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1-2 オヤッサン

挿絵(By みてみん)


【今回の見どころ】


ついに謎のバイク屋のオヤッサンが登場!一雄との不思議な共通点とは……?


【作品紹介】


本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。


本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。



【2作連動の仕掛け】


オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?


そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線

     ▼ ▼ ▼

『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』

     ▲ ▲ ▲

と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。



【主題歌】

YouTube・noteにて順次公開!

①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」


作者が作詞しました。

ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!


(リンクは後書きの下にあります)

1-2 オヤッサン

「モトショップ ウバ」という看板が出ている。開店して三週間ほどの店だ。


先月、原付の頃から使っていた遠くの店をやめて、ここに来るようになった。理由は二つ。自宅から徒歩三分だったこと。もう一つは、オープン記念でオイル交換が半額だったことだ。


もっとも、通うことを決めたのは値段のせいではなかった。初来店の日、作業を待つあいだに店主と交わした雑談が、どうにも止まらなかったのだ。


八〇年代の特撮の話をした。同じ番組の同じ回の話で盛り上がった。好きなラーメン屋が同じだった。若い頃に憧れていたバイクが同じだった。挙げ句、好きなコード進行が同じだった。


「オヤッサン、ギター弾くの?」

「昔ちょっとな。今は指が動かん」


かなりの年配だ。七十は越えているだろう。白髪を短く刈り、背は低いが肩と腕が異様に太い。首に巻いたタオルは、いつも見たことのない色に汚れている。


その日も、店の隅には薔薇が一輪、生けてあった。


工具箱とオイル缶とパーツクリーナーの並んだ棚の端に、ガラスの空き瓶が置いてある。中に、真っ赤な薔薇が一本だけ挿さっている。油と鉄の匂いの中で、そこだけが異物だった。


挿絵(By みてみん)


「オヤッサンさぁ」一雄は言った。「どう見ても薔薇が似合う顔じゃないよね」


「うるせいなぁ! 薔薇が好きなんだよ」


「薔薇が好き。ちょっと笑わせないでよ」


「なんだと! いいだろが……好きなんだから……」


語尾が、妙にしぼんだ。


一雄は少し面白くなって、追い打ちをかけた。


「へえ。なんで薔薇が好きなんだよ?」


オヤッサンは、ウエスで手を拭いた。拭き終わってからも、しばらく手を拭いていた。


「……昔、好きな人に渡しそびれてたんだよ」


一雄は、茶化す言葉を用意していた。用意していたが、出てこなかった。


「でも、その人を忘れられなくてな……」

「あの夜は月が綺麗だった…」


店の奥で、コンプレッサーが低く鳴っていた。


「あー、恥ずかしい事言わせんな!」


オヤッサンは急に声を張った。


「アレだ! あれ! 真っ赤でなんか情熱に熱い、俺にピッタリだろ!」


「日本語がおかしいよ、オヤッサン」


「うるせえ」


一雄は、瓶の中の薔薇を見た。


一輪だけ。二輪でも三輪でもない。渡しそびれたというのは、たぶん、そういう本数だったのだろう。


「実はね」一雄は言った。「オレも薔薇が大好きなんだよ」


オヤッサンの手が、止まった。


顔は上げなかった。ウエスを握ったまま、俯いたまま、しばらく動かなかった。


「……そうかい」


それだけ言って、オヤッサンはバイクの向こう側に回り込んでいった。


「こんにちはー。オヤッサンいますかー?」


シャッターの内側から、ウエスで手を拭きながら出てきた。


「おっ、今日はどうした。こないだオイル交換したばかりだろ」

「いやね。この雨でコケちゃってさ。バイク見てもらえるかな」

「あーそういうことか。了解」


オヤッサンはしゃがんでレバーを覗き込み、すぐに顔を上げた。


「怪我はないかい」

「ちょっと左手首を捻って、軽い捻挫かな」


一雄は眉間にシワを寄せた。左手首は、さっきよりも腫れてきている。クラッチを握るのがつらい。


オヤッサンの手が止まった。


止まったまま、五秒ほど、一雄の左手首を見ていた。それから自分の左手首に視線を落とした。日に焼けた手首の内側に、白く引き伸ばされたような古い傷がある。


「オヤッサン?」

「……いや。なんでもない」


オヤッサンは立ち上がり、バイクの周りを一周した。ミラーを揺らし、フォークを両手で押し込み、フレームを覗き込む。


「破損自体は大したことねえ。レバーとミラー交換して、あとはアライメント見るだけだ。だが少し時間をくれるか。ちょっと忙しくてね」


申し訳なさそうな言い方だった。それから、ずいぶん唐突に、こう訊いた。


「一雄。お前んとこに、ユーパーイーツから専属の話は来てないか」


一雄は面食らった。


「……来てるよ。先週メールが。なんで知ってんの」

「なんて書いてあった」

「他社の稼働をやめて専属になれば、時給保証と車両の無償貸与。あと健康保険の補助。正直、悪くない条件だなと思ってさ」


オヤッサンは返事をしなかった。ウエスを握る手に、筋が浮いていた。


「受けるのか」

「まだ迷ってるよ。でも、俺みたいな三十八のフリーターに保険つけてくれるとこ、他にないだろ」

「……そうか」


オヤッサンはそれだけ言って、シャッターの中に戻っていった。


ほんの一瞬、奥の作業台が見えた。バイクの部品ではないものが並んでいた。曲面の鋼板。関節のような機構。中心に、丸い窓のついた胸当てのようなもの。


その手前に、あの空き瓶が置いてあった。薔薇は、昨日より少しだけ開いていた。


見間違いだろう、と一雄は思った。

第2話をお読みいただきありがとうございました!

明日の同じ時間に、第3話「1-3 十日間」を投稿予定です。お楽しみに!


少しでも面白いと思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】でのポイント応援や、ブックマーク登録をぜひよろしくお願いいたします!


【主題歌のお知らせ!!】

作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌

『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!


アプリから閲覧している方はお手数ですが

YouTube・noteから「なおパパ」で検索をお願いします!!


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挿絵(By みてみん)


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