4-4 遅いんだよ!
【前回の振り返り】
未来からの最凶の刺客・大川新太郎の猛攻を、陸が放った最大奥義『ゴング・バースト』の爆風が退けた。
激戦の果て、灰となったオヤッサンの作業着を前に涙を流す一雄。
そんな彼の前に現れた赤い戦士の正体は、未来から来たオヤッサンの弟子・黒崎陸だった――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-4 本文】
陸の手を掴んだまま、一雄は立ち上がろうとした。
できなかった。右肩が動かない。左手だけで砂利を押した。
陸は黙って待っていた。手は離さなかった。
二度目で立った。
ポケットで、スマホが鳴った。
一雄はそれを取り出した。
画面に青い帯が出ていた。
【新規の依頼】
ユーパーイーツ
受け取りまで一・二キロ
報酬 四百八十円
指が、勝手に動いた。十年やってきた指だ。画面の緑のボタンに届く前に、一雄は手を止めた。
「出るのか」
陸が言った。
「……出ません。切り忘れてました」
一雄は辞退のボタンを押した。次にログオフのボタンを押した。
スマホを握った手に、灰がついていた。
払う気にはなれなかった。
「おい」
陸が顎で店のほうを指した。
「ここ、もうすぐ人が来る。音が出すぎた」
一雄は顔を上げた。
崩れた壁の向こうで、運河沿いの道に明かりが動いていた。マンションの三階、四階の窓が、ひとつずつ点いていく。
「警察が来るはずだ。一旦この場を離れないと面倒くさいことになる」
「……そうですね。ちょっとだけ待ってください」
一雄は、背中のバッグを下ろした。
四角い保温バッグだ。中は空だった。二十二時十九分に唐揚げ弁当を二つ出して、それから一度も開けていない。
一雄は、作業着を持ち上げた。
軽かった。思っていたよりずっと軽かった。襟のところに油の染みがある。何度も洗って、落ちなくなった染みだ。それを畳んで、バッグに入れた。
それから、膝をついた。
両手で砂利の上をすくった。砂利と灰が混ざって、手のひらから落ちていく。何度やっても、半分も入らなかった。風が吹いて、そのたびに少し減った。
「全部は無理だぞ」
「分かってます」
一雄は、すくい続けた。
「俺、仕事でいろんなもん運んでるんですよ」
手のひらを傾けて、バッグの中へ落とす。
「ラーメンとか、弁当とか。こぼさないように運ぶのが仕事なんです」
もう一度すくった。
「こんな軽いもん、初めてです」
陸は何も言わなかった。
バッグのファスナーを閉めた。閉める音が、いつもより小さく聞こえた。
一雄はバッグを背負った。
いつもは、ここで重さが肩に来る。来なかった。
「行きましょう」
スクーターは、フェンスの外に倒れていた。
一雄が起こすと、カウルの継ぎ目に細い隙間が走っていた。装甲が戻った跡だ。エンジンはかかった。十年乗っている音がした。
「あなたの車両は」
「陸でいい。あと敬語もいらない」
「わかった。陸、車両はあるのか」
一雄が聞くと、陸は空き地の外の暗がりを指した。
赤いスクーターが停まっていた。荷台にケースが三段積まれている。ユーパーイーツの箱でも、他の二社の箱でもない、見たことのない形だった。
「あれでこの時代に来たのか」
「いや来たのは俺だけだ。詳しくはあとで話す」
「……」
「まあいい。走れるか」
一雄は答えずにヘルメットを被った。顎紐を締める。
耳元で、小さく接続音がした。
何も聞こえなかった。
『今夜は冷えるな』も、『数字は』も、『無駄口叩くな』もなかった。繋がっているのに、向こうに誰もいない音だった。
一雄は、しばらく動かなかった。
「おい、さっさと移動するぞ」
陸が呼んだ。
一雄はアクセルを開けた。
運河沿いの道を、二台で走った。
前を走る赤いスクーターは、信号で止まり、ウィンカーを出し、法定速度で走った。どこへ向かっているのか、一雄には分からなかった。分からないまま付いていった。
突然ヘルメットスピーカーから声がした。
「聞こえるか。俺だ。陸だ」
「あっ。聞こえます。じゃない、聞こえるよ」
「ヘッドセット同士を繋いでおいた。少し話しながら移動する」
「俺は一か月ほど前にこの時代に来ていた。やつらに見つからないように密かにオヤッサンと連絡してたんだ」
「一か月前……今まで何してたんだ」
「アーマーを組んでた。あの爺さんと二人でな」
「二人で」
「設計は向こうの仲間だ。部品はこっちで集めた。完成したのが、今日の昼だ」
一雄は、前を走る赤い背中を見た。
「じゃあ、それまでは」
「出るなと言われてた。未完成で出たら、俺が死ぬだけだと」
陸の声が、一度切れた。
「爺さんは、あんたのことばっかり喋ってたよ。一雄が五人振り切ったとか、一雄が雨の日に稼いだとか」
「……」
「俺は、それを聞いてるだけだった」
商店街のアーケードを抜けて、川を渡って、十五分ほど走った。
「ここだ」
着いたのは、駅から離れた古いアパートの前だった。二階建ての、外階段が錆びているアパートだ。一雄は配達で何度も来た建物だった。
陸がスクーターを停めて、ヘルメットを脱いだ。
「オヤッサンに用意してもらった隠れ家だ」
一雄もバイクを停め、ヘルメットを脱いだ。
二人でアパートの階段を上ろうとした時、後ろから声がした。
「やっと見つけた!! 遅いんだよ!!」
振り返ると黒尽くめの回収員が立っていた。
一雄は反射的に叫ぼうとした。
「ピックアップ……」
しかし陸の手に口を塞がれた。
「まて。よく見ろ」
「何をだよ」
陸に言われ回収員を見た。
たしかに何かが違う。
黒いヘルメットに黒いバイザー。
そして黒いボディスーツ……ピチピチのボディスーツ……
今まで見た筋肉マッチョの回収員とは違う。
ナイスバディの回収員!?
そのナイスバディの回収員が陸に殴りかかった。
見とれてしまうほどの綺麗なフットワークで陸を追い詰める。
陸もぎりぎりかわしながら笑っている……笑ってる!?
「悪かったよ。蓮」
陸がそう言うと、ナイスバディの回収員は攻撃をやめ、ヘルメットを脱いだ。
黒髪のショートで、綺麗な整った顔の女性だった。
その女が、陸の顔を見た。
「遅いんだよ!!」
深夜のアパート前に、声が響いた。
「空き地まで行ったんだけど!! もういないし!! タイヤの跡だけ残ってるし!!」
「遅いんだよ!! 何してたの!! 二年!! 二年だよ!!」
「二年か」
「数えてたんだよ!!」
女は陸の胸を両手で押した。陸は一歩も下がらなかった。
「陸を追ってきたのに、オプトのマシンの操作なんて分かんないから、とにかく飛んだら……ずっと一人で潜入捜査して待ってたんだからね!!」
「悪かった」
「それだけ!?」
「あー。悪かったから落ち着けよ。周りを起こしちまう」
女は息を吸って、吐いた。
それから、陸の後ろに立っている一雄を見た。
スイカ柄のヘルメットを被って、保温バッグを背負った、頭の薄い四十前の男を見た。
女の顔から、怒りが抜けた。
「……えっ」
女は一歩前に出た。
「あなた、iti?」
一雄は、ヘルメットを脱いだ。
「……宇場です」
女は、一雄の顔を見て、それからバッグを見て、陸のほうを見た。
陸は何も言わなかった。言わないことが答えになっていた。
女の目が、少しだけ動いた。
「……オヤッサンは」
一雄は、背中のバッグに手を回した。
下ろして、足元に置いた。
四角い保温バッグが、アパートの外階段の蛍光灯の下に置かれていた。十年ぶん汚れた、黒いバッグだった。
誰も、それを開けなかった。
【4-5へ続く】
第15話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18:00頃更新予定】
第16話 「垢BAN」
悪夢のような激戦から明けた、翌朝。
知らない天井の下で目を覚ました一雄のスマートフォンに、突然突きつけられたのは非情な『アカウント停止(垢BAN)』の四文字だった。
十年走り続けた日常を突然奪われた一雄。
そんな中、陸たちの口から、オヤッサンが遺した『フーデリオン』という言葉の驚愕の真実が明かされ――!?
次回の新展開も、絶対にお見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
『紡ぐ意思〜フーデリオン〜』YouTube・noteで公開中!
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