月下に結ばれるもの
地下の再生は、静かに巡る。
奪うためではなく。
繋ぐために……
宿へ戻る頃には、夜も深くなっていた。
地下の冷気とは違う、柔らかな静けさがそこにはあった。
廊下を歩く足音だけが響く。
リュシアンが、ふと立ち止まった。
「……俺は先に失礼する」
僅かに口角を上げて、ヴァルに視線を送る。
「……積もる話もあるだろう」
セリスが瞬きをする間に、リュシアンはさっさと自室へ消えていった。
次々と自室へ戻り
残されたのは、二人。
妙に、静かな空気が何故だか少しこそばゆい。
ヴァルが立ち止まる。
廊下の窓から月明かりが差し込み
ヴァルの黒い髪が、淡く光を受けて揺れた。
セリスが振り向く。
「どうしました?」
ヴァルは、しばらく何も言わなかった。
そして——
両手を下で合わせる。
ぎゅ、と指先を擦り合わせるように。
落ち着かない様子で、視線を泳がせる。
「……その」
珍しく歯切れが悪い。
「今回の件が、片付いたら……言おうと思ってた」
セリスの胸が、どくりと鳴る。
ヴァルは耳まで赤くなっている。
その片耳に揺れる、小さなアメジストの装飾が月の光を受けて輝いていた。
ヴァルの声はわずかに震えている。
「装置いじってる時の癖とか。
集中すると周り見えなくなるとことか」
言葉が少しずつ早くなる。
「それでも前向いてるとことか。
……全部、好きで」
ヴァルは言い終えると、完全に顔を伏せた。
廊下の窓から、月明かりが静かに差し込み、
動かない二人の影だけがゆっくりと伸びていった。
やがてセリスが、一歩前に歩み寄った。
「……先越されちゃいましたね」
ヴァルが顔を上げる。
「私から言おうと思っていたのに」
セリスは小さく息を吐いた。
「私も、あなたの背中に何度も救われました」
「未熟でもいいと、言ってくれましたよね」
「あの夜、見張り台で」
あの夜の焚き火の光が、胸の奥によみがえる。
小さく息を吐いた。
「……嬉しかったです」
ヴァルの喉が、小さく鳴る。
「俺は、器用じゃねぇ」
「知っています」
「ほんとにそれでもいいのか」
セリスは、ためらわず頷いた。
「はい」
青と紫の視線が交錯し、かすかに揺れた。
夜風が窓から入り、カーテンをわずかに靡かせる。
月明かりが、廊下にやわらかく落ち、
二人の沈黙を星々だけがそっと見守っていた。
やがて二人はようやくそれぞれの部屋の前に立ち、言葉を交わす。
「……明日からも、隣で戦えるか」
ヴァルが頬を人差し指で掻きながら聞く。
セリスは頷き微笑む。
「もちろんです」
「ずっと、です」
ヴァルの指が、ピアスに触れる。
戦いの終わった夜。
再生は、静かに巡っていた。
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