地下に響く鼓動
夜の街を駆ける。
灯りが揺れ、人々がザッと道を開ける。
不安と祈りの視線が背中に刺さる。
やがて、町の中心部の石造りの祠が見えてきた。
その地下へ続く階段の前には、すでに数人の神官が集まっていた。
そこだけ空気が違う。
重く、湿り、冷たい。
まるで生き物の呼吸のような気配が、地面の奥から漏れている。
レオンが歯を食いしばる。
「そんな……」
ルカが周囲を見渡す。
「侵食が加速している」
セリスの手がわずかに震える。
ヴァルがそれに気づくが、何も言わない。
ただ一歩、彼女の前に出た。
「行くぞ」
短い言葉だが
それだけで、全員の覚悟が固まる。
⸻
地下。
石の通路。
壁には古い精霊の紋様。
その一部が黒く侵されていた。
まるで墨が滲むように。
ミレイが息を呑み、わずかに震える。
「……精霊が、拒絶してる」
セリスが近づき、慎重に観察する。
「魔力の位相が反転しています」
レオンが振り向く。
「分かるのか?」
「完全ではありませんが……」
セリスは紋様に触れそうになり、手を止めた。
「このままでは封印が内側から崩壊します」
沈黙。
その時、低い振動が再び走った。
ゴォン……。
床が揺れる。
レオが声を上げる。
「やばいって!」
ビキビキビキッ!
黒い亀裂が徐々に速度を上げて紋様の間を走る。
リュシアンが剣を抜く。
「来るぞ」
影が、壁から滲み出た。
人の形をしているが、顔がない。
響く呻き声。
空気が一気に冷える。
戦闘は短かったが、激しかった。
リュシアンとレオンが前線を押さえ、
ヴァルとシアが影を切り裂き、
ルカ、レオとガルドが機動で攪乱する。
そして。
ミレイとセリス。
互いに距離を取ったまま、別々に支援していた。
だが——
一体の影が、横からセリスへ迫る。
彼女はギリギリまで気付けず、反応が遅れる。
攻撃を受けてしまうと思った瞬間。
「下がって!」
光が弾けた。
影が弾き飛ばされる。
ミレイの結界だ。
セリスは目を見開く。
「……ありがとう、ございます」
ミレイは視線を逸らしたまま言う。
「勘違いしないでください」
冷たい声の奥に、どこか柔らかさを感じる。
「今は協力しているだけです」
少し間を空けてから、続ける。
「……あなたが倒れたら、困るので」
セリスはわずかに息を呑んだ。
その言葉に、別の意味を感じたからだ。
戦闘が終わると
影は消え、地下に静けさが戻る。
しかし床の奥から、まだ鼓動のような振動が続いていた。
ルカが低く言う。
「根本を止めない限り、終わらないな」
リュシアンも頷く。
「敵は、かなり近い」
レオンがセリスを見る。
「……さっきの分析。もっと詳しく教えてくれ」
セリスは頷いた。
「はい」
その様子を、ミレイが横目で見る。
わずかに。
ほんのわずかに。
警戒の色が薄れていた。
読んでいただきありがとうございます。
次回はお盆期間ということで
8/13(木)21時頃に投稿いたします。
よろしければ、覗いていただけると嬉しいです。




