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ベルノア・小さな感謝祭


夕暮れのベルノアは、普段よりも少しだけ灯りが多かった。


ささやかな祭りだが、そこここにポツポツと設置されているキャンドルの暖かな光が人々を歓迎している。


広場の中央に簡易の台が置かれ、周囲に小さな卓が並ぶ。

人々の笑い声も、子供の足音も混ざり、夜であることを忘れさせるような空気があった。


「本当にやるんですね……この状況で」


セリスが周囲を見回す。


リュシアンはその端正な顔を少し緩ませ、静かに答えた。

「こういう時だからこそ、だろうな」


ルカが肩をすくめる。

「不安に飲まれるよりはいい。ベルノアらしい」


レオはすでに人混みに突撃していた。

キョロキョロと配膳されている料理を物色している。

「うおー!これ全部食べていいの!?」


「お前は少し遠慮しろ!」

ルカのツッコミに、近くの町人が笑う。


料理はどれも素朴だった。


焼いた根菜。

香草のスープ。

干し肉と野菜の煮込み。

そして、最近ベルノアで栽培され始めたという果実を使った甘い菓子。


「この果実、レモーネって言うんです」


少女が黄色くて丸い果実をセリスに差し出す。


「最近取り入れたんです。

この土地に合うかどうか、みんなで試してて」


セリスの瞳が、キャンドルに照らされてキラキラと輝いた。

「品種改良ですか?」


「え?」


「……あ、いえ。とても合理的な……その、素晴らしい取り組みです」


言い直す様子に、少女はくすっと笑った。

「難しい事は分からないけど。ここで元気に育つなら、それが一番良いですよね」


手の中で爽やかな香りを放つレモーネを見つめながら、セリスは小さく頷いた。

「……そうですね」


理論ではなく、土地と共に生きる。

ベルノアの文化を、少しだけ理解した気がした。



少し離れた場所では、リュシアンが年配の男性と話していた。


「盾を使うのか。最近では珍しいな。」


「ええ。防ぐことで、守れるものも多いので」


「いい考えだ。この町もな、昔は何度も壊された」


男性は、修理された道具を指した。

「だが、直せばまた使える。人も同じだ」


リュシアンは静かに頭を下げた。

「……心に留めておきます」

真剣な眼差しで、道具を見つめている。



一方、レオはすっかり子供たちに囲まれていた。


「ねえねえ、魔法見せて!」


「いいよー!」


小さな光を夜空に浮かべる。

淡い光が、ゆっくりと広場の上を漂い、夜空にあたたかい光の橋をかけた。

子供たちがワッと歓声を上げる。


その光が、少しだけ広場の空気を軽くした。

人々の瞳に柔らかな光が映し込まれていた。


その様子を手のひらで小石をポンポンと弾ませながら、側で見ていたガルドが笑う。

「お前、人気者だな」


「でしょー!」


「……助かる」


その言葉は、軽く聞こえたが本音が入り混じっていた。



ルカは、少し離れた場所でザンブルと並んでいた。


「どうだ、町は」


「踏ん張ってる」


短いやり取り。

だが、そこには確かに見えない信頼があった。


ツムギが二人に飲み物を差し出し、柔らかく微笑む。

カランと氷の音が弾ける。

「無理はしないでくださいね」


ルカは受け取りながら、広場を見渡す。


ベルノアの人々。

仲間たち。

淡い光の中で、彼らが暖かい笑い声をあげている。


「守りてぇもんが増えちまったな」


ザンブルは鼻を鳴らした。

「最初からそういう顔してるだろうが」



少し離れた場所。


ヴァルは静かにその光景を見ていた。


家族の姿。

仲間。

笑顔。


「……悪くねぇな」


小さく呟いた。


その視線の先には、

町人と話すセリスの姿があった。


濃い青銀の髪がふわりと風で舞う。


少しぎこちないが、それでも笑っている。


ふとセリスと目が合う。


跳ねるように顔を背け、ヴァルは目を逸らした。


耳の後ろがじわじわと熱くなっていくのを感じる。



やがて、灯りが一つずつ消え、広場はゆっくりと静けさを取り戻した。


最後のキャンドルがフッと消える。

祭りは終わり、街は眠りについた。


大きな出来事はないが、そこには人の温もりが確かに残っていた。




読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

普段は毎週金曜日21時投稿となっておりますが、なろう異世界ファンタジーフェス!2026「夏休みチャレンジ★毎日投稿しよう!」の為、8/1〜8/5までは毎日21時に5日連続投稿いたします。

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