朝光と、それぞれの歩み
翌朝。
ベルノアの空は、久しぶりに澄んでいた。
だが、完全に安心できるわけではない。
異変は止まったとしても、影響が残っている可能性は高い。
花うさぎ亭の食堂には、朝の光が差し込んでいた。
パンの焼ける匂い。
温かいスープ。
町の空気は、少しずつだが、確かに戻りつつある。
ルカが地図を広げる。
「今日からは確認作業だ。
異常が残ってないか、それぞれの区域を回る」
リュシアンが頷く。
「ベルノアの連中とは別行動だな」
「土地勘は向こうの方があるからな。
俺たちは外からの視点で見る」
セリスも静かに頷く。
「装置の反応も見ておきます」
その時。
ルカが、ふっと笑った。
「……ところで」
視線がヴァルとセリスに向く。
ヴァルの肩がびくっと揺れ、視線が泳ぐ。
「昨日、廊下がやけに静かだったな?」
「……」
「リュシアンが先に戻るとか珍しいしなぁ?
お前ら、いっつも三人で最後まで喋ってんのに」
完全に楽しんでいる。
レオが顔を上げる。
「え、なに?なにかあったの?」
「いやぁ、若いっていいなって話だ」
ヴァルの顔が一瞬で赤くなり、
ギロリと青い瞳を鋭く細める。
「ルカ」
低い声。
だがルカはヘラヘラと笑ってかわす。
「安心しろ。
任務には影響なさそうで何よりだ」
セリスは、無表情のままパンを食べている。
耳だけが少し赤い。
「……問題ありません」
「へへっ、だろうな」
ルカは満足そうに笑う。
「よし、出発だ」
町の外れ。
調査区域の分担が終わり、それぞれ散っていく。
ヴァルが装備を整えていると、リュシアンが隣に立った。
少しの沈黙。
風が吹く。
「……」
ヴァルは視線を向けない。
リュシアンも何も言わない。
しばらくして。
「……良かったな」
短い言葉。
その言葉にヴァルが少しだけリュシアンの方を見て、わずかに目を細める。
「……ああ」
それだけ。
それで、十分だった。
リュシアンが小さく笑う。
「前より顔がマシだ」
「うるせぇ」
「仕事はきっちりやれ」
「分かってる」
ほんの少しだけ、空気が軽い。
「……ヴァル」
「なんだ」
「失うなよ」
リュシアンはそう言うと背を向けたまま、先へ歩き出した。
ヴァルは答えない。
だが、その表情には強い決意が滲んでいた。
「当たり前だ」
そう呟いて、少し笑った。
読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。
毎週金曜日21時頃更新予定です。
よろしくお願いいたします。




