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偽りの同盟、迫る決戦


夜。

ルーコトス領内の地下深く。


灯りは少なく、湿った石壁に水が伝っている。


ピチャン……ピチャン……


と滴る音が、規則的に反響していた。


カイン・ミゼルブ・ルーコトスは、静かに歩いていた。


足音が遅れて返ってくる。

まるで、誰かが後ろからついてくるように。


やがて、通路の奥に人影が現れた。


黒い外套。

その内側から、わずかに覗く黒い水晶の輝き。


ラミニークだった。


その隣に、少年が立っている。

無表情で、ただ父を見ている。


まるで命令を待つ道具のように。


「遅いな、カイン」


低く、湿った声。


カインは表情を動かさない。


「警戒を強めている。外部の冒険者が動き始めた」


「ベルノアの者か」


「……それだけではない」


ラミニークの目が細くなる。


「ほう?」


「外から来た者たちが、異変を調べている。

実力は未知数だが、無視はできない」


ラミニークは少しだけ笑った。


「焦っているな」


「当然だ」


即答。


「封印が解けなければ、交渉も成立しない。

時間が必要だ」


ラミニークはコツ、コツ、と規則正しいリズムで

カインの周囲をゆっくりと歩き回った。


「父君は天才だった」


その声は、ねっとりとカインの鼓膜にまとわりつくようだった。


「何もせずとも、人は従った」


カインの拳がわずかに握られる。


「……だから何だ」


「君は違う」


耳元で囁かれる。


「努力しても、足りない。

結果を出さねば、認められない」


甘い香りが漂う。


だが——


カインは目を逸らさない。


「私は結果を出す」


「そのために、我々を利用しているのだろう?」


「……互いに、だ」


ラミニークがフンッと小さく笑う。


「良い。その野心、嫌いではない」


少年が一歩前に出る。

ラミニークは外套を翻し、無言で水晶を掲げる。


空気が歪む。


「この子も、父の期待に応えようとしている。

可愛いものだ。クックックッ」


カインはその姿を見た。


——道具のようだ。


胸の奥に、何かが引っかかる。


「封印の進行はどうだ」


「順調だ」


「だが再生の力が強い。

完全に崩すには、もう少し時間がいる」


「どれくらいだ」


「数日」


沈黙が流れる。


「長いな」


「確実に解く為だ」


一歩も引かない。


やがて。


「……よかろう」


黒い水晶が、わずかに光る。


「次は地下で会おう」


「地下?」


「再生の核心を、この目で見たい。

儀式の最終段階だ」


カインは一瞬だけ目を伏せる。


——ここしかない。


「……承知した」


「場所は」


「ベルノアの地下。

再生の根の近くで」


ラミニークの笑みが深まる。


「いいだろう。逃げ場もない」


静寂の中で、去っていく背中を見送った。


しばらくしてカインは、ゆっくりと息を吐いた。


膝が、わずかに震えている。


「……時間は稼いだ」


振り向くと、影から側近が現れる。


「領主様」


「外部の冒険者を動かすな。

監視されている可能性が高い」


「承知しました」


「だが——」


カインの目が鋭くなる。


「戦う準備は怠るな」


「地下で、決着をつける」


ピチャン……ピチャン……


水滴が落ちる音。


それはまるで、

刻一刻と時間が削られていく音のようだった。



読んでいただきありがとうございます。


お盆期間ということで、8月13日〜8月16日まで毎日投稿いたします。21時頃予定です。

よろしければ覗いていただけると嬉しいです。

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