4-8 お届け先
【前回の振り返り】
真鍮の鍵で開かれた海岸沿いの廃墟。机の下から現れた昇降床で地下30メートルへと降り立った一雄たちの前に広がっていたのは、十年分の失敗作の鎧が並ぶ巨大な秘密工場だった。
そして天井のスピーカーから響き渡る、オヤッサンの記憶とデータを引き継いだ自動応答AI「爺」の声。
大川新太郎の脅威が迫る中、未来から来たエージェント・蓮の新しいアーマーの製造が最優先で開始される――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①オープニングテーマソング
FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
②エンディングテーマソング
FoodFighter「流星」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-8 本文】
奥の壁際に、白い台が一つあった。
病院のベッドに似ていたが、ベッドではなかった。枕の位置に金属のアームが二本ついていて、一雄が近づくと勝手に動いた。
『座れ』
「……これ、何ですか」
『座れ』
一雄は座った。アームが肩のところまで伸びてきて、服の上で止まった。
『上を脱げ』
「いや、人がいるんで」
『誰だ』
「陸が」
陸が後ろで手を振った。
「気にすんなよ」
一雄は左手でシャツを脱いだ。右肩の付け根が、紫色になっていた。肘から先はただの重りだった。
アームの先が肩に触れた。冷たかった。
『外れてる』
「外れてるって」
『関節だ。あとは腫れてるだけだ。神経は切れてない』
「切れてたら」
『切れてたら、もう動かん』
一雄は、黙った。
『声出しても構わん。ここは誰にも聞こえん』
「え」
アームが動いた。
一雄の悲鳴が天井まで届いて、戻ってこなかった。
十分後、一雄は台の端に座って肩を回していた。動いた。痛いが動いた。
「すごいな、これ」
『ただの整復だ。二週間は無理をするな』
「二週間も休めませんよ」
『休めとは言ってない。無理をするなと言った』
陸が笑った。
「爺さんと同じこと言うな」
『同じ奴だからな』
一雄が顔を上げた。
「さっき、違うって言ったじゃないですか」
『言った』
「どっちなんですか」
答えはなかった。
一雄はシャツを着た。袖を通すのに、少し手間取った。
陸が壁にもたれて部品棚を見上げていた。棚は天井まであって、同じ形の箱が番号順に並んでいた。
「十年分だぞ、これ」
「うん」
「俺が一緒に組んだのは、最後の一か月だけだ」
陸が棚から目を離さずに言った。
「九年と十一か月、爺さんはここに一人で降りてたんだよな」
一雄は、答えなかった。
奥の扉が開いた。
蓮が出てきた。妙に機嫌が良かった。
「決まった!」
「ん?何が」
「あたしのアーマーの名前に決まってんじゃん」
蓮は作業台の前まで来て、両手を腰に当てた。
「どうしようかな。知りたい人は?」
蓮がニヤニヤと見てくる。
「いや。あとでどうせ分かるし」
一雄がボソッと言うと、蓮に蹴られた。
「知りたい人は!?」
「はい!気になります」
一雄はビシッと手を挙げて質問した。
「そうだろ。そうだろ。では教えてあげよう」
「あたしのアーマーはピンクパンダ!!」
一雄が、動きを止めた。
「……ピンク、パンダ」
「そう!めっちゃかわいいでしょ」
「えーと、ピンクとパンダ…」
「何っ。文句あんの」
一雄は陸を見た。陸は天井を見ていた。
「陸、何か言ってやれよ」
「蓮が決めたことだ」
「それはそうだけど」
「それに、昨日まで黒い服着て黒いヘルメット被って、黒い棒持って路地に立ってたんだぞ」
陸が蓮のほうを顎で示した。
「好きな色くらい着せてやれよ」
蓮が、一瞬だけ黙った。
「……あれは。好きで着てたわけじゃないし」
『色の指定と要望の打ち合わせは終わった。車両を決め設計を始める』
「車両?」
一雄が天井を見上げた。
『鎧は車両から展開させる。お前のと同じ構造だ。移動と戦闘が出来る』
「じゃあ、スクーターも作るんですか」
『今回は時間が限られる。ちょうどお前のフーデリオンアーマーの1つ前、プロトタイプが使える。コレを流用する。』
「たしかに大川達がいつ来るか分からないからな。早いほうが助かる」
陸が上に向かって話す。
『これから最優先で取りかかる』
「爺!急ぐのはいいけど、ちゃんと耳もつけてね」
「耳?」
「ミラーのとこ。パンダの耳」
一雄は何か言おうとしたが、陸が耳打ちしてきた
「…一雄。余計な事は言うなよ。蓮は見た目と違って可愛い物が大好きなんだ。特にピンクとパンダ。覚えとけよ」
「何ヒソヒソ話してんの」
蓮が拳をボキボキ鳴らしながら近づいてきた。
「いや。めちゃくちゃ可愛いよな。真似したくなっちゃうよって」
「そうなんだよ!パンダかわいいよね」
蓮が笑った。初めて、まともに笑った顔を見た気がした。
一雄は作業台の端を見た。
コーヒーの缶に挿した薔薇をみて、何かを思い出した。
「あっ。バッグ」
陸が振り返った。
「ん?」
「アパートに置いてきた。押し入れの下に」
部屋が静かになった。
「俺が行ってくる」
陸がジャケットを取った。
「いや」
一雄が立ち上がった。
「俺が行く」
「右肩、二週間無理するなって言われたばっかだろ」
「運ぶのは俺の仕事なんだよ」
陸が、少し一雄を見てから蓮に視線を移した。
「蓮、俺は爺さんに聞きながら、ココの中をみたいから一雄について行ってくれ」
「ん。分かった。一雄行くよー」
アパートまで、蓮が一雄のスクーターを出した。一雄は後ろに乗った。
押し入れを開けると、保温バッグは昨日置いた向きのままだった。
この中には灰と作業着が入っている。
一雄は左手でストラップを掴んで、背負った。
軽かった。
十年、この背中に鍋を入れて、丼を入れて、ピザを入れて、こぼさないように走ってきた。でも、この重さは今まで一度も背負ったことがなかった。
帰りも一雄は後ろに乗った。バッグを背負ったまま。
カーブで一度、体が傾いた。一雄は左手でバッグを押さえた。
「落とさないでよ」
「落とすかよ」
工場に戻って、一雄はバッグを床に下ろした。
それから、少し立っていた。
「……あの」
天井に向かって言った。
「これ、どこに置けばいいですか」
返事がなかった。
モニターの光だけが、奥で動いていた。
「オヤッサン」
『……』
「聞こえてますよね」
『聞こえてる』
「じゃあコレはどこに」
『お前の好きにしろ。ココはもうお前の物だ。奥にある部屋も自由に使え。』
一雄は、しばらく考えていた。
それから、バッグを持ち上げた。
作業台まで歩いて、薔薇の挿してある缶の横に、そっと置いた。並べて置いた。
「ここでいいや」
誰も、何も言わなかった。
奥にいくつか部屋はあったが、皆何も言わず一か所に集まって寝る準備をした。
陸が奥から毛布を三枚持ってきた。蓮が作業台の上に座ってスマホをいじっていた。
「時代が違うとスマホもこんなに違うんだね」
「おーい。そろそろ消すぞ」
照明が一列ずつ落ちていって、工場が暗くなった。
一雄は、床に敷いた毛布の上で天井を見ていた。
なんとなく配達アプリをオンにしてみた。スマホが震えた。
近くで三件、依頼が出ていた。
一雄は画面を消した。
明日からどうするか、何も決まっていなかった。右肩は二週間動かせない。アカウントは一つ死んだ。オヤッサンはいない。
それでも腹は減るし、朝は来る。
とにかく寝よう。色々あり過ぎて頭も体もクタクタだ。
一雄は目を閉じた。
【4-9へ続く】
第19話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18:00頃更新予定】
第20話 現在大急ぎで執筆中ですm(_ _;)m
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲
YouTube・noteで順次公開中!
オープニングテーマソング
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』
エンディングテーマソング
『流星』
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