静寂の通路、待ち受けるもの
地下への道——
ベルノアの地下へ続く古い通路は、静まり返っていた。
カツカツと足音だけが、低く響く。
先頭を歩くのはカインだった。
黒い外套の背中が、松明の光に揺れる。
その後ろにルカたち。
さらに、レオンたちベルノア組が続く。
完全な信頼ではない。
だが、敵でもない。
微妙な距離が保たれていた。
「……本当にここでいいんだな」
レオンが低く言う。
カインは振り返らない。
「ああ。封印の間へ繋がっている」
その声は、以前よりも落ち着いていた。
狂気に染まっていた頃の面影は、もう薄い。
ヴァルが小さく呟く。
「妙だな」
「何がです?」
セリスが問い返す。
「罠がない」
その通りだった。
本来なら、侵入者を阻む仕掛けがあるはず。
だが、通路はあまりにも静かすぎる。
リュシアンが周囲を見渡す。
「おそらく……待っているな」
ルカが頷いた。
「歓迎されてるってわけか」
レオが肩をすくめる。
「やだねぇ、こういうの」
再生の根の空洞——
やがて通路が開けた。
そこは巨大な空洞だった。
地下とは思えないほど広い。
石の柱は、まるで大樹の根のように絡み合い、天井へと伸びている。
淡い光が壁から滲み出ていた。
水がゆっくりと流れ、静かな音を立てている。
破壊された跡があるはずの場所も、滑らかに再生していた。
ミレイが息を呑む。
「……ベルノアの精霊の……」
レオンも言葉を失う。
「再生の……象徴……」
セリスは目を輝かせていた。
「自己修復型の魔力循環……理論上は存在すると考えられていましたが……」
「今は感動してる場合じゃねぇぞ」
ヴァルがセリスを軽くこづく。
その瞬間。
パチ……パチ……パチ……パチ……
拍手が響いた。
乾いた、ゆっくりとしたテンポで。
「素晴らしい。実に素晴らしい」
奥の闇から現れる——アルゼヴァルト宰相ラミニーク。
隣には、無表情の少年が佇んでいる。
「ようやく来てくれたか」
ルカが剣を抜く。
「手厚いおもてなしだこった」
ラミニークは笑った。
「無論だ。君たちを待っていた」
その視線は、セリスとリュシアンへ向く。
「封印の研究。実に興味深い。我が国で研究するつもりはないか?」
ニヤリと口角を上げ、二人を見つめる。
空気が凍る。
セリスが一歩前に出る。
「お断りします……なぜ封印の研究をしていることを?」
「観察していたからだよ」
ラミニークは軽く言う。
「再生とは循環。循環とは支配可能な法則だ」
リュシアンの目が細くなる。
「支配できるものではない」
「できるとも」
リュシアンは、更に目を細めた。
(……違う)
再生は、支配するものじゃない。
循環は、誰か一人の意思で閉じていいものじゃない。
それを——
「壊す」と呼ぶんだ。
全員の拳に力が入る。
冷めた視線を向け、ラミニークは黒い水晶を掲げた。
「力とは、使う者次第だ」
読んでいただきありがとうございます。
お盆期間ということで、8月13日〜8月16日まで毎日投稿いたします。21時頃予定です。
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