4-5 垢BAN
【前回の振り返り】
警察の手を逃れ、陸の隠れ家アパートへ身を寄せた一雄。
オヤッサンの灰が入った黒いバッグを前に静かな夜が更ける中、未来から陸を追ってやってきた大人の女性エージェント・蓮が合流し、運命の歯車が再び回り出す――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-5 本文】
蛍光灯が、ついたままだった。
一雄は畳の上で目を開けた。天井の木目が見えた。知らない天井だった。右肩が、付け根のあたりで固まっていた。動かそうとすると、肘から先がついてこなかった。
部屋の隅に、保温バッグが置いてあった。昨日置いた向きのままだった。
壁の時計が、六時十分を指していた。隣で、陸がジャケットを着たまま壁に寄りかかって眠っていた。蓮は窓際で膝を抱えて座っていて、目は開いていた。
一雄は左手でポケットを探って、スマホを出した。
十年、朝はいつもこれだった。起きて、アプリを開いて、その日のクエストを確認する。手が覚えている。指が勝手に黄色いアイコンを押した。
画面が白くなって、文字が出た。
【このアカウントは停止されました】
一雄は、しばらくそれを見ていた。
理由は書いていなかった。問い合わせ先のリンクが一つあるだけで、押すと、受付時間は平日の十時からと出た。今日は日曜で、祝日だった。
「どうした」
陸が目を開けていた。
「……垢BANされた」
「何それ」
「アカウント停止。ユーパーイーツの」
一雄は画面を陸のほうへ向けた。陸は半分だけ体を起こした。
「理由は書いてないな」
「書かないんだよ。専属を断ったのがまずかったのかもな」
「断ったら止めるのか? せめて理由ぐらい言えよ」
「いや」
一雄は首を振った。
「これが当たり前なんだよ」
「当たり前?」
「数字が落ちたら、自動で止まるんだ。稼働率とか、辞退の回数とか。十年で何人も見てきた。朝起きたら止まってて、理由は誰も教えてくれない」
蓮が窓際から振り返った。
「人がやってないってこと?」
「そうです」
「十年も必死に働いてきて、数字が落ちたら、さようならってこと?」
「そういう仕組みなんです」
蓮が何か言いかけて、やめた。
一雄はスマホを伏せかけて、もう一度持ち上げた。親指が別のアイコンを押した。他社のアプリが立ち上がった。普通に動いた。近くの依頼が三件、画面に並んでいた。
一雄は、その三件をじっと見ていた。
「生きてる」
「なんだって?」
「……他社のアカウントは生きてる。当たり前なんだけど、忘れてた」
一雄は画面を見たまま言った。
「オヤッサンが言ってたんだ。力は分散させろって。一社に全部まとめるなって。競馬の話しかしない人なのに、あれだけ一回、真面目な顔で言われた」
部屋が静かになった。
「意味が分からなかったんだけどな」
一雄はスマホを置いた。
「今は、まだ他社が残ってる。だから俺は今日も走れる。それだけのことなんだけど」
陸が立ち上がった。壁に手をついて、肩を回した。
「飯買ってくる。ここ、何もないんだよ」
「あ、俺が」
「右腕が上がらないやつが行ってどうすんだ」
陸が出ていって、外階段が鳴った。蓮が立ち上がって、保温バッグのほうを見て、見ただけで何もしないまま台所へ行った。水道の音がして、止まった。
陸が戻ってきたのは十五分後だった。コンビニの袋を畳に置いて、おにぎりを一つ、一雄に放ってよこした。左手で受けた。
「右肩、病院行ったほうがいいんじゃないの」
蓮が袋を覗きながら言った。
「行けませんよ。何て説明するんですか」
「転んだとか」
「転んで肩が外れるのは、まあ、ありますけど」
「ってかさ、なんで陸には普通に喋ってるのに、あたしには敬語なの」
「えっ。いや、陸に敬語はいらないって言われたから……」
「あたしも言うし。はいっ、ここから敬語禁止ね」
「わかりました」
「なにっ!?」
「ひっ。わかったよ」
「よし。じゃメシにしよー」
一雄は包装を剥がそうとして、片手ではうまくいかなかった。陸が黙って取り上げて、剥いて返した。
「あっ。ありがとう」
「食えよ」
一雄は一口食べた。鮭だった。昨日の夜から何も入れていなかったことに、食べてから気づいた。
「陸」
「ん?」
「ひとつ訊いていいか」
「おう」
「陸はデマエガンなんだよな。なんでフーデリオンじゃないんだ?」
陸が顔を上げた。
「デマエガンは俺が決めたんだよ。一雄は自分で決めなかったのか?」
一雄は、口の中のものを飲み込んだ。
「……決める?」
「決めるだろ。自分が着るもんだぞ」
「初めて着たとき、もう『コードネーム:フーデリオン』って決まってたよ」
陸が、少し黙った。それから、吹き出した。
「ははっ! 爺さんらしいや」
「なにがだよ」
「フーデリオンは、俺たちの組織の名前だよ」
一雄は、おにぎりを持った手を下ろした。
「組織」
「爺さんがいたところだよ。俺も蓮も、そこの人間」
「……俺、組織の名前を着てたのか」
「着てたな」
「勝手に」
「勝手だな」
蓮が笑った。笑ってから、口を押さえた。
一雄は、天井を見た。知らない天井だった。
二十八日に、雨の中で笹本が来た。三十日に断った。アカウントは今朝止まった。十年走ったのに、終わりはあっけないな。終わりって、突然やってくるんだな。
「……オヤッサン」
声に出ていた。
誰も何も言わなかった。
一雄は残りを食べて、左手で畳をついて立ち上がった。右肩が鳴った。
「どこ行くの」
蓮が顔を上げた。
「ちょっと店まで」
「店って」
「オヤッサンの店」
一雄は、保温バッグのほうを見ないようにして言った。
「あそこの奥に、部屋があるんだ。壁一面にモニターがあって、俺の位置がずっと映ってた部屋。一回しか入れてもらってないんだけど」
陸が立ち上がった。
「残ってるのか」
「分からない。暗くて全部は見てないけど、壁はもう無かった」
「警察が入ってるぞ。昨日あれだけ音が出たんだ」
「分かってるよ」
一雄は、ヘルメットを拾った。スイカ柄の、傷の入ったやつだった。
「でも、オヤッサンがこうなるのを考えてなかったとは思えないんだ。うまく言えないけど、何かあの場所にある気がする」
陸と蓮が、顔を見合わせた。
「なんでそう思う?」
「え?」
「なんで、そう思うんだ」
一雄は、少し考えた。
「だってオヤッサンだよ。いつも無愛想で、言葉足らずで、でもいつも周りを気にかけてて、用意周到で……」
ヘルメットの顎紐を、左手で引いた。
「なんかオヤッサンの考え方って、俺に似てるんだよね」
【4-6へ続く】
第16話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18:00頃更新予定】
第17話 「置き配」
瓦礫の山となった店の跡地で、一雄が出会った駅前の古い花屋の婆さん。
そこで手渡されたのは、オヤッサンが密かに遺した真鍮の鍵と、チラシの裏の「二行の座標」だった。
明かされる、オヤッサンが30年間『一輪の薔薇』を買い続けていた切なすぎる理由。
座標が示す世界の果て、錆びついた工場の敷地で、一雄が手にした鍵が静かに回り――。
次回の特大の新展開、絶対にお見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
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