4-9 喉の嘘
【前回の振り返り】
地下30メートルの秘密工場で、医療用アームによる右肩の治療を無事に終えた一雄。
陸を追って未来からやってきたエージェント・蓮の新しいアーマー『ピンクパンダ』の開発が最優先で開始される中、一雄はアパートからオヤッサンの灰が入った黒いバッグを運び出し、一輪の薔薇の横へと静かに並べる。
それぞれの想いを抱えたまま、秘密基地の夜が明けていき――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①オープニングテーマソング
FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
②エンディングテーマソング
FoodFighter「流星」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-9 本文】
五月四日。
工場には、朝が来たのか昼が来たのか分からなかった。
窓がない。天井の照明は、時間が過ぎても同じ明るさのままだ。スマホの時計だけが、外の世界とつながっていた。
一雄は作業台の前に座っていた。右肩は昨日より少し楽になった。それでも腕を上げようとすると、付け根の奥で痛みが走る。
『肩を動かすな』
天井から声がした。
「動かしてませんよ」
『今、動かそうとした』
「……見てるんですか」
『見えている』
一雄は右腕を膝に戻した。
作業台の上には、部品がいくつか並んでいる。陸がそれらを動かしながら、工場の床に引いた白線の図に印をつけていた。柱や通路、作業台の位置を写した簡単な見取り図だった。
「肩が治るまでは、こういうので覚えろ」
陸が言った。
「敵を見つけたら、まず距離を取る。逃げる先を決める。建物の中なら出口を二つ探す。行き止まりに入るな」
「はい」
「それから、人がいる場所では戦わない。相手が人目を避けるなら、こっちも人を巻き込まない場所へ誘導する。勝つためじゃない。戦う時間を短くするためだ」
陸は部品を一つ動かし、地図の上に二つの経路を作った。
「お前は配達で道を覚えてる。地図に出ない抜け道も知ってる。それは武器になる。ただ、知ってる道に頼りすぎるな。塞がれてたら終わりだ」
「確かに」
「私にも教えてよ。私もアーマー着るんだから」
蓮が、作業台に肘をついた。
「そうだったな。蓮も一緒に聞いとけ」
陸は部品を置いた。蓮は身を乗り出して、地図を覗き込んだ。
一雄は、その様子を眺めていた。話は聞いている。だが、意識がときどき途切れてしまう。部品の影を見ていると、作業台の向こうに首のタオルが見える気がした。
「一雄、元気ないね。もう少し休む?」
蓮が訊いた。
「いや、十分寝たよ。オヤッサンのことを思い出しちゃってさ」
陸は部品を置いた。
「人の死を簡単に受け入れろとは言わない。その人のことを、たくさん思い出してやれ」
「そうだよ」
蓮が言った。
「私たちは少し、人の死を経験しすぎたから。顔には出さないけどさ」
一雄は二人を見た。
「二人にオヤッサンのことを教えてもらいたい。俺、よく考えたら、あの人のことをあまり知らないんだよね」
「あたしも爺とは、そんなに接点ないから。陸の出番だね」
「俺が教えられることなら、何でも聞きな」
陸はそう言って、もう一度地図に向き直った。
一雄は少し迷った。
「そうだ。一つ、気になることがあるんだけど」
「何だ」
「俺たち、アーマーを纏うときに『ピックアップ オン』って言うだろ。あれを叫び続けたら喉が潰れるって、オヤッサンから言われたんだ」
陸の手が止まった。
蓮が顔を上げる。
「えっ。そうなの?」
「……オヤッサンの嘘だよ」
一雄と蓮が、同時に陸を見た。
「嘘?」
「叫びすぎたから喉を潰した。そういう話じゃない」
陸は、作業台の地図から手を離した。
「オヤッサンは、ブーストを使ったんだ」
「ブーストを?」
「ああ。四倍」
「四倍……。俺には一・四倍で足りるって言ったのに」
「お前には、ああ言うしかなかったんだろ」
陸は、見取り図の上に置いた部品を指で押さえた。
「ブーストは鎧だけじゃない。中にいる人間の力も、目の処理も、全部が上がる。だけど、身体が出力についていけるわけじゃない。四倍なら、血管が破れる。喉も潰れる。心臓だってもたない」
「そんなの、使ったら死ぬじゃないか」
「死ぬはずだった」
陸の声が、ほんの少しだけ低くなった。
「でも、あの人は生き残った」
蓮は、何も言わなかった。
一雄は陸を見た。
「何のために、そんなことをしたんですか」
陸は答えなかった。
作業台の上で、部品が一つ、わずかに傾いていた。陸はそれを直さなかった。
「助けたい人がいた」
しばらくして、陸は言った。
「それだけは言える」
「その人は……」
「それ以上は、俺の口から話すことじゃない」
一雄は、もう一度訊こうとして、やめた。
陸の顔に、答えないと決めた人間の表情があった。オヤッサンと、よく似ていた。
「叫びすぎたっていうのも、嘘なんですか」
「嘘じゃねえ。あの人は、実際に叫んだ」
陸は、地図の部品を指先で押した。
「ただ、叫んだから喉を潰したんじゃない。叫ばずにいられない場所にいたんだ」
一雄は、何も言えなかった。
蓮が、静かに息を吐いた。
「陸。続きは?」
「今日はここまでだ」
陸は部品を集め始めた。
「その人の話は、俺が勝手にしていい話じゃない」
一雄は作業台の端を見た。空き缶に挿した薔薇がある。その隣に、保温バッグが置かれていた。
あの人は何を見て、何を諦めて、何を諦められなかったのだろう。
その答えを知る人は、もう目の前にはいなかった。
『陸』
天井から、オヤッサンの声がした。
陸の指が止まった。
『その部品は左側だ』
陸は手元を見た。部品を置く位置が逆だった。
「……分かってるよ」
陸は部品を正しい場所へ戻した。
【4-10へ続く】
第20話 をお読みいただきありがとうございました!
オヤッサンの喉に隠された、あまりにも切なすぎる嘘の真実。
これからの第四章の激動の新展開も、ぜひお楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲
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オープニングテーマソング
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』
エンディングテーマソング
『流星』
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