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4-10 勝つための条件

挿絵(By みてみん)


【前回の振り返り】


ついに明かされた、オヤッサンの喉の傷の真実。


かつて「ブースト4倍」という命を削る禁忌の力を使用した一雄。


その凄絶な過去を知った陸は、大川に完敗し右肩を負傷した一雄を前に、静かに作業台へと向かう。


敗北の痛みを抱える一雄に、陸が突きつける「勝つための条件」とは――。




【作品紹介】


本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。


本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。



【2作連動の仕掛け】


オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?


そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線

     ▼ ▼ ▼

『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』

     ▲ ▲ ▲

と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。



【主題歌】

YouTube・noteにて順次公開!


①オープニングテーマソング

FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」


②エンディングテーマソング

FoodFighter「流星」



作者が作詞しました。

ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!


(リンクは後書きの下にあります)

【4-10 本文】


五月五日。


工場の作業台に、部品が並んでいた。


ネジ、金属片、使い古した工具。それに、蓮がどこからか持ってきた赤いボタンが一つ。


「それ、何に使うんだ」


一雄が訊くと、蓮はボタンを指で弾いた。


「敵」


「敵って、ずいぶん小さいな」


「用意してあげてるんだから、文句言わない」


「そりゃそうだ。ごめんよ」


一雄は苦笑した。右肩を庇って、左手だけで部品を並べる。まだ腕を動かすと痛む。陸からは、肩が治るまで無理に動かすなと言われていた。


「でもね。イメージしやすいように爺からパテもらってコレを作っておいたのだ」


蓮がポケットからパテで作られた、白い球体を重ねた雪だるまのような、5cmほどの模型を作業台に置いた。


「何この雪だるま?こんな太った敵いたっけ?」


一雄は顎に手を当てながら考えるふりをした。


「…お前だ。デブ」


蓮の冷めた視線を感じる。それでも一雄は

キョロキョロ周りを見ながら


「デブ? ん~。どこにデブが?」


蓮が一雄を耳をつねりながら


「一雄。いい度胸してんじゃん」


「いててて!ごめんなさい。デブは俺です!」


「分かればよしw 陸、用意出来たよ」


陸が奥の作業場から出てきた。

蓮のアーマー製作作業状況をみていたようだ。


「今日は何をするんだ」


「この間の戦いを、もう一度考える」


陸が作業台の向こう側に立っていた。


「しばらく実戦はなしだ。肩が治ってない」


「分かってる」


「それでも、何が起きたかを整理することはできる」


陸は赤いボタンを、作業台の端に置いた。


「これが大川。こっちはお前」


陸が雪だるまを、一雄の前に置く。


「……俺、こんなに太ってないんだけどな」


「いや。太ってる」


蓮が笑った。


陸は、作業台の上に工具を二本置いた。


「こっちが店の入口。こっちが、お前のスクーター。壊れた壁は……」


「そこだ。入口から入って、右に崩れた壁があって」


一雄は左手で、別の金属片を置いた。


「オヤッサンは、あっちにいた」


一雄は、赤いボタンの近くに、曲がったネジを置いた。


置いた指が止まった。


「それこら俺は、ここから走ってきた」


一雄が入り口付近に雪だるまを置いた。


「走って、大川に向かった」


「ああ」


「何をしようとした」


一雄は答えられなかった。


「殴ろうとしたのか」


「……そうだと思う」


「勝てると思ったのか」


「思ってなかった。だからブーストを使った。オレの最大1.4倍なら何とかなると思った。」


「それでも結果は?」


陸の声は責めているようではなかった。答えを待っている声だった。


一雄は、作業台の上を見た。


「オヤッサンを助けたかった」


「オヤッサンは、逃げろと言った」


「聞こえてた」


「それでも走った」


「……うん」


「で、大川に殴りかかった」


一雄は、うつむいた。


「殴れなかった」


「お前が弱いからじゃない。相手との力の差を見ずに、正面から行ったからだ」


「それでも、何もしないよりは」


「何もしないのと、意味のないことをするのは違う」


陸は赤いボタンを指で押した。


「お前は大川に近づいた。大川は、お前を一発で倒した。オヤッサンは助からなかった」


作業台の上から、音が消えた。


蓮が、金属片を置き直した。


「陸も、十人に囲まれてたんだよね」


「そうだ。俺はあの状況での最悪を回避するための行動に切り替えた」


「最悪?」


「悔しいけがオヤッサンは助けられなかった。そして最悪は一雄を失うこと」


陸の視線が一雄に向けられる。


「……悪かった」


一雄は二人を見た。


「謝ることじゃない」


陸は言った。


「戦場じゃ、一人の判断で全員が危なくなる。だから、次に何をするかを決めておく」


陸は作業台の上の工具を動かした。


「大川がいる。回収員がいる。崩れた店がある。お前はどこへ行く」


「オヤッサンのところ……じゃなくて」


一雄は言葉を切った。


さっきまでなら、同じ答えを繰り返していた。


「回収員が何人いるか確認する。逃げ道を探す。近くに人がいたら、まず遠ざける」


陸は頷かなかった。否定もしなかった。


「そのあと?」


「大川に勝てないなら、正面からぶつからない。少しでも隙を作って、誰かを逃がす。あるいは、自分が逃げる」


「それでいい」


一雄は、赤いボタンを見た。


「逃げるのが、正解なんですか」


「勝てない相手に、勝てないまま突っ込むよりはな」


「でも、それで助けられない人がいたら」


陸は、すぐには答えなかった。


作業台の上の配置を、じっと見ていた。


「それは、俺にも分からない」


一雄は顔を上げた。


「分からないんですか」


「分からないことを、分かったふりはできない」


陸は工具を一本、赤いボタンの横へ置いた。


「だが、ひとつだけ確かなことがある。死んだら、次の判断はできない」


蓮は何も言わなかった。


一雄は、作業台の上の雪だるまを拾い上げた。自分の印だった雪だるまだ。手のひらで転がす。


「オヤッサンは、戦うな、逃げろって言ってた」


「そうだな」


「俺は、あの人の言うことを聞けなかった」


「聞けなかったことを、今さら変えることはできない」


陸は力を込めて拳を握った。


「次に同じことが起きたとき、何をするかを考えろ」


一雄は手の中の雪だるまを見つめた。


「次は、まず逃げ道を探す」


「それから」


「人がいたら、巻き込まない場所へ誘導する。戦うなら、勝つためじゃなくて、時間を作るために戦う」


「よし」


陸が初めて頷いた。


「身体が治るまでは、その考え方を覚えろ。肩が治ったら、動きは後からやる」


「分かった」


「今日はここまでだ」


「もう?」


「肩を使うなと言ったのは俺じゃない」


一雄は、右肩をそっと押さえた。


「オヤッサンだな」


『聞こえている』


天井から声がした。


蓮が笑った。


「爺、ずっと聞いてたの?」


『工場内の会話は記録されている』


「やだなぁ。秘密の話も全部?」


『必要な情報は保存する』


「その言い方がもう怖いんだって」


蓮は肩をすくめ、赤いボタンを作業台の端からどけた。


陸は工具を片付け始めていた。一雄も左手でネジを拾い、箱に戻す。


肩はまだ痛かった。


でも、何を考えればいいのかは、少しだけ分かった気がした。


勝てるかどうかだけを考えるんじゃない。


次に動ける自分を、残すこと。


一雄は、最後の雪だるまを箱に入れた。




【4-11へ続く】

ep.21 4-10「勝つための条件」をお読みいただき、ありがとうございました!


大川に完敗し、オヤッサンを失った現実。

作業台の上の小さくて不格好な「雪だるま」を動かしながら、一雄が味わった圧倒的な無力感と悔しさは、どれほどだったでしょうか。


「死んだら次の判断はできない」という陸の冷徹で、だけど絶対に一雄を死なせないという強い意志。


そして、空気を重くしないためにあえて一雄を「デブ」とからかう蓮の優しさが、胸に痛いほど刺さる回でした。天井からのオヤッサンの声が、今も彼らを繋いでいます。



【次回 ep.22 4-11「言わないで」明日18:00公開予定!】


昼間の厳しい座学が終わり、半分照明の落ちた夜の工場。


一雄は、偶然にも「見てはいけないもの」を目撃してしまう――。


その瞬間、静かに一雄の袖を引き、冷たい暗闇の中で首を振った蓮。


彼女が口にしたタイトル回収の言葉「言わないで」の真意とは……!?


いつもと同じように見える背中の裏で、それぞれが抱える見えない傷。


張り詰めた空気の中、3人の絆がさらに深く、切なく交錯する神回です。

明日18:00、その張り詰めたドラマの瞬間を絶対にお見逃しなく!




【作者からのお願い m(_ _;)m】


「おもしろい!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、

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【主題歌のお知らせ!!】

作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲

YouTube・noteで順次公開中!


オープニングテーマソング

『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』


エンディングテーマソング

『流星』


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挿絵(By みてみん)


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