとう我慢しきれずに大笑いした。
「レンコンって。それに、卵を潰すたびに手がベトベトじゃん!」
笑いすぎて、目尻に涙がにじんでいる。
「でも、超能力があっても配達するんだね」
「そこが大事なんだよ」
「そこが?」
「そう。結局、自分の仕事に戻ってくるところが」
陸は、作業台に置かれた雪だるまを指でつついた。
「未来を見る力があっても、目の前の道を走るんだな」
「まあ、そんな感じ」
一雄は照れくさそうに笑った。
「僕の未来は、僕がつくるのさ」
歌の最後の言葉を、蓮が小さく口ずさんだ。
陸は何も言わなかった。ただ、さっきまでの疲れた顔が、少しだけやわらいでいた。
「もう一曲」
蓮が言った。
「えっ、まだやるの?」
「気分転換なんでしょ」
「そうだけどさ」
「じゃあ、次は私たちも歌えるやつ」
一雄はギターの弦を軽く鳴らした。
「リクエストは?」
「明るいやつ」
陸が答えた。
「注文がざっくりだな」
一雄は笑いながら、次の曲を探した。
【4-13へ続く】
ep.23 4-12「僕の秘密」をお読みいただき、ありがとうございました!
蓮の無茶振りから始まった息抜きは、まさかの工場ライブへ!
レンコンで未来を覗き、卵を握りつぶして時間を止める。
一雄のとんでもない妄想に、蓮もとうとう涙が出るほど笑ってしまいました。けれど、超能力があっても、なくても、今日も自分の仕事に戻ってくる。
そんな一雄らしい歌が、三人の疲れた心をそっとほぐしてくれた回でした。
「僕の未来は、僕がつくるのさ」蓮が口ずさんだその言葉と、少しだけやわらいだ陸の表情。
戦いの合間に響く歌声と笑い声を、大切にしたくなります。
【次回 ep.24 4-13「最初の一歩」明日18:00公開予定!】
座学と束の間の息抜きを経て、いよいよ一雄の身体を使った訓練が始まります!
工場の収納棚が動き出し、目の前に現れたのは、先の見えない迷路のような通路。
課された目標は、敵役の陸を倒すことではなく、奥にいる蓮を見つけ、二人で出口へ戻ることでした。
けれど、頭では分かっていても、とっさに動いてしまう右腕。
まだ癒えきらない肩を抱え、一雄はどうやって道を切り開くのか――。
誰かを守り、自分も生き延びるために。
作業台の上で学んだことが、今、一雄自身の「最初の一歩」へと変わります。明日も18:00にお届けします!
【作者からのお願い m(_ _;)m】
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲
YouTube・noteで順次公開中!
オープニングテーマソング
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』
エンディングテーマソング
『流星』
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