4-3 ゴング・バースト
【前回の振り返り】
未来からの最凶の刺客・大川新太郎の前に、オヤッサンは無慈悲な“廃棄物処理”の光に飲まれて消え去ってしまった。
絶望の底で一雄が死を覚悟したその瞬間、夜空を切り裂いて降臨したのは、橙のラインを宿す謎の「赤い装甲の戦士」だった――。
【作品紹介】
本作は、noteで「フーデリオン」として執筆している小説を、小説を読もう!用に投稿しました。
本作は、38歳のおっさんフードデリバリー配達員が、配達で培った知識と未知数の鎧を纏い、未来からの襲撃者と戦う、音楽連動型の特撮風SF小説です。
【2作連動の仕掛け】
オヤッサンが一雄に告げた「歌は、やめるな」という言葉。なぜ彼は一雄の葛藤を見抜いていたのか?
そのすべての元凶となる、一雄の30年前の姿を描いた別世界線
▼ ▼ ▼
『魂のラブレターを運命のアイドルに直接届けたらストーカー対策会議の議題にされた件』
▲ ▲ ▲
と合わせて読むと、このセリフの本当の重みが突き刺さります。
【主題歌】
YouTube・noteにて順次公開!
①FoodFighter「紡ぐ意思〜フーデリオン〜」
作者が作詞しました。
ぜひ聴いて小説を楽しんでほしいです!
(リンクは後書きの下にあります)
【4-3 本文】
赤い装甲が、一雄を見下ろしていた。
継ぎ目に橙の線が走っている。肩に短い棘が二本。背中に、人ひとり分ほどのバッグを背負っていた。右手に、四角いものを下げている。
「あんたが、宇場一雄か」
一雄は状況が分からず答えられなかった。右肩から先の感覚がない。口の中に鉄の味がある。
赤い装甲は膝を折って、一雄の左腕を掴んだ。そのまま引き起こす。
「悪い。乱暴にやる。時間がない」
砂利の上に立たされた。膝が笑っている。
「歩けるか。無理なら担ぐ」
「……歩けます」
「よし」
赤い装甲は一雄の前に出て、大川のほうを向いた。
大川は動いていない。
「デマエガン……黒崎か」
「久しぶりだな。大川」
赤い装甲が言った。
「再会のプレゼントをやるよ」
赤い装甲が、右手の四角いものを上げた。
音は短かった。銃声というより、何かが弾けた音だった。
大川の胸で、白い火花が散った。
それだけだった。男は一歩も動かず、胸の装甲に焦げ跡が一つ増えただけだった。
「ダメか。硬いな」
「きかんな」
「ちっ。せっかく武器を改良してきたのによ」
大川は左手を、首の横へ当てた。
「来い」
砂利を踏む音が、空き地の外から聞こえた。
一つではない。
崩れた壁の向こうから、ぞろぞろと黒い影が出てきた。残骸を乗り越えて、街灯の光の中へ入ってくる。全身が黒い。手に短い棒を持っている。
その棒が伸びて、先が尖った。
回収員だ。
一人、二人、三人。数えている途中で、数えるのをやめた。空き地を囲むように、十人が散った。
「くたばりなっ!!」
誰が言ったのか分からなかった。
一雄は背中のバッグを外し、すかさず展開させた。腕の前で盾になる。
槍が来た。二本同時だった。
一本目を盾で受けた。衝撃が肘から肩へ抜けて、感覚のない右肩まで響いた。二本目は横から来て、盾の縁を削った。
「下がれ」
赤い装甲が、一雄の背中に背中を合わせた。
「逃げるのは得意か」
「……それしか、やってません」
「十分だ」
「俺が逃げる隙を作る。合図をしたら敷地の外まで全力で走れ」
「えっ」
「ゴング・バースト。カウント十」
背中のバッグが、低く唸り始めた。
装甲の継ぎ目の橙が、赤に変わっていく。足から腰、腰から胸へ、下から順に色が上がっていく。
「九」
「八」
回収員が同時に動いた。十人が一斉に間合いを詰めてくる。
「七」
「ブラックアウト」
赤い装甲が言った瞬間、背中の荷物の上部が開いた。
黒い煙が、ものすごい勢いで噴き出した。噴き出すというより、吐き出された。空き地の街灯の光が、一秒で消えた。何も見えない。自分の盾も見えない。
「走れ!!」
すぐ後ろで声がした。
一雄は言われるがままに走った。
煙の中を、記憶だけで走った。十年通った道ではない。三週間だけ通った道だ。それでも砂利の感触と、運河の音の方向だけは覚えていた。
フェンスの切れ目を抜けて、振り返った。
敷地内は黒い煙が広がっていた。
煙の切れ目から赤い光が漏れはじめていた。
中の様子は分からない。
「三」
「二」
「一」
「チャージ完了」
赤い装甲のヘルメットスピーカーからチャージ完了が告げられる。
赤い装甲が叫んだ!!
一雄にも届く叫び声で!!
「ゴング・バースト!!」
赤いドーム型の閃光が、煙ごと空き地に広がった。
音は後から来た。一雄の体の前面を、熱い風が叩いた。フェンスが鳴り、運河の水面が一度へこんだ。
煙が吹き飛んで、空き地が見えた。
回収員が、十人とも倒れていた。残骸の上に乗っている者、フェンスに引っかかっている者、仰向けに転がっている者。一人も立っていなかった。
その真ん中で、大川が片膝をついていた。
倒れてはいない。
赤い装甲が、男の正面に立っている。
「コレでも倒れないか」
「こんな技を持っていたとはな……」
大川が、片膝のまま顔を上げた。
右の前腕の装甲が割れている。割れ目の奥で、束になった線がいくつか垂れていた。
その状態で、男は笑った。
「はっはっはっ。今日はここまでにしよう」
立ち上がる。膝から腰、肩の順に、重いものが積み上がる音がした。
「目的の一つであった爺を処分できただけでも、十分だ」
一雄の呼吸が止まった。
砂利の上の作業着が、まだそこにある。
「だが貴様らも捕獲、処分対象だということを忘れるな」
大川は左手を上げて、右腕のどこかを押した。
バチッバチッと空気を裂く音が鳴った。
男の体の輪郭に沿って、空気が白く光った。輪郭の内側ではなく、外側だ。光が一度だけ強く大川を包んだ。光が収まるとそこに大川はいなかった。
一雄は周りを見た。
倒れていた回収員が、一人ずつ同じ光に包まれていく。手前の一人が消え、その奥が消え、残骸の陰に転がっていた二人が消えた。
十人全員が消えるまで、十秒もかからなかった。
あとに残ったのは、折れた警棒と、めくれた看板と、砂利だけだった。
赤い装甲が、空を見上げていた。
「……持って帰りやがった」
一雄はフェンスの切れ目から中へ入った。
盾を背中に回し、バッグの形に戻った。
歩いているつもりだったが、三歩目で膝が落ちた。
「ドロップ オフ」
声が出た瞬間、装甲が離れた。首から胸、腕、脚の順に、音を立てて剥がれていく。顔の前の黒い板が外れて、夜の空気が顔に当たった。
砂利の上に、作業着があった。
灰が、その周りに薄く散っている。風が吹くたびに、少し動いた。
一雄は座り込み、両手で灰をすくいあげた。
灰はサラサラと指の隙間から、こぼれ落ちた。
「オヤッサン……オヤッサン……」
一雄は耐えきれず泣いた。
涙を流すのはいつ以来だろう……
灰に涙が染み込み、濃い灰色へと変わっていく。
「ドロップ オフ」
後ろで、同じ言葉が聞こえた。
振り返ると、赤い装甲が開いていた。中から出てきたのは、若い男だった。
二十代の後半くらいだろうか。革ジャンを着ている。髪が短い。顔に土と煤がついていて、それを手の甲で拭った。
一雄より、頭一つぶん背が高かった。
「あー……」
男は、一雄と作業着を順番に見た。
「間に合わなかったな。すまない」
一雄は、何も言わなかった。
男は作業着の前まで来て、立ったまま見下ろした。
しばらく黙っていた。
「俺、十年あんたの名前を聞かされてた」
「……は」
「あんたの名前と言ってもitiと言う名前をだ。itiは歌がうまいとか。itiの歌が未来を変えるとか」
男は鼻で笑った。笑いながら、目は作業着から動かさなかった。
「正直、何度も同じ話をするからうんざりしてた。会ったら一発殴ろうと思ってた」
一雄は、座ったまま男を見上げた。
「……殴らないんですか」
「殴れねえよ」
男は、ようやく一雄のほうを向いた。
「あんた、一・四倍で突っ込んだだろ。あれ見ちまったから」
そう言って、手を出した。
汚れた、大きい手だった。
「黒崎陸。二十八だ。あの爺さんの弟子だから、あんたの後輩になるのかな。順番がよく分からん」
一雄は、その手を取った。
引き起こされながら、空き地を見た。
看板がなかった。壁がなかった。二階がなかった。三週間前に開いた店が、空き地に戻っていた。
その真ん中に、作業着だけが残っていた。
【4-4へ続く】
第14話をお読みいただきありがとうございました!
【次回の見どころ 毎日18:00頃更新予定】
第15話 「遅いんだよ!」
警察の手を逃れ、陸の隠れ家アパートへ身を寄せた一雄。
オヤッサンの遺志を抱えて立ち尽くす二人の前に、突如として“ピチピチのボディスーツ”を纏った謎の美しき襲撃者が襲いかかる!
「遅いんだよ!! 何してたの!! 二年だよ!!」
深夜の街に響く、黒髪ショートの女性の怒号。陸を追って未来から志願してきた彼女の正体とは――!?
激動の第四章、さらに加速する新展開を絶対にお見逃しなく!
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【主題歌のお知らせ!!】
作者が作詞しAI(Suno)と制作した主題歌
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