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境界の共闘


同じ夜。


花うさぎ亭の奥の小部屋。


レオンたち四人は、地図を囲んでいた。


森の北部。

農地の境界。

魔力流出の推定地点。


ガルドが腕を組む。


「外から来た連中、どう思う?」


レオンは視線を地図に落としたまま答えない。


代わりにミレイが静かに言う。


「実力はあるでしょう」


「けど?」


チラリと目線を送り、ガルドが促す。


「……信じきる理由はありません」


その言葉は淡々として冷たい余韻を含んでいる。


拒絶と慎重さが垣間見えた。


シアが小さく肩をすくめる。


「俺たちの町だ。俺たちで守るのが筋だろ」


レオンがゆっくりと口を開き、バンッとテーブルにペンを置く。


「所詮、よそ者だ」


部屋の空気がピリリと引き締まる。


「情報は共有する。だが、主導は俺たちだ」


誰も反対しなかった。


窓の外で風が鳴り、窓枠がわずかに振動する。


ベルノアは、自分たちの手で守る。


その思いに、迷いはない。


だが——


その決意が後に揺らぐことを、まだ誰も知らない。


———


森の奥は、異様な静けさに包まれていた。


風がなく、葉さえも揺れない。


「……静かすぎるな」


レオンが低く呟いた。

先頭で剣と盾を構え、周囲を警戒している。


その背後に、ミレイ、シア、ガルドが続く。


「最近はこんなもんだろ。魔獣が増えてるって話もあるしな」


ガルドは軽く言うが、声に余裕はなく周囲を警戒している。


「だからこそ慎重に進むべきです」


ミレイが言う。


だがレオンは首を振った。


「時間がない。農地の異変が進めば町が持たない」


その言葉に、誰も反論できなかった。


焦りは、全員が共有している。


「……あいつらに任せるつもりはない」


ぽつりと、レオンが続ける。


実力は認めている。


だが——。


「ベルノアは俺たちの故郷だ。俺たちで守る」


ミレイは目を伏せる。


シアは何も言わず、短剣を持つ手に力を入れた。


ガルドだけが小さく息を吐いた。


「……無茶すんなよ、リーダー」


その時だった。


地面に、かすかな違和感が走る。


シアが立ち止まり、片手で制す。


「待て」


全員が止まる。


「どうした?」


「……魔力の流れがおかしい」


シアが地面を見つめる。


その瞬間。


地面が光った。


「罠!」


爆音と共に土が弾け、視界が揺れる。


「散れ!」


レオンが叫ぶが、一歩遅かった。


衝撃で隊列が崩れる。


ミレイが倒れ、ガルドが転がる。


「くそ……!」


煙の中から、低く重い唸り声がして、圧倒的な存在感を叩きつける。


現れたのは、獣型の魔獣。


だが、普通ではない。


体表が歪み、黒い魔力が禍々しく滲んでいる。


「変異個体……!」


ミレイがなんとか身体を起こしながら息を呑む。


「想定外だぞ!」


ガルドが叫ぶ。


魔獣が突進する。


レオンが盾で受け止める。

だがその凄まじい衝撃に、地面に二本の線を描きながら後退する。


「なんて重さだ!」


「後ろ、来る!」


二体目。


三体目。


「数まで異常かよ!」


シアが短剣を向ける。


だが、隊列が整っていない。


本来なら盾・攻撃・補助が連動するはずだ。


しかし——。


一人、足りない。


わずかな隙。


それが致命的になる。


魔獣の爪がレオンの肩を裂く。


「ぐあっ……!」


「レオン!」


ミレイが駆け寄ろうとした瞬間、別の魔獣が回り込む。


「まずい!」


ガルドが援護に入るが間に合わない。


「下がれ!」


レオンが肩を押さえ、息を荒げながら叫ぶ。


その時。


シアの目が鋭く細められた。


「……囲まれる」


四方に次々と変異個体が現れる。


逃げ道がない。


「……くそ」


レオンが歯を食いしばる。


「まだだ。ここで終わるわけには——」


魔獣が一斉に動いた。


次の瞬間。


森に、鋭い金属音が響いた。


ガキンッ!!


——魔獣の爪が弾かれる。


「何っ——」


レオンが目を見開く。


次の瞬間、風と共に黒い影が駆け抜け、目の前の魔獣が悲鳴を上げた。


真っ二つに裂けた魔獣の向こうから、その姿が現れた。


「どけ」


低い声。


ヴァルだった。


動きに迷いがない。

双剣が閃き、2体目の変異個体の脚も正確に断つ。


「正面は俺が受ける!」


別方向から、重い盾の衝突音。


リュシアンが滑り込むように入り、負傷しているレオンの前に立つ。


盾と盾が、まるで入れ替わるように並んだ。


「……下がれ」


リュシアンの声は静かだが、力強い。


レオンは一瞬だけ迷い——歯を食いしばって退く。


その判断の速さは、さすがだった。


「右二体、動きが鈍い!」

セリスの声が飛ぶ。


装置が起動し、足元に展開された魔力陣が魔獣の動きを縛る。


ミレイが息を呑む。


理論式の展開速度。

正確な補助に、一瞬、瞳が揺れる。


「今だ!」


ルカの号令。


レオとガルドが同時に踏み出す。


「そっち任せた!」

「おうよ!」


炎と斬撃が交差する。


陽気枠同士ならではの見事な呼吸の一致だった。


その横で、シアがヴァルを見る。


無言。


だが視線は明確だった。


——こいつ、使える。


ヴァルもまた、視線だけで返す。


——無駄がないな。


二人が同時に踏み込む。


言葉はない。


だが、同じ魔獣の死角に入り、同時に急所を断つ。


変異個体が崩れ落ちる。


最後の一体がリュシアンの盾に弾かれ、レオンの剣がそれを貫いた。


静寂が訪れ、森に荒い呼吸だけが残る。


⸻


「……助かった」


レオンが肩を抑えながら顔を歪め、低く言った。


その声には悔しさが滲んでいる。


ルカは肩をすくめる。


「先走るなって言いてぇとこだが、無事ならいい」


リュシアンがレオンを見る。


「焦りは理解します。だが、守るには持久も必要だ」


その言葉は、責める調子ではなかった。


レオンは短く笑う。


「……あんた、冷静すぎるな」


「よく言われます」


その空気を、レオがぶち壊す。


「ていうかさ」


みんなの視線が向く。


「四人組なの?珍しいね」


森の空気が、少しだけ止まる。


ガルドが苦笑した。


「……そりゃ、バレるよなぁ」


レオンが一瞬迷い、そして答える。


「一人、離脱中だ」


「怪我とかですか?」


セリスが静かに問う。


「骨折。農地の調査中にな」


その言葉に、全員が理解する。


焦っている理由。


連携のわずかな綻び。


「本来は通常通り五人です。今は無理してます」


ミレイが静かに言う。


レオが小さく頷く。


「そっか」


軽い声だったが、茶化さない。


リュシアンが言う。


「それなら余計無茶は厳禁だ。町へ守る前に君たちが壊れたら意味がない」


レオンはしばらく黙り——


そして、視線を上げる。


「……あんたらのこと、正直信用してなかった」


まっすぐな声が響く。


「所詮、よそ者だと思ってた」


自分のパーティメンバーに視線を配りながら言った。


「だが、今は違う」


ミレイがほんの一瞬だけ、セリスを見る。


疑いと、戸惑いと、揺れが含まれた視線。


セリスは気づかない。


だが、ヴァルは気づいていた。


ほんのわずかな、視線の硬さに。


ヴァルは何も言わずに小さく息を吐く。


セリスの横顔を見守りながら——。


森の奥は、まだ静かだ。


五人と四人を森がぐるりと囲み

少しだけ、境界が薄れていた。




読んでいただきありがとうございました。評価いただけると励みになります。

毎週金曜日21時頃更新予定です。

よろしくお願いいたします。

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