夜番の灯
夜風がセリスの頬をひんやりと駆け抜けていく。
町の外れの簡易の見張り台。
遠くにベルノアの温かい灯りが見える。
見張り台の脇では、小さな焚き火が静かに燃えていた。
セリスは装置の手入れをしている。
金属が触れ合う小さな音が、静寂に溶ける。
背後からザリっと足音が響いた。
ヴァルだ。
立ったままセリスの手元を見守る。
俯いたその黒髪の隙間から覗く青い瞳を優しく細めて、セリスに声をかけた。
「交代だろ」
「ええ。ありがとうございます」
夜風が先ほどよりも冷たく感じる。
セリスは、焚き火の揺れる光をぼんやりと見つめた。
オレンジの光が、その横顔に暗い影を落としていた。
焚き火が、小さく爆ぜる。
「……疲れてるだろ」
ヴァルが言う。
「問題ありません」
「嘘つけ」
セリスの左手が止まる。
「今日も、少し震えてた」
手に持っている装置をじっと見つめる。
「……見ていたんですか」
「まぁな」
静かな、けれど温かい声がセリスの耳元にそっと届いた。
爆ぜる火に煽られて、二人の影が地面に長く伸び縮みしている。
「……私が未熟だからです」
セリスは長い睫毛を伏せて瞳を隠した。
「判断も、経験も、……足りない」
焚き火の光が揺れる。
「それでいい」
ヴァルは青い瞳にオレンジの炎を映したまま、静かに、けれどまっすぐな言葉をかけた。
「未熟でもいい」
セリスが顔を上げる。
「足りないなら、伸ばせばいい。無理な時は仲間がいる」
一呼吸おいて、迷いながらも声に乗せて伝える。
どこか決まり悪そうに首筋を軽くさすり、少しだけ声を低くした。
「……俺も、いる」
風が吹き、焚き火の火が赤く揺れる。
その熱を帯びた光が、二人とあたり一面を、赤く照らし、夜の闇から浮かび上がらせていた。
「……ありがとう、ございます」
セリスの唇が小さく動く。
ヴァルは少しだけ目を逸らした。
「礼なんていらねぇ」
空にはいくつもの星々が、まるで二人を見守るように存在していた。
「……装置、見せろ」
「え?」
「仕組み、教えろ」
「興味が?」
「多少はな」
隣で装置を手に取り、見つめるヴァルの横顔を焚き火の灯りが淡くオレンジ色に縁取っていた。
ほんの少し距離が縮まる。
夜は静かに更けていく。
ベルノアの灯りが、遠くで静かに揺れていた。
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