4-7 自動応答
【前回の振り返り】
瓦礫の山となった「モトショップ ウバ」の跡地で、一雄は駅前の花屋の婆さんから、オヤッサンが30年間毎日『一輪の薔薇』を買い続けていた切なすぎる因縁を告げられる。
託された真鍮の鍵とチラシの裏の「二行の座標」を頼りに、一雄たちは海岸沿いの廃墟の小屋へと辿り着き、新しく油の差された南京錠に鍵を差し込む――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①オープニングテーマソング
FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
②エンディングテーマソング
FoodFighter「流星」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-7 本文】
ドアは、思ったより軽く開いた。
中は薄暗く、板で塞いだ窓の隙間から、細い光が斜めに入っていた。
部屋の中に入ると埃の匂いがした。
四畳ほどの部屋だった。木の机が一つ、パイプ椅子が一つ。壁に、去年のカレンダーが掛かっていた。
陸が入ってきて、部屋を見渡した。
「しばらく使ってないようだな」
「うん。そんな感じだな」
一雄は、何かないかとスマホのライトを点けた。
蓮が床を靴の先で叩きながら歩いていた。木の床が鳴って、途中で、鳴り方が変わった。
「ここだけ、音が違うよ」
「えっ。ホントに?」
一雄がライトで机の下を照らした。
蓮がしゃがんで、机の下を点検していた。
突然 バキッバキッと外から音がする。
同時に薄暗かった部屋に光が入る。
「暗くて見えねーから、窓の板を外してきた」
パンっパンっと手をはたきながら、陸がドアから入ってきた。
改めて皆で机の下を点検すると
床に四角くホコリがないのに気づく。
「これ、机の下に何かあるね。机うごかそー」
蓮の指示のもと、皆で机を持ち上げた。
机をずらすと、さっきよりハッキリと床にホコリのない四角形が浮かび上がる。
一メートル×二メートル。取っ手も、鍵穴もなかった。
「開かないじゃん」
蓮が隙間に爪を立てたが、指が入らなかった。
一雄は、壁を見た。カレンダーの横に、換気扇のスイッチが一つあった。この小屋に、換気扇は付いていなかった。
一雄は左手で、それを押した。
床が小さく震えた。四角形の床が音もなく下がりはじめた。
「一雄、早く来い」
壁際に移動していた一雄を陸が呼び戻す。
降りていた。床ごとゆっくりと降りていく。
「うわ、ちょっと、何これ」
蓮が一雄の腕を掴んだ。右だった。
「痛い痛い痛い」
「ごめん」
四方がコンクリートの壁だった。
壁には、上から下まで配線が走っていた。新しいものと古いものが、テープで何重にも束ねてあった。
「深いな」
陸が上を見上げた。入ってきた四角い光が、どんどん小さくなっていった。
「十、十一、十二……」
蓮が数えていた。三十を過ぎたあたりで、止まった。
床が、止まった。
目の前に鉄の扉があった。扉は自動で開いた。
その向こうが暗かった。暗さの奥行きが小屋とは違った。空気が動いていた。
一雄が一歩出た。
音が走った。
カン、カン、カン、と遠くまで順番に何かが落ちていくような音がして、それに合わせて、天井の照明が一列ずつ点いていった。
一本。二本。三本。
点き終わるまでに、十秒以上かかった。
「……は?」
蓮が口を開けたまま言った。
広かった。
天井が高く、奥が見えなかった。
柱が等間隔に並んでいて、その間に作業台が何十と並んでいた。
旋盤。溶接機。部品棚が壁一面、天井まで。床には白い線でレーンが引いてあって、どこかの工場で使っていたものを、そのまま持ってきたように見えた。
そして、立っていた。
左の壁に沿って、人の形が並んでいた。
鎧だった。
その鎧に沿って奥に進んだ。
一体ではなかった。十以上あった。
どれも違っていた。肩が大きすぎるもの、腕の片方しかないもの、胸から下が骨組みだけのもの。
色も揃っていなかった。灰色、くすんだ銀、塗装の剥げたもの。古い順に並んでいるのが、一目で分かった。
奥に行くほど、昨日自分が着たものに似ていた。
一番奥の一体だけ、台座が空いていた。
一雄は、そこを見ていた。
「全部、失敗作だ」
陸が言った。
「十年分だよ、これ」
一雄は、並んだ鎧を端から見ていった。
一番手前の一体は、鎧というより、人の形をした板の寄せ集めだった。板には、どこかのメーカーのロゴが残っていた。この街で売っているバイクの外装だった。
「オヤッサン、ここで」
言いかけて、やめた。
十年。この街で、十年。あの人は毎日、店の裏で油の匂いをさせていて、競馬の話をしていて、薔薇を一本買って、それで、ここに降りていた。
『声紋確認』
声がした。
天井のほうからだった。
一雄の体が止まった。
『宇場一雄。登録済み』
陸と蓮が一雄を見ていた。
「……オヤッサン」
一雄が言った。
声はオヤッサンの声だった。喉のところで擦れる、あの機械の声。ただ、擦れていなかった。
同じ声から、ざらつきだけを取り除いたような音だった。
「オヤッサン!生きてたんですか?でも俺目の前で見てたんですよ…オヤッサンが…」
『違う』
「違う?」
『俺は声紋確認が一致したら起動開始するよう組み込まれていた。俺はあの男の知識、データ、記憶の一部、そして声を引き継いでいる』
奥のほうで、机の上のモニターが一枚ずつ点いていった。
「そんな…オヤッサンじゃない」
『そうだ。鍵は使ったな』
「……使いました」
『なら、もう全部お前のもんだ』
一雄は、何も言えなかった。
『工具、部品、金。机の引き出しに通帳がある。印鑑も入ってる。名義はお前だ』
「名義って」
『三月に作った』
一雄が首を振った。
「俺、何も書いてないですよ」
『書いた』
「……書いてない」
『修理の見積書に、三回』
蓮が吹き出した。
一雄は、言葉が出なかった。あの十日間、オヤッサンは紙をよく出してきた。ここに名前、ここにも名前、と。字が汚いと二回も書き直させられた。
『文句は後で聞く』
「いや、あの」
『右肩は』
一雄が黙った。
『上がらんのか』
「……上がりません」
『奥に寝床がある。あとで見る』
声が、そこで一度切れた。
一雄は、天井を見上げていた。見上げても、スピーカーがどこにあるのか分からなかった。
陸が、並んだ鎧のほうへ歩いていった。奥から三番目の前で止まって、腕の部分を指で弾いた。
「これ、デマエガンの肩だ」
『同じ型だ。お前のは、そこから二つ進んでる』
「爺さん、いつの間に」
『作ったのはお前だ。俺は横で見てた』
陸が笑った。笑ってから、口を閉じた。
蓮が、一雄の横に立っていた。ずっと黙っていた。
「ねえ」
蓮が天井に向かって言った。
「これならさ、あたしのも作れる?」
『誰だ』
「桜庭蓮。二年前からこっちにいる」
『蓮…組織のデータと一致した。陸からも話は聞いている。鎧が必要か』
「作ってくれるの!?」
『寸法を取る』
「えっ、今?」
『今だ』
蓮が陸の方を見た。
「陸…あたしの鎧を作ってもいいかな」
「そうだな…やめてほしい。蓮を万が一にも失いたくない…でも本音を言えば、あんな化け物相手にするのに一人でも戦力が欲しい。」
「わかった。あたしも一緒に戦うよ。爺…でいいかな?聞こえたよね。さっさと寸法測ってよ」
『了解した。奥に別室がある。そこへ行け。』
「オッケー。爺、じゃ名前とかはそこで相談するね。」
蓮が奥へと移動していく。
一雄は、左手に持っていたものを思い出した。
薔薇が一本、まだ手の中にあった。茎が温くなっていた。
一雄は作業台のほうへ歩いていって、台の上を探した。空き缶が一つ転がっていた。コーヒーの缶だった。
水道があった。蛇口を捻ると、錆の水が少し出て、それから透明になった。缶に水を入れて、薔薇を挿して、台の端に置いた。
声は、何も言わなかった。
一雄は、そのまましばらく立っていた。
「……ここ」
一雄が言った。
「ここ、何なんですか」
『工場だ』
【4-8へ続く】
第18話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18:00頃更新予定】
第19話 「お届け先」
オヤッサンの遺志が遺された地下秘密工場で、医療用アームによる右肩の治療を受ける一雄。
そんな中、陸を追って未来からやってきたエージェント・蓮が纏う、新たなアーマーの開発が最優先で開始される。
「あたしのアーマーはピンクパンダ!!」
一雄のプロトタイプを流用した、ちょっとポッコリした可愛い新アーマーの誕生。
オヤッサンの灰が入った黒いバッグを、一輪の薔薇の横へと並べて置いた夜、一雄のスマートフォンが再び震え出し――!?
次回の新展開も、絶対に見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した楽曲
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『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』
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