震える心、支える声
ルーコトス領主との対峙——
地下の最奥。
空気は重く、どこか甘い匂いが漂っていた。
石造りの広間の中央。
その奥に立っていたのは——カインだった。
カイン・ミゼルブ・ルーコトス。
黒い外套。
その下の瞳は、正気と狂気の境目を揺れている。
「……来たか」
低い声。
だがその奥に、焦りが滲んでいた。
ルカが一歩前に出る。
「異変の原因は、あなたですね」
「原因……?」
カインは笑う。
だがその笑いは歪んでいる。
「私は……ただ、国を強くしたいだけだ」
レオンが剣を抜いた。
「そのためにベルノアを壊すのか!」
「壊す?」
カインの瞳が揺れる。
「違う……救うんだ。弱いままでは、いつか奪われる」
ルカが静かに言う。
「それは、あなたの考えではない」
その言葉に、カインの表情が止まった。
「……何だと?」
セリスが前へ出る。
「地下の装置。香料。魔力誘導。
アルゼヴァルトの技術です」
空気が凍る。
「あなたは“選ばれた”のではない。
操られているだけです」
その瞬間。
地面がわずかに震えた。
カインの瞳が大きく揺れる。
「違う……私は……」
頭を押さえる。
「私は……!」
甘い匂いが強くなる。
魔力が暴走し始めた。
剣を構えるヴァル。
黒い髪がわずかに揺れる。
「来るぞ」
魔力が空間を歪める。
封印の魔力が反応している。
その時だった。
「……おやめください」
声が響いた。
カインの背後から、側近が進み出る。
年老いた男だった。
長く仕えてきたことが一目でわかる。
「旦那様」
「下がれ!」
「いいえ」
男は膝をついた。
「私は、あなた様に救われました」
カインの動きが止まる。
「幼い頃、家も名も失った私を拾い、
居場所を与えてくださったのは、あなたです」
静かな声。
「誰も知らなくても、私たちは知っています」
別の側近も前に出た。
「旦那様は……優しい方だ」
「我らを一度も切り捨てなかった」
「それがあなたです」
カインの瞳が揺れる。
「……やめろ」
「私は……そんなものではない」
「父上のようには……なれない」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
「父は天才だ」
声が震える。
「何もせずとも、すべてを成した」
「私は……何一つできない」
拳が震える。
「だから……成果を出さなければならなかった」
セリスが静かに言う。
「香りは、あなたの欲望を増幅する」
「不安も、劣等感も」
「だからあなたは“変わった”のではない」
「弱さを突かれただけです」
長い沈黙が続く。
「……私は」
カインの声が震え、その場に崩れ落ちる。
「認められたかっただけだ」
魔力の暴走が止まる。
甘い匂いが、薄れていく。
ヴァルがゆっくり剣を下げた。
レオンも続く。
ルカが言う。
「なら、今からやり直せばいい」
カインが顔を上げる。
「ここまでしておいて……今更不可能だ」
「できます」
ミレイが一歩前へ出る。
「人は、過ちから戻れます」
祈るような声だった。
「共に戦え」
レオンの視線がカインを捉える。
「真の敵は、アルゼヴァルトだ」
カインの瞳に、強い光が戻った。
封印の秘密——
「……封印は」
カインが言う。
「魔物を封じたものではない」
全員が息を呑む。
「“精霊を守るための檻”だ」
「アルゼヴァルトは、精霊を資源として利用する」
「封印の奥には……巨大な精霊が眠っている」
「それを兵器にするつもりだ」
空気が凍る。
セリスの瞳が大きく揺れた。
カインは続ける。
「30年前の侵攻も、それが目的だった」
ルカが静かに言う。
「つまり、今回も……」
「封印を解かせるための誘導だ」
カインは頷く。
「私は……そのための駒だった」
そう言うや否や「もう違う」と呟き、彼は立ち上がる。
「ルーコトスは、ベルノアと共に戦う」
カインのその声に
側近たちが深く頭を下げる。
ベルノアの地下に、決意が満ちた。
読んでいただきありがとうございます。
お盆期間ということで、8月13日〜8月16日まで毎日投稿いたします。21時頃予定です。
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