1-2 オヤッサン
【今回の見どころ】
ついに謎のバイク屋のオヤッサンが登場!一雄との不思議な共通点とは……?
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
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『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
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と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
1-2 オヤッサン
「モトショップ ウバ」という看板が出ている。開店して三週間ほどの店だ。
先月、原付の頃から使っていた遠くの店をやめて、ここに来るようになった。理由は二つ。自宅から徒歩三分だったこと。もう一つは、オープン記念でオイル交換が半額だったことだ。
もっとも、通うことを決めたのは値段のせいではなかった。初来店の日、作業を待つあいだに店主と交わした雑談が、どうにも止まらなかったのだ。
八〇年代の特撮の話をした。同じ番組の同じ回の話で盛り上がった。好きなラーメン屋が同じだった。若い頃に憧れていたバイクが同じだった。挙げ句、好きなコード進行が同じだった。
「オヤッサン、ギター弾くの?」
「昔ちょっとな。今は指が動かん」
かなりの年配だ。七十は越えているだろう。白髪を短く刈り、背は低いが肩と腕が異様に太い。首に巻いたタオルは、いつも見たことのない色に汚れている。
その日も、店の隅には薔薇が一輪、生けてあった。
工具箱とオイル缶とパーツクリーナーの並んだ棚の端に、ガラスの空き瓶が置いてある。中に、真っ赤な薔薇が一本だけ挿さっている。油と鉄の匂いの中で、そこだけが異物だった。
「オヤッサンさぁ」一雄は言った。「どう見ても薔薇が似合う顔じゃないよね」
「うるせいなぁ! 薔薇が好きなんだよ」
「薔薇が好き。ちょっと笑わせないでよ」
「なんだと! いいだろが……好きなんだから……」
語尾が、妙にしぼんだ。
一雄は少し面白くなって、追い打ちをかけた。
「へえ。なんで薔薇が好きなんだよ?」
オヤッサンは、ウエスで手を拭いた。拭き終わってからも、しばらく手を拭いていた。
「……昔、好きな人に渡しそびれてたんだよ」
一雄は、茶化す言葉を用意していた。用意していたが、出てこなかった。
「でも、その人を忘れられなくてな……」
「あの夜は月が綺麗だった…」
店の奥で、コンプレッサーが低く鳴っていた。
「あー、恥ずかしい事言わせんな!」
オヤッサンは急に声を張った。
「アレだ! あれ! 真っ赤でなんか情熱に熱い、俺にピッタリだろ!」
「日本語がおかしいよ、オヤッサン」
「うるせえ」
一雄は、瓶の中の薔薇を見た。
一輪だけ。二輪でも三輪でもない。渡しそびれたというのは、たぶん、そういう本数だったのだろう。
「実はね」一雄は言った。「オレも薔薇が大好きなんだよ」
オヤッサンの手が、止まった。
顔は上げなかった。ウエスを握ったまま、俯いたまま、しばらく動かなかった。
「……そうかい」
それだけ言って、オヤッサンはバイクの向こう側に回り込んでいった。
「こんにちはー。オヤッサンいますかー?」
シャッターの内側から、ウエスで手を拭きながら出てきた。
「おっ、今日はどうした。こないだオイル交換したばかりだろ」
「いやね。この雨でコケちゃってさ。バイク見てもらえるかな」
「あーそういうことか。了解」
オヤッサンはしゃがんでレバーを覗き込み、すぐに顔を上げた。
「怪我はないかい」
「ちょっと左手首を捻って、軽い捻挫かな」
一雄は眉間にシワを寄せた。左手首は、さっきよりも腫れてきている。クラッチを握るのがつらい。
オヤッサンの手が止まった。
止まったまま、五秒ほど、一雄の左手首を見ていた。それから自分の左手首に視線を落とした。日に焼けた手首の内側に、白く引き伸ばされたような古い傷がある。
「オヤッサン?」
「……いや。なんでもない」
オヤッサンは立ち上がり、バイクの周りを一周した。ミラーを揺らし、フォークを両手で押し込み、フレームを覗き込む。
「破損自体は大したことねえ。レバーとミラー交換して、あとはアライメント見るだけだ。だが少し時間をくれるか。ちょっと忙しくてね」
申し訳なさそうな言い方だった。それから、ずいぶん唐突に、こう訊いた。
「一雄。お前んとこに、ユーパーイーツから専属の話は来てないか」
一雄は面食らった。
「……来てるよ。先週メールが。なんで知ってんの」
「なんて書いてあった」
「他社の稼働をやめて専属になれば、時給保証と車両の無償貸与。あと健康保険の補助。正直、悪くない条件だなと思ってさ」
オヤッサンは返事をしなかった。ウエスを握る手に、筋が浮いていた。
「受けるのか」
「まだ迷ってるよ。でも、俺みたいな三十八のフリーターに保険つけてくれるとこ、他にないだろ」
「……そうか」
オヤッサンはそれだけ言って、シャッターの中に戻っていった。
ほんの一瞬、奥の作業台が見えた。バイクの部品ではないものが並んでいた。曲面の鋼板。関節のような機構。中心に、丸い窓のついた胸当てのようなもの。
その手前に、あの空き瓶が置いてあった。薔薇は、昨日より少しだけ開いていた。
見間違いだろう、と一雄は思った。
第2話をお読みいただきありがとうございました!
明日の同じ時間に、第3話「1-3 十日間」を投稿予定です。お楽しみに!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!
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